第195話 新たな剣とともに
泡を吹いて倒れた店主は起き上がると、未だ信じられないような表情で家宝だったという剣に触れた。
「こ、こんな……誰にも真似できねぇような造りの剣が失敗作?そんなわけねぇ……き、きっと何かの間違いだ!!」
「残念ですが、間違いではありません。本物であれば……永劫使おうとも、壊れるという事象は起こりえませんから。」
「こ、これだって壊れねぇはずだ!!オリハルコンだってスッパリ切れる剣だぞ!?」
「硬い物を切ることができる……それだけでは耐久性の証明にはなりません。」
店主の言葉をことごとく切り捨てるナイン。
「刀匠レギンが完成品として世に出した剣は2本……。それはかつて剣聖と呼ばれたアリスがそのうちの一本を。」
「も、もう一本は?」
「もう一本の行方は判明していません。誰の手に渡ったという記録もありませんし、可能性として考えられるのは……誰かその剣を持つに相応しい者が現れるまで、どこかで眠っているか……。」
「…………。」
ナインの言葉に店主は黙りこむ。そして少し時間を置くと、俺の方を向いて口を開いた。
「兄ちゃん、あんたは……こいつが失敗作って聞いても使いてぇって思うか?」
「はい。」
「……わかった。ならこいつはあんたに託す。」
剣を鞘に納めると、店主は俺にそれを託してくる。
「ただ、約束してくれ。そいつを使って……レギンが造った完成品の剣を探してやってくれ。」
「それだけでいいんですか?」
「あぁ、ご先祖様も失敗作を家宝として崇められてちゃあ面子が立たねぇ。なんなら使い潰してもらった方がきっと喜んでくれるさ。」
「それじゃあ……ありがたくいただきます。」
「おう!!」
俺がその剣を受けとると、ナインが店主に向かって言った。
「何か大きな図面が書けそうな紙はありませんか?」
「あるにはあるが……いきなりなんだ?」
ナインに言われるがまま、店主は大きな紙を持ってきた。
ナインはそれにサラサラとペンで何かを書き記していく。そして完成した何かを店主に手渡した。
「こいつは……?」
「その剣をいただいたお礼です。刀匠レギンが完成品として剣聖アリスに手渡した剣の設計図です。」
「な、なんだって!?」
「まぁ、あなたにそれが造れるかどうかはわかりませんが……。試してみる価値はあるのでは?」
「こいつはまたとんでもねぇもんを……。ってかなんであんたがこんなもんを知ってんだ!?」
「生憎詳しい素性は語れません。私はこの方の従者であり守護者。それだけです。さてマスター、そろそろ行きましょうか。」
そして俺は最後に店主にお礼を一言告げてから、ナインと共に店を出た。
「マスター、それでは早速その剣の試し切りに行きましょうか。」
「俺もナインみたいにやれるかな?」
「今はまだ……無理かもしれませんね。ですが、目の前の物を斬ることには苦労しないでしょう。」
そして人通りの少ない路地へと移動した俺達。すると、ナインは突然機械仕掛けの剣を取り出して空間を切り裂いた。
「さぁマスター、行きましょう。」
「……ちなみにこの先は?」
「鉱物系の魔物がいる場所に繋がっています。」
説明を終えると、ナインは安全を確保するために先に切り裂いた空間の中へと入っていく。それに続いて俺も中に入ると、ナインの切り裂いた空間はゴツゴツとした岩肌が露出した場所へと繋がっていた。
「マスター、ここならば思う存分その剣を振るえるかと。」
「確かにな。」
そんなことをナインと話していると、周りの岩が一ヶ所に集まり始め何かの形を象っていく。
「マスター、ゴーレムです。」
「わかってる。」
「構成物質は鉄と銅……そしてミスリルが少々。試し切りの相手にはもってこいですね。」
「やってみるか。」
俺は剣を鞘から抜いて構える。
「マスター、普段の基礎訓練通りに扱って下さいね?」
「わかってる。」
完全体となったゴーレムは即座にこちらを敵と認識すると、その巨体から攻撃を繰り出してきた。
俺はその攻撃を足を半歩動かして紙一重で避けると、ゴーレムの懐に潜り込む。
「ふっ!!」
そしてゴーレムの胴体から左肩へと向かって剣を薙ぐ。すると、手に何かを通り抜けた感触が伝わってくる。明らかに硬い物を切ったような感触ではない。が、次の瞬間……ゴーレムは両断され、またバラバラになった。
「すごいな、鉱石を切ってる筈なのに伝わってくる感触は雲を切ってるみたいだ。」
「よい動き、そして剣閃ですマスター。」
「まぁナインに鍛えられてるからな。」
「ですがまだまだです。幸いゴーレムはまだまだいます。どんどん斬りましょう。」
「はは……わかったよ。」
そして俺は無尽蔵に湧いてくるゴーレムで、この剣の試し切り兼、今までナインに教わってきたことの復習、実践をすることになったのだった。
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