第194話 最高の剣を


 結局案内してもらった倉庫の中に並べられていた剣をナインは全て見て回ったが……どうやら彼女が納得するような品は無かったらしい。


「これもダメですね。不純物が多いです。」


「くぅっ……お、俺様の自信作が……。」


 ナインのダメ出しを喰らい続け、もはや泣き出しそうになっている店主。


 彼女は全然ダメだと首を振っているがそんなに粗悪なものなのだろうか……。


「なぁ、ナイン?」


「はいマスター?」


「ここの武器ってホントに全部ダメ……なのか?」


「普通の剣士が使うのであれば十分な品揃えでしょう。しかし、マスターやナインが扱うとなれば話しは別です。先ほどご覧にいれたと思いますが、今教えている剣術を完全に会得した場合……こういう不純物が混じった剣では持ち主の振るう力に耐えられないのです。」


「そういうもん……なのか。」


「そういうものなのです。」


 まぁ、さっき実際にナインは軽く剣を振っただけでそれをへし折ってたからな。


 過ごし納得していると、店主がナインに問いかける。


「なぁ姉ちゃん?そのさっきから言ってる不純物ってのはなんなんだ?ここに置いてある刀剣はミスリルや魔力鉄だけで作ったもんばっかだぞ?素材を合わせて打つなんてことはしてねぇ。」


 その店主の言葉にナインはコクリと頷く。


「確かに純ミスリル製と純魔力鉄によってできた剣だというのはわかっています。一つ聞きますが……ミスリルの剣を打つ場所と、魔力鉄の剣を打つ場所はどこですか?」


「あそこの中だ。」


 店主が指差した先には大きな窯が二つ並んでいる。それを見たナインは何か納得したように頷く。


「一見……純ミスリルでできているこの剣。しかし、濃い魔力を注ぐと……。」


 ナインはおもむろに手にした剣に濃密な魔力を籠めていく。すると、剣の刃の至るところに点々と薄紫色に光る何かが埋め込まれているのがわかる。

 それを見た店主の顔色が変わった。


「なっ……そ、そりゃあまさか魔力鉄の粒子か?」


「その通りです。魔力鉄は融かした際に空気中に微細な魔力を放出します。それが剣を打つ時に入り込み不純物と化しているのですよ。」


 その説明に納得する店主だったが、俺にはイマイチ、ピンとこない。


「ナイン、つまり……どういうことなんだ?」


「マスター想像してみてください。一切の隙間のないレンガと、所々に空気が入り込み空洞ができているレンガ……どちらが脆いですか?」


「まぁ、後者だろうな。」


「この剣もそういうことなのですよ。」


「ほぉ~……。」


 難しいんだなこの世界の刀鍛冶ってのも……。そんなことを思っていると、ナインはクルリと踵を返した。


「それでは、ここには求めている品物がないようですので……失礼します。行きましょうマスター。」


 そうして店を後にしようとした俺達だったが、突然後ろから呼び止められる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


「…まだなにか?」


「一つだけ……一つだけ見てもらいてぇもんがある!!」


「もう見るべきものは見ましたが?それに、あなたの造る剣では…………。」


「いいや!!見てもらいてぇのは俺様が作った剣じゃねぇ……。」


「……あなたが造った剣ではない?」


「あぁ、何代も前……伝説って呼ばれてた俺様の先祖が造った最高傑作……俺様の家に家宝として受け継がれてきた剣がある。」


「……刀匠レギンの造った剣……ですか。」


「っ!!姉ちゃん、俺様の先祖を知ってんのか!?」


「刀匠レギンの造った剣は有名ですから。」


 二人の会話に俺はさっぱり着いていけない。兎に角その刀匠レギンって人が凄い人ってのはわかるが……。


 そして店主は店の奥に引っ込むと少し埃を被った鞘に入った剣を俺達の前に持ってきた。


「こいつだ。見てみてくれ。」


「お借りしましょう。」


 そっとナインはそれを受けとると、剣をゆっくり鞘から引き抜いた。すると姿を現したのはまるで日本刀のような造形の剣。


「振ってみても?」


「構わねえ。」


 そしてキョロキョロと辺りを見渡すとナインは店主に言った。


「……広い場所がいいですね。」


「わかった、こっちだ。」


 俺達は店の裏手へと案内される。するとそこには広い敷地があり、藁か何かで作られた人のような人形のようなものもいくつか置いてあった。


「ここは試し切り専用の場所だ。ここなら思い切りそいつを振れるだろ?」


。」


 確証がないといった様子でナインはそう言うと剣を構えた。


「参ります。」


 その言葉を合図にナインが剣を横凪ぎに凪ぎ払った次の瞬間……。


 ザンッ!!


 彼女はなにもない場所に剣を振るったはずだったのだが、その剣が通った剣筋の正面にあったものが全て真っ二つに切り裂かれていた。

 それは藁の人形だけにとどまらず、奥の奥……家と家を仕切る塀までも真っ二つにしてしまっていたのだ。


 ナインはその剣を鞘に納めるとコクリと一つ頷いた。


「この剣ならば数年は持つでしょう。」


「数年!?」


「えぇ、何せこれは……刀匠レギンが造ったですから。」


「な、なにぃ!?!?」


 驚愕の事実を告げたナインの隣でついに店主が泡を吹いて倒れてしまった。

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