第193話 武器屋へ


「マスター、本日の訓練は終了です。お疲れさまでした。」


「ぜぇ……ぜぇ……今日も終わった……のか。」


 スリーとの訓練を終えた俺はトレーニングルームの床に寝転んだ。今日の訓練はいつもよりもハードだった。というのも途中でナインが加わり、剣術の訓練もすることになったのだ。スリーとナインの二人がそろった訓練は普通の時よりもかなりハードなのだ。

 まぁそのおかげで最近何とか少しずつ剣の腕は上がってきている気はするが……何せ試している相手がナインだ。俺の剣は彼女の体に掠りすらしない。それどころかダメ押しをされながら手痛い反撃を喰らう。


 ようやく息を整えた俺が立ち上がろうとすると、ナインが声をかけてきた。


「マスター、今日の剣は今までで一番良かったですよ。」


「はは、それでも掠りすらしなかったけどな。」


「ナインの性能を甘く見てもらっては困ります。昔に剣聖と呼ばれていた人物の剣技をコピーしておりますので。」


「じゃあ俺もその剣聖って呼ばれてた人の剣を学んでるってことなのか?」


「間接的にではありますがそういうことになりますね。」


「ほぉ~?」


 それは尚更やる気が出てきた。……だが、果たしてその剣聖と呼ばれていた人物に俺は届くことができるのだろうか?ナインがその人物の動きを完璧にコピーしているのだとしたら……まだ掠りすらしない俺がその高みに上り詰めるのはとんでもない時間と労力が必要そうだな。


「はは、どおりで攻撃が掠りすらしないわけだよ。さすがに剣聖には勝てないな。」


「そんなに悲観的にならなくても問題ありませんよマスター。並みの剣術使い相手であれば問題なくマスターは倒せるぐらいには成長していますから。」


「そうか?」


「スリーもそれには同意見ですマスター。」


 スリーもナインの意見に同意見らしい。そんなに成長しているだろうか?いまいち実感が湧かないが、二人がそういうのならそうなのだろうか。


「マスター、ここで一つ提案なのですが……資金に余裕がある今、試しに剣を購入してみてはいかがでしょうか?」


「剣をか?俺にはこいつがあるぞ?」


 俺はナイフのアーティファクトを取り出して彼女たちに見せた。すると二人は冷静に言う。


「確かにそのアーティファクトは強力なものには違いありません。ですがマスター、魔力が無くなったら、そのアーティファクトはただのちっぽけなナイフにしかならないのですよ?」


「う、た、確かに。」


「それを考えると、一本剣は買っておいた方が良いかと。それにこれから先拳では太刀打ちできない魔物も現れるかもしれません。その時のためにも武器を一つ買っておくことをお勧めします。」


「ふむ……そうだな。」


 じゃあ、この後ちょっと武器屋でも覗いてみるか。


「でもどんな武器がいいとかよくわかんないんだよな。」


「それでしたら問題ありません。ナインが同行します。」


「良いのか?」


「問題ありません。本日の業務のほとんどは終わっておりますので……。」


「ならいいんだけど。」


 そして訓練を終えた俺はナインとともに俺は城下町へと向かうと、武器屋へと入った。


「いらっしゃい……。」


 店に入った俺たちを迎えたのは無骨そうな雰囲気の店主だった。


 店の中を見渡してナインは首を振ると、店主に話しかける。


「ここに並んでいる武器以外にもありますよね?」


「……。どうしてそう思うんだ?」


「この店に並んでいるのは防錆を施したなまくらばかり、実用的なものは一つもありませんでした。」


「ほぅ?武器を買いに来たのはそこの兄ちゃんじゃぁなくあんただったってわけか。」


 そう察した店主だったが、ナインはあっさりと彼の言葉に首を振った。


「いいえ、マスターの武器を買いに来たのです。」


「……ふん、そうか。まぁいい、着いてきな。」


 じろりと俺のことをにらんだ店主は俺たちを店の奥へと案内する。そして倉庫のような場所へと連れてこられると、店主は南京錠で施錠された扉を開け放つ。するとその中には俺でもわかる……明らかに先ほど店に並んでいた武器とは違う雰囲気を放つ武器たちが数多く並んでいた。


 その武器を眺めてナインはポツリと呟く。


「なるほど、ここにある武器ならば……まぁ使えるでしょう。」


「ずいぶん上から言ってくれるじゃねぇか姉ちゃん?あんたの実力はそれ相応なんだろうな?」


 そう疑った店主はナインに一本の細身の剣を手渡した。


「こいつを振ってみな。」


「……これをですか?」


「あぁ。あんたの腕が見てみたい。」


「破壊してしまっても良いなら振りましょう。」


「大した自信だな。やれるもんならやってみな。」


 自信ありげにそう言い放った店主の前でナインはその剣を構えると、軽く振るった。すると、彼女が握っていた剣が根元からぽっきりと折れてしまったのだ。


「な、なにぃ!?」


「この程度の強度では足りません。」


 折れた刃を彼女は拾い上げると、指先で刃の部分を弾いていく。すると面白いように刃がかけてボロボロになっていった。


 それを見て店主は唖然としている。


 最初からとんでもないことをやらかしていくナイン。果たしてこんな調子で俺は武器を入手することができるのだろうか……。心配になってきた。


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