第192話 読心のクリスタ


 厨房へと向かってクリスタに食べられないものなどはないか?と問いかけると、彼女はゲテモノではなければ問題ないと答えた。意外にも肉や魚も彼女達エルフは食べれるらしい。菜食主義っぽい……という印象は偏見だったようだ。


 そしていざクリスタに朝食を振る舞うと、ここで初めて料理を作った時にアルマ様が浮かべていたような驚いた表情を浮かべる。


「……!!何ですかこれは……こんなに美味しい料理があるなんて。」


「美味しいでしょ~?カオルの料理は世界一美味しいんだよ?」


「うむ、間違いないな。我もこやつの作る飯に魅かれたからここにいるのだ。」


 驚くクリスタに誇らしそうにアルマ様とラピスは言った。


「是非とも作り方を教えてほしいですね。レシピのようなものは無いのですか?できればルビィにも作れるように簡潔にまとめているものが良いのですが……。」


「レシピは今自分用の物しかないので……後で書き直したものが出来上がったらでいいですか?」


「もちろん構いません。お願いしているのはこちらですから。」


 そしてあっという間に朝食を食べ終えたクリスタは満足そうな表情を浮かべて口元をナプキンで拭った。


「ごちそうさまでした。大変美味しいお料理でしたよ。こんなに美味しいものを毎日食べられるなんて皆さんは幸せですね。」


「それでクリスタさんはこれからどうするんです?」


 朝食を食べ終えた彼女に俺は問いかけてみた。


「今代魔王のお顔も拝見できましたし、一度集落に帰ろうかと。また近いうちに顔を出しますよ。ジャックと貴方ともいろいろお話しなきゃいけないことがありますからね?」


「「ギクッ!?」」


 彼女の言葉に俺とジャックは凍り付く。特にジャックの方は冷や汗まで流している。


「それではまた……今後のご活躍を期待しておりますよ。」


 そうアルマ様に告げると、彼女は魔法陣の光に包まれて消えていった。


「あ、行っちゃった。もうちょっとゆっくりしてけばいいのにね~。」


「きっと忙しい人なんだよアルマちゃん。」


 そう話す二人だったが、俺の隣にいるジャックは少しほっとしているようだ。


「さ~てとっ!!カナン、メア今日も依頼受けに行くよ~!!」


「む、おぬしらだけではまだいかんぞ。我も行こう。」


「ラピスは心配性だなぁ~、もうアルマたちだけでも大丈夫だよ。」


「いかん!!おぬしらに万が一があっては困るのだ。」


 そう言ったラピスは前よりもアルマ様たちの保護者という存在の自覚が芽生えてきているようだ。まぁこれは良いことだな。ラピスはアルマ様たちに付き添うとともに、自分でも軽い依頼をこなして家賃を払ってくれているし、それにジャックから最近はアルマ様たちの目付け役としての給料も貰ってるみたいだ。


 そしてアルマ様たちはギルドへと向かって行った。取り残された俺とジャックはほっと一つため込んでいた息を吐き出した。


「ふぅ~……相も変わらず心の内を覗かれるのは緊張いたしますなぁ。」


「下手に考え事もできませんからね。クリスタさんは昔から他人の心が読めたんですか?」


「クリスタは幼いころからあのスキルがあったようです。そのせいで人間達に襲撃にあった時にはいろいろな感情が見えてしまって鬱になった時期もあったとか……。」


「心を読めたら便利だって思いましたけど、意外と知りたくないことも知っちゃいそうで辛そうですね。」


 実際俺がそのスキルを使えたらどうなっていただろうか?いろいろな人の心の声が聞こえたら……その声に自分の心が圧し潰されてしまうのではないだろうか。


「以前あった時に彼女は聞きたいものの声だけを聞けるようになったと言っておりましたな。スキルもやはり熟練度が上がれば使い勝手が増えるのでしょうな。まぁしかしそれも長寿のエルフの彼女だからできたことなのかもしれません。」


「ちなみに長寿って言いますけど、エルフってどのぐらい長生きするものなんです?」


「私の知っている限りでは最大で1000年生きたエルフもいたとか……。」


「1000年!?!?」


 人間の寿命の10倍!?とんでもないな。それでいてさっきの話を聞く限り、不老っておまけつきか。若い美しさを保ったまま長生きできる……それは人間が求めてやまない理想の姿ともいえるかもしれない。


 驚いていた俺のもとにスリーが訪れる。


「マスター訓練の時間です。」


「もうそんな時間か、ジャックさんそれじゃあ……失礼します。」


「えぇ、頑張ってください。」


 そして俺はジャックに別れを告げてスリーとともにトレーニングルームへと向かう。

 

 一方取り残されたジャックが業務へと戻ろうとしたその時、彼の背後から声が聞こえる。


「フフフ、やっと二人きりになれましたねジャック?」


「~~~っ!?!?」


「さぁ、あなたの罪を……業を、聞かせていただきましょうか?」


 

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