第191話 クリスタの意外な素性


 表情を凍りつかせながら、ジャックはアルマ様の部屋へと入っていった。それから少しすると、扉からアルマ様がひょっこりと顔を出す。


「あ、カオル!!と……お姉さんは?」


「フフフ、初めまして今代魔王。わたくしはエルフの長クリスタと申します。」


「えっと……魔王のアルマだよ?それで、何の用でここに来たの~?」


「一目お顔を拝見しに参りました。」


 そうアルマ様とクリスタが話していると、アルマ様の後ろからカナンとメアも姿を現す。


「わっ……エルフだ。ボク初めて見た。」


「っ!!クリスタっ!!」


 クリスタの姿を目にしたメアはアルマ様とカナンを押し退けて彼女の前に立つと言った。


「おや、幻獣様ご要望通り大きくなられたようで……安心しました。」


「確かに体は大きくなった。でも問題があるの。」


「……??問題……でございますか?」


「うん、耳貸して。」


 すると、メアはクリスタの長い耳元でボソボソと何かを囁き始めた。そしてメアが話し終えると、クリスタはクスリと笑う。


「フフフ、なるほど。そういうことでしたか。」


「すっっっごく困ってる。」


「それを解決するのはわたくしの秘薬を使えば簡単なことですが……それではきっと、最終的に幻獣様が求めているものには近づけないかと。」


「どういうこと?」


 首をかしげるメアに、今度はクリスタが耳元で囁いた。すると、メアは目を輝かせる。


「それホント?」


「えぇ、間違いございません。」


 にっこりと笑うクリスタ。しかし、彼女は次のメアの発言で表情が凍りつくことになる。


「でも、クリスタ……まだ穢れてない。」


「ギクッ!!??」


「穢れてないのにそういうのわかる?」


「ふ、フフ……わ、わかるんですよ?こ、これでも永い時を……永い時を独りで(ボソボソ)。」


 どうやらメアの発言はクリスタの心にクリティカルヒットしたらしく、一撃で彼女のメンタルをへし折ってしまったようだ。

 そしてメアの発言から、クリスタが今の今まで異性とそう言う関係を持ったことがないという事実も露呈してしまう。


(あんなに大胆なことするのに……まさか独り身だったとは、意外…………っ!?)


 思わず口には出さずとも心のなかでそう思ってしまった俺をクリスタはジロリと見つめてきた。


 そして冷たい笑みを浮かべた彼女は俺の耳元でポツリと囁く。


「後で……ゆっっっっくりお話ししましょう……ね?」


「あ、あの拒否権とかは……。」


「もちろんありません。」


 俺が心底あれを心のなかで思ってしまったことを後悔していると、アルマ様がクリスタに向かって言った。


「あ、そうだ!!クリスタ、今からアルマ達朝ごはん食べるんだけど……一緒に食べる?」


「是非、ご馳走になります。」


「じゃあこっち!!アルマ達についてきて~。」


 そしてクリスタは俺に一礼するとアルマ様達の後についていってしまった。


 そこに部屋の中からジャックがようやく姿を現した。


「カオル様、一つアドバイスですが……クリスタは他人の心の中を読むことができるスキルを持っていますので、心の中の言動にも気を付けた方が良いかと。」


「はは……それ言うの遅いです。」


 彼の言葉に乾いた笑いしかでてこない。まぁ、完全に俺の不注意が招いた結果だが、この後俺はどうなってしまうのだろうか……。


「それに加えて、クリスタは私が知っている頃よりも更にそのスキルの練度が上がっているようですので……心のさらに内側まで覗きこまれてしまうようですぞ?」


「さっきジャックさんの女性経験が見抜かれてたのはそれが原因ですか……。」


「まぁ恐らくはそういうことですな。あれには流石の私も驚きました。」


 苦笑いを浮かべながらジャックは言う。


「それにしても、まさかメア様が大きくなった理由がクリスタにあったとは……縁というのは繋がっていないようで、どこかで繋がるものですな。」


「俺は一番ジャックさんが子供の頃にあのエルフの集落を訪れて魔族との架け橋になってたってのが驚きでしたけどね。」


「ホッホッホ、昔の話です。さて、魔王様たちがお待ちですからそろそろ私達も行きましょうか。」


「そうですね。」


 そういえば、エルフの人達って普通に肉とか魚とかも食べれるのか?菜食主義みたいな感じだったらちょっと厄介だが……。まぁそれはあっちにいって聞いてみようか。


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