第183話 鯨の魔物の正体
収納袋からヤツを引っ張り出すと、案の定部屋の中には収まりきらず、尻尾が部屋の扉を突き破り外に出てしまった。
「あ……やっぱり。」
「あ、やっぱりじゃないよ~!!??ちょっと、これなに!?」
規格外の大きさにリルも驚きを隠せていない。酒の酔いも一発で覚めてしまったことだろう。
「いやぁ……ダイミョウウオを倒したときに現れた魔物なんですけど。リルさんこいつがなんだか知りません?」
「う~ん、そう言われてもねぇ。」
少し困りつつも、リルは真剣な眼差しで鯨の魔物の顔や体をぐるりと見て回る。
「私も長いこと魔物ハンターとしてやってきたけど、こんな魔物は見たことないや。……ちょっと時間もらえるかな?ギルドにいる解体師とかにも聞いてみるよ。上で待ってて?」
「お願いします。」
そして俺はカナンとともにギルドの酒場へと向かい、椅子に腰かけた。
「カナン、何か飲むか?」
「あ、じゃあボクはこのジュースでお願いします。」
「はいよ。」
各々ドリンクを頼んでそれを飲みながらリルの報告を待っていると、ギルドにある人物が現れた。
「おや?なんだい今日は早いじゃないかカオル。それにカナンも一緒かい。」
「あ、カーラさん!!お久しぶりです!!」
飲みかけのドリンクをテーブルの上に置くと、カナンはカーラに向かって歩み寄っていった。
「あぁ久しぶりだねぇカナン。元気でやってるみたいで何よりだよ。」
大きな手でカナンの頭をわしゃわしゃと我が子のように撫でたカーラは、俺達と同じテーブル席に腰かけると、あることを問いかけてきた。
「そういえば、リルのやつはどこだい?もう仕事は終わってる時間のはずだけど。」
「あ、リルさんにはちょっと魔物の鑑定をお願いしてました。」
「魔物の鑑定?なんだい、新種の魔物でも倒してきたのかい?」
「新種なのかはわからないですけど……兎に角今までリルさんは見たことがない魔物だって言ってました。」
「へぇ……そいつはアタシも気になるねぇ。魔物の鑑定ってことは地下でやってるんだろ?」
「はい。」
「ちょっと覗いてこようかねぇ。」
「あ、ボクも一緒に行きます!!」
そう言って急いで頼んだドリンクを飲み干したカナンは、立ち上がるとチラリとこちらに視線を送ってきた。
俺も一緒に……ってか。まぁ、ここでちびちび飲み物を飲んでるよりも皆で下で話しながら魔物を見てたほうが楽しいか。
「俺も一緒に行きますよ。」
そして三人でギルドの地下へと降りていくと、早速扉を突き破って外にはみ出している尻尾が見えてきた。
「……あの尻尾は魚の魔物?なんで部屋の外に出てんだい?」
「ちょっとデカすぎて部屋の中に入りきらなかったんですよ。」
「は!?あの部屋の中にかい!?」
「はい。」
「あの部屋相当広いはずなんだけどねぇ。奥行きもあるはずだし……それよりもデカいヤツを倒したって……いったいどんな化け物を倒したんだよ。」
「ちなみに倒したのは俺じゃなくカナンですよ。」
「ははぁ……流石は勇者だねぇ。頑張ったじゃないか。」
「えへへ……。」
またわしゃわしゃと頭を撫でられながらカナンは少し嬉しそうな表情を浮かべる。
そしてカーラは部屋の中を覗き込むと、思わず息を飲んだ。
「うわ……なんだいこのデカブツは……。」
「あ、カーラ来たんだ~。それにキミ達も戻ってきたんだね。」
部屋の中にはリルと、その他に何人かギルドの職員の姿があった。
「カオルから興味深い話を聞いてねぇ。にしてもずいぶんデカい魔物じゃないか。」
「でしょ~?まさかこの部屋からはみ出る魔物がここに運ばれてくるなんて思ってないよね~。拡張が必要かな?」
「ま、ギルドの資金に余裕があるならやっといたほうがいいんじゃないかい?それよりも、こいつがなんなのかわかったのかい?」
「んーとね、断定はできないけど……もしかすると
「「「ラースホエール?」」」
俺とカナン、そしてカーラの三人は聞いたことのない魔物の名前に思わず首をかしげる。
「聞いたことないのも無理はないかも。だってもしコレがラースホエールだとしたら……最後に討伐された記録があるの500年前だから。」
「500年前!?そんな昔の記録よく掘り出したねぇ?」
「ギルドで大切に保管してたからね~。ほら、ここに描いてある魔物に似てない?」
そう言ってリルが差し出してきた紙には目の前に横たわっている鯨の魔物と酷似した魔物の絵が描かれていた。
「……確かに似てるねぇ。特徴も一致してる。」
「カオルくん、この魔物少しの間ギルドで預かってもいいかな?」
「全然大丈夫ですよ。」
「もしかするとこれは500年ぶりの快挙かもしれないからね、然るべき機関に調べてもらうから。」
500年ぶりの快挙か……もしかすると俺達は……いやカナンはとんでもない魔物を討伐したのかもしれないな。
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