第182話 城へと戻る前に


 店主の鼻を明かした俺とカナンは、この海街で銭湯を見付けると体を洗って、陽が暮れる前に帰路についた。


 城下町につくまでの道程の間、ふとカナンに気になったことを問いかけてみた。


「そういえば、カナンが倒したあのでっかい魔物……あいつはカナンにとって必要な魔物だったのか?」


「そうだったみたいです。なんか、見た瞬間に倒さなきゃ~ってなりました。」


「ふむ……でもそのわりには、成長の兆しが見られないな。」


「そうなんですよね。何でだろ……。」


「ヒュマノで魔物を倒した時はどうだったんだ?」


「倒した後すぐに成長してました。」


 それならあの時すぐに成長しててもおかしくない。なのにまだその兆しが見えないってことは何かが足りてないってことなのか?


「まぁでも、倒したことには変わりないからな。」


 カナンと話していると、あることを思い出した。


(そういえば……アルマ様がお願いをしてきたときカナンを連れていくようにって言われたが。まさか、あの時アルマ様に宿っていたはカナンが倒すべき魔物がいることも知っていたということなのか?)


 そう考えると今回カナンを連れていくように言われた理由の辻褄が合う。


 でも……だとしたらどうしてだ?


 普通、魔王という存在は勇者の手助けをしないと思うんだが……。もしかしてアルマ様の感情に左右されてるのか?


 あの時アルマ様に宿っていた存在に直接話を聞くことができれば楽なんだが……。そういうのも難しそうなんだよなぁ。

 次の食材が欲しいって言ったらすぐにアルマ様の意識なくなっちゃうし。


 まぁでも、ジャックの話ではお願いの時にアルマ様に宿ってる人格は、成長した後のアルマ様だという話だし、多分まぁ勇者であるカナンを友達だと認めているからなんだろう。

 あまり深く考えすぎないほうが良さそうだ。


「そういえば、今日の夜ご飯はあのダイミョウウオってお魚にするんですか?」


「ん?あぁ、そうだな。」


「ってなると、またカオルさんの解体ショーが見れたり?」


 凄く興味津々といった表情でカナンは問いかけてくる。


「解体ショーね、やりたいのは山々なんだが……流石に今回は規模がちょっとデカすぎるんだよ。」


 前にやったブレードマーリンはまだ台の上に乗せることができたから捌けたけど……今回のダイミョウウオはあれよりも遥かにデカい。

 流石に台の上に乗りきらなさそうなんだよなぁ……。


 そう言うと、カナンは少し残念そうな表情を浮かべた。


「ちょっと城に戻る前にギルドに寄っていこうか。」


「ギルドにですか?」


「あぁ、ちょっとギルドで解体して……厨房でやれるサイズに調整してからなら皆の前でやれるはずだ。」


「ホントですか!!」


「カナンだけじゃなくアルマ様も多分見たいだろうからな。なんとか工夫してみるさ。」


 それよりも俺が危惧してるのは、そのダイミョウウオよりも遥かにデカいあの鯨みたいな魔物だ。なんとか収納袋に仕舞って回収することはできたが……どうしたものか。

 海街で漁師の人達に聞いてくるべきだったな。まぁでもギルドに行って、リルかロベルタ辺りに聞けばわかるだろ。問題ない問題ない。











 そして城下町に帰って来た俺とカナンは真っ直ぐギルドへと向かう。


 ギルドの扉を開けると、ちょうど仕事を終えたリルが一人で酒盛りしているところだった。


「お疲れ様ですリルさん。」


「んぁ?あ、今日は来るの早いねぇ~。カナンちゃんも一緒なんだ。一緒に飲む~?」


「うわ……リルさんお酒臭いですよ。」


 既に大量のお酒を飲んでいるリルの酒臭さに思わずカナンは一歩退いている。


「リルさん、カナンはまだお酒が飲める年齢じゃないんで、誘うのはやめてください。」


「あはは~冗談だよ冗談。それで、また魔物の素材でも売りにきたのかな?」


「まぁ、そんなとこです。地下の大きな部屋借りてもいいですか?」


「いいよ~。私もこれ飲んだら行くから。先行ってて~。」


 そして俺はカナンとともにギルドの地下にある巨大な部屋へと向かう。


「ギルドの地下にこんなところあったんですね。」


「あ、まだカナンは来たことなかったか。ここは上じゃ処理しきれないデカい魔物とかを倒したときに使う部屋なんだ。」


「へぇ~そうなんですね。」


 俺はそこでダイミョウウオを収納袋から取り出すと、せっせとある程度の解体を始めた。


 頭と尻尾、それと……このとんでもなく危ないヒレを落とせばなんとか台の上に乗るかな。


 そして解体していると、リルがやって来た。


「うわ~、ま~たでっかいの仕留めてきたね~。そのヒレ、ダイミョウウオかな?」


「そうです。アルマ様が食べたいって事だったんで倒してきました。」


「軽く言ってるけど、そうそう倒せるような魔物じゃないよそいつ。」


 少し呆れた様子で眺めているリルの目の前でダイミョウウオの解体を終えた俺は、本題に入ることにした。


「実はもう一匹……いるんですけど。」


「うん、出していいよ?」


「収まるかわかんないですけど、一回出してみますね。」


「へ?収まるかわかんない?」


 首をかしげているリルの目の前で俺はあの鯨のような魔物を収納袋から取り出した。

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