第181話 カナンの成長


「ぶはっ!!はぁ……はぁ……。」


「か、カオルさん大丈夫ですか!?」


 必死で肺に酸素を取り込む俺にカナンが心配そうに問いかけてきた。


「はぁ……なんとかな。カナンこそ大丈夫か?」


「ぼ、ボクは少し体が痛い位で全然なんともないですけど……ど、どうして海の中に入ってきたんですか?待っててくださいって……ボク。」


「海の中で、でっかい魔物に喰われそうになってるのを見たら居ても立ってもいられなくてな。」


 そうカナンに言ったと同時に、ポタポタと鼻血が垂れてきた。

 ちょっとばかし危険予知を使いすぎたみたいだ。


「カオルさん鼻血が出てます!!」


「あぁ、これなら大丈夫……ちょっとスキルを使いすぎただけだからな。少し休めば治る。それよりもこんな海の中にいつまでもいないでさっさと船に乗って港に帰るぞ。」


 そして未だ心配げな表情で俺を見つめてくるカナンを乗せて、船を港へと走らせた。


 その道中……何を思ったのかカナンが急に俺に頭を下げてきた。


「あ、あのっ……カオルさんありがとうございました!!」


「ん?改まってどうしたんだ?」


「た、助けてもらったお礼……言うの忘れてたのを思い出して……。今更ですけど。」


「あぁ、それなら気にすることじゃない。俺が勝手にやったことだからな。」


「で、でもボクが自分の力を過信してカオルさんに助けてもらったのは事実で……。んむっ!?」


 俺はまだカナンが話している途中で彼女の口に栓をするように人差し指を当てた。


「お礼はお礼としてちゃんと受けとるよ。だが、自分が失敗した~とかそういうのを言うのは禁止だ。」


なんふぇえすかなんでですか?」


「あのな、人間生きてれば失敗ってのは数え切れないほどするんだよ。特にカナンみたいにまだ幼い年齢なら尚更な。」


「……。」


「これは俺が最初に料理を教わった人に教えてもらった言葉なんだが……。まぁ、分かりやすく言うなら初めての失敗なんて気にするなって意味だな。」


 そう説いた俺はカナンの口から人差し指を離した。


「たった一度の失敗を気にしているよりも、次同じ失敗をしないように前を向く。それを何度も繰り返していくにつれて失敗ってのは少なくなるんだ。わかったな?」


 俺の言葉にカナンは一つコクリと頷いた。その表情に先程まで見えていた曇りが消えていたのを見て俺は心の中でホッと一息……安堵のため息を溢す。


 そして今度はカナンの頭に手を置いてわしゃわしゃと頭を撫でながら言った。


「ま、若いうちに失敗はたくさん経験しとくんだな。」


「わ、若いうちにって……か、カオルさんだってまだ20代前半じゃないですか!!」


「まぁな。でも今のカナンよりは歳上だろ?」


「う~……それはそうですけど。」


 そんな事を話している間に、あっという間に港が見えてきた。


 俺達が乗っていた船は自動操縦で、もと停泊してあった位置に停まる。


「さて、まだ日も明るいしどっかで風呂でも入って帰るか。カナンも体洗いたいだろ?」


「そうですね。流石にちょっと……クンクン…………海の匂いが……。」


 海の中へとダイブしていた俺とカナンの体からは何とも言えない磯の香りが……。流石にどこかで体を洗いたい。


 しかし、それよりも先に俺たちは船を貸してくれた店へと向かう。


 そして店に入ってきた俺とカナンの姿を見ると店主はニヤリと笑いながら問いかけてきた。


「おっ?お兄さんたちか、どうだったい?ダイミョウウオは。」


「見ますか?」


「…………は?」


 俺の言葉に思わず店主の口から素っ頓狂な声が漏れた。


 ま、大方どうせ倒せずに帰って来たんだろ~?とか思ってたんだろうな。


 生憎、こっちはアルマ様のお願いで来てるもんでな。手ぶらで帰ってくるなんて有り得ないんだよ。


「いや、気になるんだったら見せましょうか?って……。」


「……お兄さんたち、まさかダイミョウウオ倒したの?こんな短時間で?」


「倒しましたよ、ほら。」


 俺は収納袋からダイミョウウオの顔を引っ張り出して店主に見せる。


 すると、それを見た瞬間に店主の顔色が変わった。


「ま、マジかよ……。」


「それじゃ、俺達早いとこ体洗いに行きたいんでお金用意してもらえます?」


「ちょ、ちょっと待った!!船は!?船は無事なのか!?」


「傷一つついてないですよ。まぁもし仮に傷があったらに連絡下さい。」


「え?」


 そう言って手渡した名刺に店主の表情が凍り付く。


「ま、魔王城……専属料理人?」


 

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