第180話 現れたモノ


 ピタリと止まった時の中で冷静に辺りを分析すると、ふと……先程まで海底が少し見えていたのにも関わらず、今は真っ黒な闇が広がっている。


(おいおい……ウソだろ?)


 思わず背筋にゾクリと悪寒が走る。そして俺は体の本能に従って、カナンの手をとってすぐに海面へと向かって飛び上がる。

 そして海面から飛び出して船の上へと降り立ったその時ようやく時間が動き出した。


「あ、あれ?ボク……。」


 突然海中から船の上へと移動させられていたことに驚いているカナンだが、先程俺の危険予知が発動したが大きく海面を震わせながら此方へと向かってくる。


「カナン!!掴まってろよ!!」


「ふぇ?」


 俺は船をすぐにその場から動かし、離れる。その直後……大きな影が海面に映り、先程まで俺達が乗っている船があった場所の海面が大きく盛り上がった。

 そしてとんでもなく巨大なが跳ねる。


「うぉぉっ!?」


「わぁぁぁぁっ!?」


 とんでもなく巨大な何かが跳ねた衝撃で大きな波が立ち、振り落とされそうなほど船が大きく揺れた。


「な、なんなんだあれは……。」


 そしておもむろに操作していた海図に目を向けると、今俺達が乗っている船よりも遥かに大きな何かがこっちに向かってきているのを映していた。


「完全にこっちを狙ってきてる。」


 この船の全速力がこの速度ならすぐに追い付かれてしまう。このままじゃ逃げ切れない。


 どうすべきか迷っていると、突然カナンが口を開いた。


「カオルさん、ボクが倒します。」


「カナン?」


 そう口にしたカナンは何か雰囲気が違っていた。


「その指輪貸してもらってもいいですか?」


「あ、あぁ……。」


 何故かカナンの言葉には逆らえず、俺は言われるがまま彼女に水の狩人を外して手渡した。それを指にはめると彼女はダイスを振るう。そして目の前に落ちてくるときに手で掴みとると、ポツリと呟く。


「7番。」


 カナンが数字をポツリと呟いた瞬間、ダイスが彼女の背丈よりも遥かに大きい剣へと姿を変えた。それを両手で握ると、彼女はこちらを振り向いた。


「カオルさん、ここで待っててください。」


「あ、え……カナン!?」


 それだけ言い残すと、カナンは船から飛び降りて海の中へと飛び込んでいった。










 セイントダイスが変化した大剣を握って海の中に飛び込むと、ボクの目の前にさっき倒したダイミョウウオって魔物よりも凄く大きな魔物が迫ってきた。


 その魔物の姿を一言で言い表すなら、凶悪な顔をした大きな鯨。


 この魔物はボクが倒さなきゃいけない……この世界に転生して、勇者として成長するときに何度も感じた使命感。それが今沸き上がってきた。


「この先にはカオルさんがいる。ボクが相手だよ。」


 大剣を握る手に力を籠めると、その鯨のような魔物は一直線にボクへと向かってきた。


「はぁぁぁっ!!」


 まるで頭突きをするように飛び込んできた鯨の魔物の頭に向かって大剣を振り下ろすと、凄く硬い金属に当たったようなという音と腕の骨が痺れるような感覚が伝わってくる。

 それと同時にボクの小さな体では、この魔物の体当たりを受け止めることはできず、踏ん張っていても後ろへ後ろへと押されてしまう。


「くぅぅ……っあぁッ!!」


 ぶつけていた剣を寝かせて魔物の体を滑らせる。そして体の横を通りすぎていく鯨の魔物の横腹に大剣を当てると、分厚い何かを切る感触とともに大きく鯨の魔物の横腹を切り裂くことができた。


「ギャアァァァァス!!」


「うぁっ!!」


 苦しみながら発したその叫びは、キーンと頭のなかを震わせるような声だった。思わず耳を塞いでしまうと、目の前に大きな尻尾が迫ってくる。


「しまっ……!!わぁぁぁぁっ!?!?」


 全身を強く打ったような感覚とともに大きく吹き飛ばされる。


「うぅ…………いたたた。」


 ボクが痛がっている間にも、形相を変えた鯨の魔物の大きな口が迫ってきた。


「っ!!」


(食べられるっ!!)


 そう思った次の瞬間……ボクの体は突然鯨の魔物のお腹の下へと移動させられていた。

 何が起こったのかわからず呆然としながらも、ボクは無我夢中で大剣を鯨の魔物のお腹に突き刺した。


 すると、鯨の魔物が突っ込んできた勢いでそのまま大剣はお腹を切り裂く。

 ボクの上を通りすぎていった鯨の魔物は切り裂かれたお腹から内臓を零れさせながら力なく海底へと沈んでいった。


 そしてその魔物が沈んでいる最中……パッと消えたかと思えば、そこにはカオルさんの姿があった。


「ゴボッ!!」


「か、カオルさん!?」


 苦しそうに息を吐き出したカオルさんの腕を掴んで、ボクは一気に海面へと向かって上がった。

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