第177話 アルマのお願い④
その日は突然だった。
俺が夜中に睡眠から目を覚ますと、俺の体の上にアルマ様が乗っかっていた。夜闇の中ではやはりアルマ様の赤い瞳は光って見える。
そしてこの光景には覚えがあった……。
アルマ様は起きた俺の顔にゆっくりと顔を近づけると、普段の振る舞いからは想像もできないような妖艶な笑みを浮かべながら口を開く。
「カオル、アルマがここに来た理由……わかってるよね?」
「はい。ダイミョウウオ……ですね?」
「その通り、ちゃ~んとアルマが必要なものを調べてくれてるんだね。偉い偉い。」
満足そうに笑いながらアルマ様は俺の体の頭を撫でてくる。
「あ、そうだ。ダイミョウウオを倒しにいくならカナンも連れてってあげて?」
「それはまたどうしてです?」
「あははっ♪後でわかるよ。それじゃ、お願いねっ。」
俺が疑問に思っているのも束の間、アルマ様は俺のおでこに軽く唇をつけると、眠るように崩れ落ちてしまった。
「…………やっぱり違う。」
以前ノーザンイーグルを頼まれたときもこんな感じだった。お願いの時は明らかに普段のアルマ様とは違う雰囲気を纏っている事がある。
黄金林檎やサンサンフルーツの時は無邪気なアルマ様のままだったが……この違いはなんなんだ?
それにさっきみたいに雰囲気が違うお願いの後はこうして意識を失ったかのように眠りについてしまっている。
これも初代魔王ライラと同じクイーンサキュバスの血のせいなのだろうか……。
とにかく詳しいことはわからないままだが、アルマ様からの食材のオーダーだ。アーティファクトも揃っていることだし準備を整えたらジャックにお休みをもらって行ってこよう。
「……そういえば、今回はカナンを連れてって……ってアルマ様は言っていたな。」
それもまた謎だが、
水のなかで自由自在に動けるのは俺だけだが、多分カナンぐらいになると水中の抵抗とかそういうのあんまり関係なく強力な攻撃ができそうだな。だって、勇者だし……。
「まぁでも流石に勇者って言っても人間には変わりないし、呼吸ができなかったら死んでしまう。」
一番成功確率が高くなる方法は、人魚のイヤリングをカナンにつけてもらって水中でも呼吸ができるようにしてもらい……俺は水の中を自由自在に動き回りなからカナンの援護をする……。
もしくは2つのアーティファクトを両方カナンに装備してもらってダイミョウウオを倒してもらう。
確実性があるのは後者だな。
「……ま、それはカナンと相談して決めるか。」
カナンがやりたいってならやらせてあげればいい。
「ふぁぁ……ひとまず明日はジャックにお休みをもらうところから始めよう。」
そのときに、お願いの時に時折アルマ様の雰囲気が変わる理由とかを聞ければいいんだがな。
そう思いながら、俺は再び目を閉じて眠りについた。
そして次の日の朝、俺が目を覚ますとアルマ様は俺の体をまるで抱き枕のように抱き締めながら安らかに眠っていた。
アルマ様を起こさないようにそっと抜け出した俺は着替えると早速ジャックのもとへと向かう。
「おはようございますジャックさん。」
「おや、カオル様でございますか。どうぞ、お入りください。」
まだ明朝だというのにジャックは既に起きていた。しかも身だしなみまでバッチリと決めている。流石はアルマ様の執事だな。
彼の部屋にはいると、いつものように温かい紅茶を淹れてくれた。
「さて、今回は如何しましたかな?」
「実は昨日の夜、アルマ様にダイミョウウオが食べたいってお願いされまして……。」
「おぉ、ついにですか。なるほど、用件は大方察しましたぞ。ダイミョウウオを討伐するためにお休みがほしいのですな?」
「まぁ、そういうことですね。」
「それならば断る理由はございません。お好きな日にお休みをとってください。」
「ありがとうございます。」
ここまでの流れは予想通り……。あとはあの事を聞くだけだ。
「それとはまた別件で、一つ質問があるんですけど……。」
「なんなりと。」
「昨日のお願いの時もそうだったんですけど、食材をとってきてとお願いするときに、アルマ様の雰囲気がいつもと変わるんです。それについて何か知りませんか?」
「それは恐らく……一時的に次の段階の魔王様の片鱗が見え隠れしているのかと。今の魔王様の中に流れる歴代魔王様達の血が、そうさせているのでしょうな。」
「……なるほど。」
「まぁ、あまり深く考える必要はありません。魔王様の成長した後の姿が見え隠れしているという風に思っていただいていればよろしいです。」
ジャックがそう言うのなら……問題ないだろう。でも、何か引っ掛かるんだよなぁ。
まぁとにかく、今はダイミョウウオに専念するとしようか。
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