第175話 遺っていたもの


 突如としてこちらを取り囲むように現れた巨大なキノコに手足が生えた魔物達。それにニヤリとアルマ様は笑うと、以前レヴァと呼んでいた武器を構える。


「あはっ!!いっくよ~!!」


 無邪気にそう口にしながらアルマ様がキノコの魔物達の中へと突っ込んでいく。すると、アルマ様が通った後には真っ二つになったキノコの魔物の死体が量産されている。


 チラリとカナンの方に目を向けてみると、カナンは以前とは違うまるで死神が持っているような大鎌を振り回して魔物達を一掃していた。


 やはり魔王と勇者……この二人の実力は別格だな。さて、メアの方はどうなっているだろうか……とメアの方に目を向けると、そこにはガチガチに凍りついたキノコの魔物がまるで氷像のように何体も並んでいた。


「メアは氷魔法も使えるのか。」


 おもむろに凍らされていたキノコの魔物の氷像をコンコンと指先でつついてみると、それはとても脆く、がらがらと音を立てて崩れ落ちてしまった。


「おぉぅ……。」


 言葉を失っていると、あっという間に俺達を取り囲んでいたキノコの魔物は三人によって全滅していた。


「楽勝!!このぐらいならあと何体出てきても大丈夫だね。」


 愉快そうにアルマ様は笑う。その横でカナンはせっせと魔物の死体を収納袋へとしまいこんでいた。


「カオルさん、どれを食べる用に残しておきますか?」


 ふと、カナンが魔物を回収している最中に問いかけてくる。


「あ~、そうだな。メアが凍らせたのを食用にするか。」


 一番原型が残っているのがそれだし……。まぁ凍っているとはいえ多分瞬間冷凍みたいなもんだから味とか風味的に問題ないだろう。


「やった!!私のが食べる用……凍らせて正解。」


「そういえば、メア。水魔法は使わなかったのか?」


「水魔法使ったらこんなぺったんこになっちゃったから……氷魔法に変えた。」


 そう言ってメアがすぐとなりにあった平たい何かを手に取ると、それは何かとてつもなく強い力で圧縮されて煎餅のようになっているキノコの魔物だった。

 水魔法でいったい何をしたらこうなる?甚だ疑問だが、一部始終を見ていたわけではないからそこは不明だ。


 そして俺も加わって魔物の回収作業をしている最中、ふとアルマ様が口を開いた。


「あ、そういえばラピスはどこ行っちゃったんだろ?そろそろ戻ってきてもおかしくないよね?」


「そう……ですね。」


 まぁ、多分性懲りもなくどこかで道草を食っているのではないだろうか?そして腹が痛い……とか言って動けなくなってたりして……。


「これを回収し終わったら探しにいってみましょうか。」


「うん!!そうしよそうしよ~。」


 そして魔物の回収を終えた俺たちはラピスを探すためにキノコの森の奥へと進む。


 道中、先程倒したキノコの魔物が何匹も現れたが、アルマ様達の敵ではなかった。

 キノコの森のなかを歩いていると、目の前に少し開けた場所が見え、そこにはすっかり焼け焦げてしまった跡がある木の姿が……。


 俺はこの場所に見覚えがあった。


「……ここは黄金林檎があった場所。」


 焼け焦げて下の根っこの部分しか残っていない黄金林檎の木の近くに歩み寄ってみると、木の根本から新たな芽が芽吹いているのを見つけた。

 どうやら力強く生き残っているらしい。それにホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、その木の近くに俺はあるものを見つける。


「これは…………?」


 見つけて手に取ったのは、まるで恐竜の顔の骨のような厳つい何かの魔物の頭の骨……。ここに住み着いていたこんな厳つい顔のやつは一匹しかいない。


「マシュルドラゴン……なのか?」


「おそらくはの。」


 不意に上から声が聞こえたかと思えば、ラピスが上から降りてきた。


「あ!!ラピスいたっ!!探してたんだよ~?」


「すまんな、我も我でこいつらを倒していたのだ。」


 そう言ってラピスは腰に携えていた収納袋からキノコの魔物を引っ張り出してみせた。


 そして俺の方に歩み寄ってくると、彼女はマシュルドラゴンらしき骨を手に取り眺め始めた。


「……何かと戦って死んだか。」


 ポツリとラピスはそう呟く。


「なんでわかったんだ?」


「ほれ、ここの骨に何かで切られたような傷がある。鱗を貫通し、骨にまで達する攻撃……恐らくコレが致命傷だったのではないかの。」


「じゃあ俺達が来たあとに何者かと戦って……やられたってことか?」


「そういうことになるな。だが、まぁこやつはしっかりと護るべきものを護りきったようだぞ?」


「……??それはどういう?」


「あそこの巣穴を覗いてみるのだな。」


 ラピスにそう言われて、マシュルドラゴンの巣穴があった場所を覗き込んでみると、そこには生まれたての小さなマシュルドラゴンの子供が何匹か固まって眠っていた。


 自分の身を呈して次世代に命を繋いだ……ってわけか。なるほどな。


 そしてラピスのもとに戻ると、彼女は笑いながら問いかけてきた。


「我の言った事がわかっただろう?」


「あぁ、十二分にわかったよ。」


「死ぬ命があれば生まれる命がある。自然とはそういうものなのだ。こやつも向こうで安心しておるだろう。」


 そう言うと、ラピスはマシュルドラゴンの頭蓋骨を黄金林檎の木の根本に供えた。


 そしてアルマ様達に声をかける。


「ほれ、お主ら依頼は終わりだ。日が暮れる前に帰るぞ~!!」


「うん!!帰ったらカオルにたくさんキノコ料理作ってもらわないとね!!」


「任せてください。最高に美味しい料理を作りますよ。」


 そして俺達は依頼を終えて城下町へと戻るのだった。


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