第171話 水の狩人


 迷路の階層を抜けた俺とスリーはそれから先の階層を一気に駆け抜けると、あっという間にボス階層特有の巨大な扉の前にたどり着いた。


「ふぅ、やっとボス階層か。意外と長いダンジョンだったな。」


「マスター、スリーが割り出した計算ではあと5分ほど早くついているはずです。」


「その5分ってあの迷路の階層の時にわざとスリーが魔物を出したりしなかったら短縮できたんじゃないか?」


「まぁ、それも要因の一つであることに間違いはありません。」


 あっさりとスリーは自分にも非があることを認めてしまう。


「ですが結果的にマスターのためにはなったと思います。なのでプラスマイナスゼロ……と言ったところでしょうか?」


「まぁそうかもな。……それで?この奥にいるやつが人魚のイヤリングを持ってるんだよな?」


「はい、間違いありません。」


 よしならちゃっちゃと倒して人魚のイヤリングを手に入れるとするか。


 そして俺は扉に近づいて手を添えると、迎え入れるように扉が自動で開いた。いざ中へと入ってみると、中は壁に大きな穴がたくさんあるだけでボスらしきものはいない。


 それを疑問に思っていると、背後の扉が閉まる。それと同時に妙な音が部屋全体に響き始めた。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


「お、おぉ!?」


 その轟音は部屋のあちこちに開いている大きな穴から聞こえてくる。そしてその音がだんだん近くなると、突然大きな穴からとてつもない勢いで水が流れ出してきたのだ。


「お、おいスリー?これ罠部屋とかじゃないよな!?」


「間違いなくボス部屋ですマスター。」


 俺が慌てながらスリーに確認をとっている最中にもどんどん水位が増していき、あっという間に俺の首元まで水に浸かってしまった。


 しかしまだまだ水は流れ込んできている……。こいつは不味いと思っていると、ふと水面に影が見えた。それと同時にキラリと何かが光る。その瞬間俺の危険予知のスキルが発動し、時間の流れがぴたりと止まった。

 時間が止まると同時に見えたのは俺の目の前の水面からフォークのように三又に分かれた槍の先端だった。


 そして水中にはその三又の槍を構えた厳つい顔をしたおっさんが……そのおっさんの下半身は魚のようになっている。言葉で簡潔に言い表すなら、男版人魚ってとこか。


 にしても厳ついな。人魚と言えば美しい女性であるというイメージがあったのだが、それがただの幻想であるということを今嫌というほど思い知らされている。まぁでもよくよく考えたら人魚にも男はいるってことは不思議じゃない。

 だっていくら人魚とはいえ女の人だけじゃ子孫は残せないからな。不老不死で子孫を残す必要がないってなら話は別だが……。


 さて、人魚のイメージが盛大に打ち砕かれたところでこいつをぶっ倒す術を考えないとな。まぁまず最初はこいつで一発かましてみるか。


 俺は魔神の腕輪を右手にはめると軽く魔力を籠めた。そして雷撃をおっさん人魚へと向けて放つ。まぁ水に生息してるんだから雷には弱いだろ。相性的な問題で……な。


 雷撃を放つと同時に時間の流れが遅くなり、俺の目の前に水中から三又の槍が飛び出てきた。それと同時に雷撃がおっさん人魚に当たる。強力な電気ショックを受けたように一瞬動きを止めたヤツに俺は潜って近付くと拳に魔力を籠めた。


 魔力爆発っ!!


 スキルを思い浮かべて放った一撃だったが、寸でのところで正気に戻ったおっさん人魚はとんでもないスピードで向こう側へと泳いでいってしまった。


「ぷはっ!!クソ……ちょっと電気食らってたのにな。当たんなかった。」


 呼吸をするために水面に顔を出すと、もうこの部屋に注がれ続けている水は俺の背丈をもあっさりと越えて、天井に差し迫っていた。

 このまま水が注がれ続けたら……溺死してしまう。


 おそらく水を止める方法は一つ……ヤツを倒すしかない。

 決着は早めに着けないといけないな。


 そして再び水中へと潜ろうとした時、不意に後ろから声をかけられる。


「マスター、水の狩人は使わないのですか?」


「水の狩人……あっ!!なるほど!!」


 戦闘に集中しててすっかり存在を忘れかけていた。あれを使えば水中でも自由自在に動けるんだったよな?もう使うことになるとは予想外だったが、一度試す良い機会になったと考えよう。


 俺は収納袋から水の狩人を取り出して左手の人差し指にはめた。すると、水の浮力を無視するように体がスッ……と水中に沈んでいく。


(っ!?これは……どうやって使うんだ!?)


 戸惑っている間にも、あっという間にボス部屋の床に足がついてしまう。


 ためしに少し体を動かしてみると、確かにそうだけど水の冷たさは感じるものの、動きを阻害されている感じはない。それこそまるで地上に立っているときとほぼ変わらないな。


(でもこれ強制的に浮力に逆らって底に足をつけてしまうんじゃ、ちょっと使いにくくないか?)


 そう思った俺だったが、スリーが言っていたあることを思いだす。


『ミラ博士が作ったアーティファクトの記録リストに登録されているものです。欠陥はありません。』


(欠陥がないなら……きっとちゃんとした使い方があるはずだ。それを見極めよう。)


 そう思っていた刹那、俺の目の前に先程槍で攻撃を仕掛けてきたおっさん人魚が現れる。さっきの雷撃を食らって怒り心頭……と言った表情だ。


(さてと……ちょうど良い練習台がやって来てくれたし、アイツでこれの使いかたを実践形式で紐解いて行くか!!)


 息を止めながらスッと構えをとると、おっさん人魚は物凄いスピードでこちらに向かって攻撃を仕掛けてきたのだった。


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