第159話 罪龍


 結局ラピスの意向でアシッドドラゴン討伐の依頼を受けた俺たちは最近被害があったという場所の近くにやってきていた。

 するとそこにはドロドロに溶かされたような原形をとどめていない何かが放置されていた。


「うっ、この匂いは……腐ってるのか?」


 俺の鼻を突いたのは強烈な腐敗臭。どうやらあのドロドロの何かから放たれているらしい。


 強烈な悪臭に鼻をつまんでいると、隣に立っているラピスがやれやれと言った感じでぽつりとつぶやいた。


「久方ぶりだのこの鼻を突く悪臭は。」


「前にもラピスは経験があるのか?」


「言っただろう?ヤツは同族喰らいを犯した……と。もちろんそれの現場を我も見た。無残にもドロドロに溶かされ貪り喰われた龍の姿をな。その時と全く同じだ。」


「禁忌を犯したっていうそのアシッドドラゴンはラピスたちが罰したりとかはしなかったのか?」


「無論処罰するつもり……。」


?」


「あぁ、我ら龍の掟では禁忌を犯した者はこの世から消す決まりになっている。その役目を請け負ったのが、我と同じ……いや、の海を支配していた龍だったのだ。」


「ほぉ?」


 なんか筋書きが読めてきたが、ここはおとなしく彼女の話に耳を傾けるとしよう。


「まぁ、今の話で大方の流れは読めたとは思うが……そいつがヤツを消すのに失敗したのだ。そのせいで五老龍から外された。それ以降アシッドドラゴンの行方は分からなくなっていたのだが……まさかこんな形で相まみえることになろうとはな。長い時を生きていると何が起こるかわからんものだな。」


 そして彼女が夜空を見上げると、上空にバサリと羽音を立てて何かが来襲する。


「ギャハハハハハ!!今日も今日で美味そうな獲物がいるじゃねぇか!!オスの方は不味そうだが、そっちのちいせぇメスは肉も骨も柔らかそうだ。」


 上空から響いてきた声に、上を見上げるとそこには一匹のドラゴンが飛んでいた。そのドラゴンの姿を見てラピスは大きなため息を吐き出す。


「やれやれ、我が何者かもわからぬとは……長いこと我々から隠れていた故気配すらもわからなくなったか?」


「あぁ?何言ってやがる、ただの餌の分際で囀るんじゃねぇよ。」


「我を餌呼ばわりか……。ずいぶん吠えてくれるではないか罪龍よ。」


 額に青筋を浮かべたラピスは、人の姿から元の龍の姿へと戻り、空を飛んでいるアシッドドラゴンを睨み付けた。そしてラピスの本当の姿を目にしたアシッドドラゴンは一瞬驚いた表情を浮かべる。しかし次の瞬間には下卑た笑みを浮かべていた。


「ギャハハハ、まさかまさか五老龍がまたオレ様を殺しに来たってわけか。一回失敗してんのわかってんのか?」


 煽るようにそう言ったアシッドドラゴンだったが、そんな安い煽りにラピスはのらず冷静に答えた。


「あの時、ヤツが失敗したのはお前に協力者がいたからだろう?」


「っ!?」


「ふん、その動揺を見る限り我の予想は当たっているのか。」


「チッ……カマかけやがったな。」


「まぁカマをかけたのには間違いないが、我はもともとそう確信していた。あいつがお前程度に遅れを取るわけがないからな。」


「はんっ!!なめんなよ?オレ様はあの時同族を喰らってさらに強くなった。今更五老龍なんかにビビるかよ。空の五老龍のテメェもここで喰らってさらに血を濃くして最強の龍になってやるよ!!」


 そして空からアシッドドラゴンは急降下してラピスに襲い掛かる。


「ラピスっ!!」


「カオル、こやつは我がやる。手を出すなよ?」


 俺にそう告げるとラピスは翼を一つ羽ばたかせ一気に空中へと舞い上がり、アシッドドラゴンに正面からぶつかりに行った。


「馬鹿が、真正面から来やがって……溶かしてやるよ!!」


 ニヤリと笑ったアシッドドラゴンは口をがばっと大きく開けると、ラピスにめがけて黄色い液体を水鉄砲のように吐き出した。


「くだらん。」


 ラピスが口から軽く息を吐き出すと、軽く息を吐いたとは思えないほどの風のブレスがアシッドドラゴンの黄色い液体を吹き飛ばす。


「なっ!?」


 そしてラピスはアシッドドラゴンの首根っこを手で鷲掴みにすると、地面へと向かって急降下していく。


「ふんっ!!」


「ゴエッっ!?」


 ラピスはアシッドドラゴンの首根っこを掴んだまま急降下してヤツを勢いそのまま地面へと叩きつける。


 大きな衝撃波とともにアシッドドラゴンは地面にたたきつけられ、地面には大きなクレーターができる。その真ん中で、ラピスはピクピクと痙攣しているアシッドドラゴンへと向かって口を開いた。


「我の仲間が犯した失敗は我が拭ってやる。そしてぬけぬけと五老龍の座に座っている裏切者も……我が暴いてくれるわっ!!」


 そしてラピスの口から青い炎のブレスが吐き出されると、その炎はアシッドドラゴンを焼き尽くした。


 完全に決着がついたことを確信し、俺は彼女のもとに近寄ると、黒焦げになったアシッドドラゴンの横ですでに人間の姿に戻った彼女がぽつんと立っていた。


「ラピス、怪我はないか?」


「問題ない。それよりこいつをギルドに持って帰るぞ。」


「そうだな。」


 そして俺が収納袋へとアシッドドラゴンをしまおうとしたその時……突然アシッドドラゴンの眼が開き、油断していたラピスへと向かって再び黄色い液体が放たれた。


「っ!!ラピスっ!!」


「むっ!?なっ!?」


 彼女を突き飛ばした瞬間、俺の背中にバシャリとアシッドドラゴンが放った黄色い液体が降りかかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る