第158話 ラピスのお誘い


 アルマ様とカナンが魔物ハンターになったその日の夜、俺のもとに突然ラピスがやってきた。そして何を言い出すのかと思えば、彼女は意外なことを口にした。


「おいカオル、魔物を倒しに行くぞ。」


「え?急にどうしたんだ?」


「アルマとカナンのやつが言っていたぞ、魔物を倒して得た金で美味いものを食ったとな。」


「羨ましかったのか?だったらラピスも自分のお金で買えばいいじゃないか。」


 ラピスはダンジョンを攻略した時のお金とかをため込んでいるはずだ。使っているところは見たことがない。


「自分の金?そんなものとっくの昔に使い果たしたぞ?」


「はぁっ!?な、何に使ったんだよ。」


「我は光物を集めるのが趣味でな。それに使った。」


 光物?……まさか宝石とかその類のものをたくさん買ったのか?それならあっという間に多金が無くなっても頷けるが……。なかなか金遣いが荒いな。


「はぁ……まぁお金の使い道は自由だから良いけどさ。お金がある時ぐらいさ、家賃とかたまには払ってくれてもいいんじゃないか?」


「む、むぅそうだな。そういえばカオルにここの生活費を払ってもらっているのを忘れていた。これからはできるだけ、そちらにも回そう。」


「そうしてくれ。……っと、それで?何の依頼を受けにいくつもりだ?」


「もちろん大物に決まっている!!大物のやつほど金もたくさん貰えるからな。」


「確かにな。」


 でも、前にリルが言ってたけど……この周辺に強い魔物なんて近頃現れてないって話だったな。

 まぁ、今はどんな感じかわかんないが……とにもかくにもギルドに行って依頼書を見てみないとわかんないな。


「よし、それじゃあ早速ギルドに行こう。」


「うむ!!」


 そして俺とラピスはギルドへと向かった。


 夜のギルドの扉を開けると、まだ夜も更けていないからか酒場には酒盛りをする人たちの姿がちらほらとあった。しかしそこにリルの姿はない。どうやらまだ仕事中らしい。


 酒場に目を向けながらも、受付へと向かうとこちらに気が付いたロベルタが受付窓口に駆け寄ってきた。


「こんばんは、カオルさん、ラピスさん。魔物討伐の依頼をお探しですか?」


「はい。できれば報酬が多いやつがいいんですけど。」


「かしこまりました、酒場で何かお飲みになって少々お待ちください。」

 

 彼女に言われた通り、酒場のテーブルに腰掛けるとラピスは早速目を輝かせながらメニュー表に目を通し始めた。


「おぉ~、なかなか美味そうなものがそろっているな。我のお気に入りのフィッシュアンドチップスは……なんと売り切れか!?」


 どうやらお気に入りだったスケイルフィッシュのフィッシュアンドチップスは売り切れのようだ。まぁ近頃あの湖に蔓延っていた大量のスケイルフィッシュは激減したらしいからな。そのため仕入れ自体が品薄で難しいのだろう。


「くぅ……我のお気に入りが無いとは。」


「無いなら自分で獲ってくればいいじゃないか?昼間にでも湖に行ってスケイルフィッシュを釣って、城に持って帰ってきてくれれば俺が作ってやるよ。」


「そうだな。無い以上は自分でどうにかするほかあるまい。どうせ昼間はアルマたちの相手をする以外にやることもないからな、たまには外に出て飯を狩ってくるのも良いか。」


 そんなことを話しながら、お互いにアルコールの入っていない飲み物を頼みロベルタが依頼書を持ってくるのを待っていた。


 すると、飲み物をちょうど飲み終わるころに彼女が何枚か依頼書をもって俺たちが座っているテーブル席にやってきた。


「お待たせしました。一応今のところ報酬が良い依頼はこれぐらいですね。」


「ありがとうございます。」


 彼女に差し出された依頼書に目を通してみると、依頼書に書かれていた魔物はどれも俺が以前相手したと呼ばれるような魔物ばかりだった。やっぱり普通の魔物よりも強い分報酬金も多いらしい。


 色付きの魔物が依頼に多数上がっている中、そんな魔物よりもさらに報酬の多い依頼書が一枚あった。


「あれ?これは……。」


 俺がその依頼書を手に取ると、ロベルタが少し困ったような表情を浮かべる。


「その依頼書にある魔物は色付きの魔物じゃなんですけど、近頃荷物を運んでいた馬車とかを襲っていて人的被害が多発しているんです。とても強い魔物なので普通の魔物ハンターじゃ手も足も出なくて……懸賞金がどんどん跳ね上がってその金額になってるんです。」


「ほぅ?どれどれ我にも見せてみろ。」


 強引に俺から依頼書を奪い取ったラピスはその依頼書に書いてあった魔物の名前を見て少し顔をしかめた。


「……なるほど。こいつか。」


「ラピス知ってるのか?」


「同じ龍だからな。名ぐらいは耳にしたことがある。それにこいつは我らの中でも有名な輩でな、禁忌とされているをした罪龍だ。」


 そう言った彼女の手に遭った依頼書の討伐目標の項目にはと書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る