第157話 帰りを待っていた者


 初めての依頼を達成し、城下町でお菓子を購入したアルマ様とカナンを連れて魔王城へと帰ってくると、そわそわとした様子のジャックが城門の前で待っていた。


「おぉ!!お帰りなさいませ、魔王様、カオル様、カナン様。お怪我はありませんか?」


「大丈夫~!!よゆ~だったよ!!ねっ?カナン?」


「う、うんアルマちゃん。」


「それより見てみて!!これ、今城下町で流行ってるお菓子なの!!」


 そう言ってアルマ様は先程購入したクレープのようなお菓子をジャックに見せた。


 アルマ様曰く、あのお菓子が今城下町で流行っているお菓子なのだとか……。それは、色々な果物や生クリームがクレープ生地のようなものに包まれていてとても美味しそうだ。俺も買ってみればよかったな。


 まぁクレープなら俺でも作れるから、後でオリジナルのものを作ってみるか試作もかねてな。


「魔物の討伐のお金でお買いになったのですな?」


「うんうん!!前から食べてみたかったんだよね~。」


 そう言ってアルマ様はまたクレープらしきものにかぶりついた。クレープ生地の隙間からたっぷりの生クリームが溢れてきて、アルマ様の口元につく。


「おっと魔王様、お口にクリームが……失礼いたします。」


「んっ。」


 溢れてアルマ様の口元についたクリームをジャックは優しくハンカチで拭う。


「ありがとジャック。」


「いえいえ、お礼を言われるほどのことではございません。執事として当然の責務を果たしたまででございます。」


「後はお部屋に言って食べよ~、カナンも一緒に行こ?」


「う、うん!!」


 そしてアルマ様はカナンと一緒に城の中へと入っていった。それで取り残された俺にジャックが声をかけてきた。


「カオル様ありがとうございました。」


「え?」


 何かお礼を言われるようなことをしただろうか?特にそんなことをした覚えはないんだが……。


「魔王様のことを見守ってくれたことに感謝を述べているのです。」


「あ、あぁそのことですか。それなら当然のことをしたまでですよ。それにやっぱりレッドキャップ如きじゃ話にならなかったです。」


「えぇ、魔王様が魔物と相対して怪我をされるという心配はあまりしておりませんでした。魔王様に傷を負わせられるような魔物はこの近郊にはいませんから。それよりも私が心配していたのは魔物ではなく他の何者かの魔王様がたぶらかされてしまうことです。魔物よりも恐れるべきは知性ある人という存在ですからな。」


「まぁ確かに、言ってることは理解できます。」


 アルマ様がただの魔物程度に怪我を負わされるとは思えない、それにカナンも一緒にいたんだからなおさらだ。魔王と勇者、この世界最強と言ってもいいであろう二人が力を合わせて戦っている状況に正直俺は一切の不安はなかった。

 それでもあくまでもそれは魔物が相手になった場合の話だ。人が相手になった場合は話が違う。ある一部の人という存在は魔物よりもよっぽど狡猾だ。アルマ様やカナンに及ぶ力を持っていなかったとしても、言葉で巧みに心を操る。ジャックが心配していたのもそれだろう。


「危険を避けるためにも、なるだけ関係のない人との接触は避けておきましたから。」


「よい判断です。魔王様は体は成長したとはいえ、心は未だ少々幼さが残っております。それに浸けこんでくる良からぬ輩がいないとも限りませんから。」


「わかってます。アルマ様は今回の依頼で自信が付いたみたいなので、多分近々また依頼を受けに行くかもしれません。その時も気を付けます。」


「お願いいたします。魔物ハンターとして経験を積むことは魔王様の成長に良い影響をもたらすと思いますので、できれば続けてほしいと私めも思っている次第です。」


 どうやらジャックはアルマ様が魔物ハンターとして経験を積むことに反対という姿勢ではないらしい。最初、アルマ様が俺と同じ魔物ハンターをやると言い出したときは少し否定的な態度だったように見えたが……今後のアルマ様の成長の糧になると判断した彼なリの決断なのだろう。


「続けさせてもいいんですか?」


「ホッホッホ、魔王様の成長の糧となるのであれば止める理由はありません。それにカナン様とカオル様という心強い味方も近くにいてくれるようですからな。」


「あはは、流石にアルマ様やカナンには実力的に及びませんけど……万が一の時には守れるように精進します。」


 もし二人に危険が迫った時には俺が身を挺してでも守らないとな。近頃スリーと毎日戦闘訓練をしてるおかげでだいぶ戦闘の技術ってやつが身についてきたとは思うが、あの二人の圧倒的な力を目の当たりにすると、まだまだ届かないことを実感させられた。


「スリー様と近頃激しいトレーニングをしていらっしゃるようですから、きっと問題ありません。」


「はは、あれホントにつらいんですよ?」


 いつも魔力が枯渇して動けなくなるまで彼女に扱かれるからな。ちなみに遠慮というものは一切ない。


「ホッホッホ、頑張ってくださいませ。さてそれでは魔王様のご無事もこの目で確認できましたので私も業務に戻ります。」


「はい、俺もそろそろアルマ様たちのご飯を準備しないといけないので。」


 そうして俺とジャックは城の中へと戻るのだった。こうしてアルマ様とカナンの魔物ハンター一日目は終了したのだった。

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