第160話 最期の抵抗


 液体が背中にかかった瞬間、じゅわじゅわと何かが溶けていく感覚に襲われる。


「カオルっ!!カオルっ!?」


「ギャハ……ざまぁみ……ろ。」


 最後の最後にアシッドドラゴンは笑いながら目を閉じた。


「大事ないかカオルっ!?」


 俺のもとにラピスが心配しながらすぐに駆け寄ってくる。心配してくれている彼女だが、意外にも体の表面が少しシュワシュワとするだけで特に体自体に異常は見られない。


「あ、あぁ……なんか大丈夫みたいだ。」


「しっかりととどめを刺さなかった我の不覚だ……すまん。」


「大丈夫だって、なんか何も問題ないし……。」


 なんかちょっと風が当たると全身スースーするだけで、特に問題はない。液体がかかった腕とかも溶けてないしな。平謝りするラピスの前でゆっくりと立ち上がると、突然彼女は顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。


「かっかかかカオルっ!!お主全然大丈夫ではないではないかっ!?」


「は?なんか異常でもあるか?」


「異常しかないわ!!自分の体をよく見てみるのだッ!!」


「ん~?」


 改めて自分の体に目を向けるが、特に異常は……って、あれ?俺……服は?


 確か長袖の服を着ていたと思ったが……きれいさっぱり無くなっている。


 もしやと思い下の方に目を向けると、履いていたズボンもパンツもきれいさっぱりさっきのアシッドドラゴンの酸で溶けて無くなってしまっていた。

 そこで俺はようやく自分が今どんな姿でラピスの前に立っているのか自覚した。


「うわぁぁぁあっっ!?!?す、すまんっ!!」


「う、動くでない!!下のやつが見えてしまうだろうがぁぁぁっ!!」


「う、動くなって言ったってなぁ……。」


 こんな状況で動揺しないやつの方がいないだろう。だって俺はいまでラピスの前に立ってしまっているのだから。兎に角下を両手で覆い隠した俺はその場に座り込んだ。


「か、替えの服は持ってきておらんのか!?」


「ま、まぁあるにはあるが……。」


「ならばすぐに着替えろっ!!そんな恰好ではお主を乗せて飛ぶことすらできぬっ!!」


「わ、わかったよ。」


 俺はラピスに背を向けると、収納袋から予備のコックコートと下着を取り出して上から羽織った。


「これで良し。もう大丈夫だぞ。」


「う、うむ。」


 未だ赤面しているラピスはゆっくりとこちらを向くと、ホッと一息吐き出した。


「ふぅ……マシな格好になったな。」


「すまなかった、まさか服だけ溶かされてるなんて全然気が付かなかった。」


 妙に全身に風を感じると思ったらそういうことだったんだな。改めて思い返してみるとマジでこっぱずかしい。新たな黒歴史がまた一つ増えた。


「ま、まぁあやつの強力な酸のブレスを受けて服だけ溶かされただけで済んだのなら良い。ほ、ほれ!!ヤツはもう今ので息絶えた、さっさとギルドに持って帰るぞ。」


「あ、あぁ……そうしよう。」


 お互いに少し気まずい雰囲気になりながらも、俺は彼女に言われた通りアシッドドラゴンの死体を収納袋にしまうと、彼女の背に乗って城下町へと戻るのだった。





 そしてギルドに着いた俺たちは、討伐の報告のため受付のロベルタのもとへと赴くと……


「あ、お帰りなさいカオルさん、ラピスさん。……あれ?カオルさん、いらっしゃったときと服が違いますね?」


「ちょっといろいろあって……あんまり気にしないでいただけると。」


「あ、す、すみません。それで依頼の方はどうでしたか?」


「それはちゃんと達成しました。一応丸ごと持ってきてるんですけど、ここでは出さないほうが良いですよね?」


「そうですね、地下の方でお願いします。」


 そしてギルドの地下にあるタオ量の魔物を討伐した場合や大型の魔物を討伐した場合に使われる一室へと赴いた俺はそこで黒焦げになったアシッドドラゴンを収納袋から取り出した。


 するとロベルタは思わず息をのみながら問いかけてきた。


「あ、あの……これはいったいどうやって討伐したのでしょうか?全身黒焦げになってるみたいですけど……。何か超強力な炎系の魔法でも使いました?」


 その問いかけにはラピスが俺の代わりに答えてくれた。


「そやつは我が焼き払った。魔法でな。」


「そ、そうだったんですね。それにしてもドラゴンの鱗をこんな黒焦げにできる魔法を使えるなんて……カーラさんたち魔女並みにすごいじゃないですか。」


「たいしたことではない。軽く炙ってやっただけだ。」


 あんなにヤバそうな炎を吐いておきながら炙っただけ……か。本気で肺にするつもりだったならもっと強い炎をラピスは吐けるのだろうか?そこは気になるところだな。


「えっと、それではお先にアシッドドラゴンの報酬金をお渡ししますね?山分けでいいですか?」


「いえ、全額彼女に渡してください。」


「む?良いのか?」


「俺は今回特に何もしてないからな。実際こいつを倒したのもラピスだし。」


「う、うむ……そうか。」


「ではラピスさんこちらをどうぞ。」


 ラピスはロベルタからずっしりと硬貨が詰まった革袋を受け取った。


「素材の方は……この状態ですとお金になるかわかりませんが、一応解体師に頼んでおきますので後程またギルドにお顔を出していただければ。」


「うむ、わかった。では我らは先に行かせてもらう。カオルついてくるのだ。」


「え?ちょ、ラピス!?」


 そうして俺はラピスにずるずると引きずられ、ギルドを後にすることになったのだった。


 果たして一体どこに連れていかれるのやら……。


 

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