第146話 ギルドにてリルと……


 倒した魔物を持ち帰った俺は、時間の合間を見てギルドへと向かった。すると、酒場は深夜とは違い魔物ハンターたちで賑わっている。しかし、そこにリルの姿はない。どうやら今は上の部屋で業務をこなしているらしい。


 賑わうギルドの中を通って受付に行くと忙しなく書類を整理している受付嬢のロベルタと目が合った。


「あ!!カオルさん、いらっしゃいませ~!!リルさんに用事なら上ですよ~?」


「あ、今日はリルさんに直接用事があるわけじゃないんで……。」


「そうなんですね。では本日はどんなご用件でしょうか?」


 抱えていた大量の書類を机の上に置くと、彼女は受付で対応してくれた。


「実は魔物の素材の買取りをお願いしたくて……。」


「魔物の素材の買取りですね~。もう素材分けとか、解体って終わってます?」


「いや、あの丸のままです。」


「わかりました~。数が多いようでしたら地下で確認しますよ?」


「そのほうが良いかもしれないです。」


「では地下の方で確認しますね~。」


 そして俺はロベルタとともに以前レッドスキンとブラックスネークを運んだ地下の部屋へと赴く。


「それじゃあ魔物の確認をしますので、ここに全部出しちゃってください。」


「わかりました。」


 収納袋を逆さまにすると、先ほど倒した魔物が山積みになっていく。その様子を見てロベルタは唖然としていた。


「こ、これはまた……ずいぶんたくさん倒しましたね。」


「ちょっとレベリングがてら倒してたら結構な数になっちゃいました。」


「しかも、これほとんどの魔物ですね~。これはなかなか査定のし甲斐がありますね。少々お待ちください。」


 すると彼女は腰に提げていたカバンから分厚い本を取り出すと、倒した魔物を一体ずつその本と照らし合わせ始めた。


 数分後、ぱたんと本を閉じると彼女はふぅと一息つく。


「一応魔物の鑑定は終わりました。一応全部の魔物に素材としての価値があるので、素材としての価値については後程解体師が解体した後にまとめますね。」


「ありがとうございます。」


「それにしても……この、長いことここで受付嬢をやってますけど、私も実物を目にしたのは初めてですよ。」


「カースド……ウルフ?もしかしてこいつのことですか?」


 俺は唯一レベル50を越えていたあの魔物を指差した。すると、彼女は一つ大きくうなずく。


「はい、この魔物は魔素のとても濃い場所でしか生まれない上位の魔物なんです。爪や牙はもちろん、体液も全て猛毒で触れるだけでもかなり危険な魔物なんですよ。」


「そ、そうだったんですね。」


 実際そいつには苦しい目に遭わされた。あの鋭い爪で頬を軽く切り裂かれただけで全身が痺れて動かなくなってしまったからな。

 もしあの場にスリーがいなかったら……死んでいたかもしれないな。


「でも、この猛毒は医療機関にかなりの高値で売れるんです。」


「え?毒が……ですか?」


「はい、このカースドウルフは様々な魔物の毒を混合したような毒素を体に持っていて、それを分析することで様々な毒をもつ魔物の血清や解毒魔法の研究が進むんです。」


「なるほど。」


 言われてみると、確かに医療機関が買い取りたい理由もわかる。


「状態はあんまり良くないみたいですけど、これでも貴重なサンプルとして買い取ってくれると思います。私の方からそちらの方には連絡しておきますね。」


「お願いします。」


「さてっと、お金の方は後程お渡しするとして……こちらの魔物は全てギルドでお預かりします。ご用件は以上でよろしいですか?」


「はい、大丈夫です。」


 そしてまた彼女のあとに続いてギルドの一階へと戻ろうとした時だった。


「あっ!!いたいた!!」


 トトトト……と軽快な音を立てて階段を降ってきたのは上で業務をこなしているはずのリルだった。


「あれ?リルさん?どうしたんですか?」


「あ~、ロベルタ。私ちょ~っとカオルくんとがあるからさ。彼の身柄はこっちで預かるね?」


「え?」


 俺が疑問に思う間も無く、リルは俺の腕に両手を回すと、ぐいぐいと引っ張ってくる。


「え、あ、あの~……リルさん?」


「いいから、キミは私の部屋に来るのっ!!」


「えぇぇぇ?」


「あ、か、カオルさんお気をつけて……。」


 哀れみの目で俺のことを見送るロベルタ。


 俺は彼女に見送られながら、ズルズルとリルに上へ上へと引きずられていく。


(……あれ?俺……何かやらかしたかなぁ?)


 特にこれといってリルに怒られるようなことはしていないと思うんだが……。


 いったいなんのをすることになるのだろうか。不安でしかたがない。

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