第144話 新たな訓練方法


 夜、俺がカナンとメアの二人に挟まれながら眠りにつこうとしているとふと隣で横になっていたメアがこっちを向いて言った。


「パパ?」


「ん?どうしたんだメア?」


「最近ちょっと疲れてる……よね?」


「あぁ、まぁちょっとな。」


 どうやらメアにはスリーとの戦闘訓練で毎日疲れていることがバレてしまっているらしい。


 するとおもむろに彼女は起き上がると、俺の頭の横に座った。


「私、魔法とかまだそんなにうまく使えないからパパの疲れを癒したりとかはできないけど……。こういうことならできる。」


 そう言ってメアは自分の腰から生えているふさふさの尻尾を体の前の方に回し、そっと束ねるように手に持った。


「パパ、動かないでね?」


「え?あ、あぁ。」


 そしてメアはゆっくりと尻尾を俺の耳へと近づけると、まるで耳かきについている梵天のように耳をファサファサと撫で始めた。


「どう?パパ、気持ちいい?」


「あぁ、気持ちいいよ。でもいいのか?」


「何が?」


「その尻尾、いっつも丁寧に手入れしてるよな?それを耳なんかに這わせて……汚くないか?」


「大丈夫、パパの体に汚いところなんてない。パパは何も心配せずに気持ちいいのに身を任せてればいい。」


「……ありがとな。」


 ふさふさと耳を撫でられるたびに、体の力が抜けていく。それとともにどんどん眠気が襲ってきた。


「ふぁ……。」


「いつでも寝ていいよ?メアはパパが寝るまでこうしててあげるから。」


 メアのその言葉を最後に、俺の意識は誘われるように微睡みの中へと堕ちていった。




 次の日の朝、起きてみると妙に体が軽い。これはいったいどういうことなのだろうかと不思議に思っていると隣で眠っていたメアがゆっくりと体を起こしながら言った。


「パパ、少し元気になれた?」


「あぁ。なんだか体が軽いよ。ありがとうメア。」


 昨日癒しながら眠らせてくれたメアにお礼を言いながら、俺は彼女の頭を撫でる。


「パパが疲れてたらいつでもしてあげる。この尻尾は私にしかないから。」


 愛おしそうにメアは自分の尻尾をさすさすとさすった。


「じゃあお礼に今日の朝食はメアの好きなもの作ってあげようか。」


「ホント!?」


「あぁ、何でも言うと言い。」


「じゃあ……えっと、えっと……。ふれんちとーすと?が食べたい。」


「フレンチトーストでいいのか?」


「うん。あれ私大好き。」


「気に入ってくれて何よりだよ。じゃあ今日の朝食はフレンチトーストで決まりだ。」


 そうと決まれば、早速仕込みに行こう。パンに卵を染み込ませる時間が必要だからな。


 俺はまだ隣で寝息を立てているカナンを起こさないようにベッドから降りると、コックコートに着替えた。


「それじゃあ先に行って仕込みしてるから、メアはカナンが起きたら一緒に来てくれ。」


「うんパパ。」


 そして俺はフレンチトーストを仕込むために厨房へと行くのだった。










 朝食を作り終えて陽と休憩置いたところで、スリーが俺のもとを訪ねてくる。


「マスターお時間よろしいですか?」


「あぁ、いいぞ?今日も戦闘訓練をやるんだな?」


「はい、ですが本日は少し方法を変えます。」


「方法を変える?」


「本日はスリーと戦うのではなく、魔物と戦っていただきます。」


「ほぉ?魔物か……。ちなみにどれぐらい強い魔物なんだ?」


「マスターのレベルが現在51のようですので、それよりも少し強い魔物と戦っていただく予定です。」


 ってことはレベル50よりももっと強い魔物と戦うってことか。スリーと戦うよりははるかに勝ち目はあるだろうな。

 それにあわよくば倒した魔物の素材を売ればお金にもなるし一石二鳥ってわけだ。


「それで、そのぐらい強い魔物がいる場所の目星はついてるのか?」


「もちろんです。……ナイン。」


「任せてくださいスリー。」


 スリーがナインの名前を呼ぶとどこからともなくスリーの背後にナインが現れた。どうやら移動は彼女が担当してくれるらしい。


「ではナインあの場所まで私たちを連れて行ってください。」


「わかりました。回収は何時に?」


「そうですね。マスターの魔力量から想定するに……約2時間ほどといったところでしょうか。」


「2時間後ですね。では時間もないことですので行きましょう。」


 そしてナインは空間を切り裂いた。その切り裂いた空間を通ると、その先はまた見たことがないような禍々しい雰囲気を醸し出している場所だった。


「ここは?」


「魔素の集まる場所……つまり強力な魔物が生まれる場所ですね。」


「なるほどな。」


 そんなことを話していると、黒い霧のような瘴気が目の前に集まり始め何かの形を象っていき、凶暴そうな魔物が目の前に現れた。


「さぁマスター、ここなら魔物がいなくなる心配はありません。存分に戦ってください。」


「あぁ、わかったよ。」


 現れた魔物の前で俺は臨戦態勢に入ると、魔物の方が我慢できずに襲い掛かってきた。

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