第143話 成果が上がれば課題が上がる


 そのまた翌日、俺は再びスリーとの戦闘訓練に励むことになった。早速、今日の訓練で昨日会得した魔力の細分化と魔力節約を活かして戦ってみるとしよう。


「それではマスター、今日も戦闘訓練を始めましょう。」


「あぁ、やろう。」


「目標は変わらず魔力の節約を覚えつつスリーに攻撃を与えることです。」


「わかった。」


 俺はスリーの目の前で構えると足に魔力を籠めた。


「行くぞ?」


「いつでも構いませんよマスター。」


 その言葉を合図に俺は魔力の細分化のスキルを使って足に込めた魔力をいくつにも細分化しながら加速する。


「っ!!」


 一瞬驚いた表情を浮かべたスリーだったが、彼女の対処は早く初撃を決めることはかなわなかった。

 俺の攻撃をかわしたスリーはポツリと言う。


「驚きましたよマスター。足に籠めた魔力をいくつにも細分化して一つ一つを加速させるその技術……。それに魔力自体も全然使っていないようですね?」


「まぁな。」


「では再保の課題はクリア……ということで次のステップに参りましょう。」


 スリーがそう口にした瞬間彼女の姿が一瞬で目の前から消えた。


「っ!?」


「こちらですよマスター。」


 彼女を見失ったかと思えば、今度は後ろから頭を小突かれた。


「消えるほど速いってどんなスピードだよっ!!」


 そう愚痴を吐きながら背後に向かって攻撃を仕掛けるが、もうそこに彼女の姿はない。そして今度は俺の上から声が聞こえてくる。


「これでも基礎的な身体能力に関してはスリーよりもナインの方が高く設定されているのですよ?」


 そう言いながらスリーは俺の目の前に着地する。


「ナインは近距離戦闘支援タイプ、そしてスリーは後方支援タイプです。」


「じゃあスリーに攻撃を当てることができなきゃナインにも当てれないってことか。」


「そういうことになりますね。ですから次のステップは……動き回るスリーのスピードについてきつつ、攻撃を当てることですね。」


「簡単に言ってくれるなっ!!」


 再びスリーへと向かっていくがやはり一瞬で目の前から彼女は消える。目で追うことすらできないスピードだ。これで身体能力がナインより劣っているというのだから、アンドロイドの性能には本当に驚かされるな、まったく……。


「そんなに動き回るなら……動きを封じてやるよ!!」


 両手に魔装をまとわせ、それを縦横無尽に細く、長く引き延ばしトレーニングルームの中に張り巡らせていく。イメージしているのは切れ味の鋭いピアノ線だ。あのスピードで動いていて、もしこれにぶつかればダメージを与えられるのは間違いない。


 そう思っていたのだが……。


「マスター、その動きはすでにナインから共有済みですよ?」


「うげっ!?」


 なんとスリーはナインからこの攻撃の情報をすでに受け取っていたらしく、部屋中に張り巡らされた魔力の糸を足場にしながらこちらに攻撃を加えてきたのだ。


「いててて、マジかよ。」


 ナインに使ったのはちょっと違うやつだったんだが……どうやらあの魔装の使い方からいろいろな使い方を予測されていたらしい。だからこんな風に自分で新しいと思って繰り出した技も彼女たちからしたら予想の範疇だったというわけだ。


「そういうわけですので、そのような小細工はスリーには通用しません。」


「はぁ、じゃあ頑張って動きについて行くしかないってわけか。」


「ご理解が早くて助かります。」


 俺が魔装を解除したことで音もなく軽やかに着地した彼女。


「さぁ、続きを始めましょうかマスター?」


 無表情でそう言っているはずの彼女だが、俺にはどうもその表情が嗜虐的に少し微笑んでいるように見えて仕方がなかった。










 結局、今日も魔力が無くなるまで戦闘訓練をしたが……スリーに攻撃を加えることはおろか、触れることすらもできなかった。


「ぜぇ……ぜぇ……。」


「お疲れさまでしたマスター。魔力が尽きてしまったようですので本日はこの辺で終わりにしましょう。ですが昨日よりもはるかに魔力の使用の際に無駄が無くなりましたね。後は動きの無駄をどこまで減らせるかで変わってくると思います。」


 俺はもうすっかり疲れ切っているというのにスリーは昨日同様に息一つ切らしていない。


「魔力の無駄の次は動きの無駄か……はは、課題が一つ解決したかと思えばまた新たに課題が増えたな。」


「マスターはまだまだ戦闘の経験が足りませんから、動きに無駄があるのは致し方がないことかと。それもこれからの戦闘訓練で補っていきましょう。それではマスター、スリーは本日分の業務がまだ残っておりますので失礼いたします。」


「あ、あぁ。」


 そしてスリーはトレーニングルームを後にしていった。


 果たして俺が彼女に攻撃を当てられる日は来るのだろうか?少し不安になってきた。


 

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