第141話 今後の課題
スリーのアドバイスを取り入れながら彼女との戦闘訓練に励み始めて約一時間ほどが経っただろうか?いや、そんなに時間が経っていないかもしれない。
時間間隔がなくなるほど、俺はスリーとの戦闘訓練に集中し……それと同時に追い込まれていた。
「はぁ……はぁ。」
ずっと動き続けたせいで体力が底をつき始めていた。また、途中から魔力を推進力に変えるという技を試しながらやっていたため魔力のほうも底をつき始めていた。
俺はこんなにも消耗しているが、一方のスリーは息一つ切らしていない。
「マスター、後半の動きはだいぶ良くなりましたよ。とは言っても、まだまだ改善すべき点は多くありますが。」
そう言いながらスリーはゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「まず改善すべきは推進力にしている魔力消費量です。もともとマスターは魔力が多いステータスではないようですので、魔力の節約術を身に着けるべきですね。」
「魔力の節約術?」
「はい、体内にある魔力を放出する際にそれを最小限に抑えるのです。今のマスターはその放出する魔力量の無駄が多すぎます。」
「なるほどな。」
魔力量が少ないから、消費をもっと抑えないといけないわけだ。魔装を使うにしても、魔力を推進力にするにしても……。
「さて、目標は達成できませんでしたが、本日の戦闘訓練はここまでにいたしましょう。マスターの魔力が底をついたようですので、これ以上の訓練継続はお体に支障をきたすと判断しました。」
「そ、そうか……。」
魔力も体力もすっかり使い切った俺はトレーニングルームの床に寝そべった。
「当面の目標はマスターが魔力節約を会得する……という目標にしましょう。今のままではスリーに触れることすらままなりませんから。」
「はは……は。辛口だなぁ。」
「お世辞を言ってもマスターのためになりませんので。」
「そりゃあそうだな。」
スリーの至極もっともなその言葉にうなずきながら、ゆっくりと目を閉じようとすると、彼女は俺の頭を少し持ち上げて太ももの上にのせてくれた。
「スリー?」
「以前ナインがこのようにしてマスターのことを介抱していましたよね?その真似をしてみたのですが……どうでしょうか?」
「あ、あぁ……そういうことか。」
そういえばナインとレベリングして疲れ切って倒れこんだ時、ナインにも膝枕してもらったな。
「ナインと同じ感触だ……。すごい心地いいよ。」
「ナインとスリーの肉体の構成物質は同じですから、触感は同じです。」
スリーの膝枕に頭を預けていると、どんどん眠気が襲ってくる。
「ふぁぁ……。」
「マスター、眠くなってしまったのならこのまま寝てしまっても構いませんよ?」
「ん……。」
「昼食一時間前に起こせばよろしいですね?」
「あぁ、頼む。」
「それではごゆっくり……お休みくださいマスター。」
スッと目の上にスリーの手が当てられると、俺の意識は自然に微睡の中へと沈んでいった。
その日の夜……俺は一人ギルドへと向かった。いつも通り、夜のギルドの酒場にはリルとカーラの姿があった。
「こんばんはリルさん、カーラさん。」
「いらっしゃ~い、待ってたよ~。」
二人が囲んでいるテーブルの席に腰かける。すると、毎度のことのようにいつも俺が飲んでいるお酒が運ばれてきた。
そして俺が座るとリルがこちらを向いて言った。
「キミ最近忙しそうだねぇ~。」
「ちょっと最近いろいろ予定が重なっちゃって……。」
「魔王様お付きの仕事をしてるから忙しいのはわかるけど、体も大事にするんだよ~?」
「そうそう、頑張りすぎて体を壊しちゃ元も子もないからねぇ~。」
「ははは、気を付けます。」
二人にそう注意喚起された俺は思わず苦笑いしてしまう。
「あ、そういえばカーラさんに聞きたいことがあったんです。」
「アタシに?どうしたんだい?」
「はい、魔力の節約ってどうやれば身に着けられますかね?」
「魔力の節約?」
俺はスリーに課題として提示された魔力の節約のことについてカーラに問いかけてみた。魔力のことについては魔女であるカーラが詳しいと踏んだのだ。
「俺、もともと魔力量が少ないんで……魔力を使った攻撃とかをするときに燃費をよくしたいんです。」
「なるほどねぇ、そういうことかい。ならアタシに相談したのは正解だねぇ。」
すると、彼女はおもむろに手のひらの上に火の玉を生み出して見せた。
「カオルに問題だ、この炎はどのぐらいの魔力で形成されてると思う?」
「どのぐらい……ですか?う~ん、MP50ぐらい……?」
「残念不正解だ。正解は……MP1なのさ。」
「1!?たったの!?」
「あぁそうさ。このぐらいの炎なら魔力の使い方さえ覚えれば、MP1で出せるのさ。」
「ちなみにどうやってるんです?」
「魔力はMPっていう具体的な数字で表されるけど、そのMPの数字をもっと、もっと細かく
「魔力を細分化……ですか?」
「あぁ、例えば1っていう数字でも小数点をつければ無数に分解できるだろ?」
「はい。」
「放出する魔力を決めて、それを分解して分解して……放出する魔力を細かくしていくのさ。」
「なるほど……。」
「まぁ、言葉では簡単に言えるけど、実際にそれを身に着けるのは至難の業さ。普通に魔法が得意な奴でもそれを会得できないやつはたくさんいる。」
そんな難しいのを俺は取得しないといけないってのか……。こいつは先が長そうだ。
「正しい練習方法で練習すれば、カオルならきっと身に着けられるよ。」
そういって彼女は、どこからか一冊のノートを取り出してこちらに手渡してくれた。
「これは?」
「魔力の細分化についてアタシがまとめたノートさ、練習方法も書いてある。」
「借りちゃっていいんですか?大事なものなんじゃ……。」
「いいんだよ。か、カオルのためになるんなら……ね。」
「わっ!!カーラ顔真っ赤にしてる~。」
「う、うるさいよリル!!アンタには貸してやんないからね!!」
「えぇ~いけず~。いいじゃん、カオルクンの次に貸してくれてもさぁ~。」
そしてリルとカーラは口喧嘩を始めてしまった。
今日の酒の席もにぎやかだ……。
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