第139話 スリーとナイン
スリーを仲間にして落ち着いたところで、彼女はナインへと告げた。
「ナイン、そろそろ行きますよ。マスターにはあまり時間がないようですから。」
「わかっています。」
するとナインは機械仕掛けの剣を取り出して空間を切り裂いた。そこで俺はふとあることが気になった。
「ちなみにスリーのその銃はどんな力があるんだ?」
「スリーの銃ですか?いろんなことができますよ。ナインのように超長距離を移動したりすることはできませんが……。」
おもむろにスリーは銃を構えると一発銃弾を発射した。その瞬間彼女の姿が目の前から消える。
「あっ!?」
一瞬にして彼女を見失った俺が素っ頓狂な声を上げていると、突然背後から彼女の声が聞こえた。
「マスター、こちらです。」
「はっ!?」
後ろを振り返るといつの間にかスリーが立っていた。
「ど、どういう仕組みなんだ?」
「この銃から射出される弾丸は魔法弾になっています。つまり魔法を縦断として射出することが可能なのです。たとえば今のように移動魔法を弾丸に籠めて発射すると跳弾の軌道計算をもとに一瞬で背後を取ったりすることも可能なのです。」
「ほぉ~……。」
「なので回復魔法を弾丸に籠めてマスターに撃ち込めば体力や傷を回復させることも可能です。」
「それって痛みとかないのか?」
「一瞬体の中を何かが貫通する感覚はあるかもしれませんが、痛みはありませんのでご安心ください。」
「ナインの体力を回復させる剣みたいなもんか。」
あれもあれで体の中を何かが突き抜ける感覚はあるんだよな。痛くはないけどさ。あの感覚だけは何回やられても慣れる気がしない。
「そういう認識で間違いありません。」
「なるほどな。」
「他にも様々な機能がありますが、すべてを話していると時間がかかってしまいますのでまた後程、時間がある際に……。」
「あぁ、そうだな。」
そして俺はナインが切り裂いた空間に足を踏み入れると、その空間は魔王城の目の前に繋がっていた。
「ふぅ、帰ってこれた。」
「マスター、予想時間より30分ほど早く帰ってきました。」
先に空間をくぐって待っていたナインが俺にそう告げた。どうやら予定していた時間よりも早くダンジョンを攻略できたらしい。
「そうか。」
ならアルマ様の次の食事まではまだ余裕がありそうだ。ダンジョン攻略で少し疲れたし、部屋で少し休もうか。
あ、でもその前にスリーのことをジャックさんに報告しないと……。と、思っていると俺の思考を見通したかのようにナインが言った。
「マスター、スリーのことはナインがジャックに話を通しておきます。ですのでマスターはお部屋で疲れをいやしてくださって結構ですよ?」
「大丈夫か?」
「問題ありません。事前に彼にはもう一人メイドを雇ってほしいと話を通してありますので。」
「あ、もう話をしてあるんだ?」
「はい。その際に彼は快く承諾してくれたので、スリーにはこの城でメイドとして働きながらマスターの戦闘教育をしてもらう予定です。」
「戦闘教育される事実は変わらないのね。」
がっくりと肩を落としていると、スリーが言った。
「これもマスターのためです。受け入れてくださいませ。」
「わかったよ。」
「マスターの一日の行動はすべて把握しておりますので、それに合わせて戦闘教育の時間はこちらで調節しておきます。」
「お、おぅ……わかった。」
有無を言わさないスリーの言動……。どうやらこちらの生活リズムまで彼女に把握されているらしい。これからは俺がいつも休憩をしているときに戦闘教育が施されるのだろうな。
「それではマスター、ナインたちは報告をしに行きますのでお先に失礼いたします。」
ナインとスリーは俺にぺこりとお辞儀をすると城の中へと入っていった。
呆然としながら二人の背中を見送った俺は思わず大きなため息を吐く。
「はぁ~……これからどうなるんだ。」
話しで聞いた限りではナインとのレベリングの3倍激しいって言っていたが……そんな過激なものに俺の体は耐えられるだろうか?とにかくお手柔らかにお願いしたいものだが……。
「たぶんやるとしても明日からだよな?」
さすがに今日の夜からやることは…………ないとも限らないか。
一応覚悟だけはしておいたほうがよさそうだ。
「まぁでも自分のためになることだし、頑張るか。」
もしスリーの戦闘教育を受けて、あの黒いローブを着た男に勝てるのなら……やる価値は十二分にある。男として負けっぱなしではいられないし、これから先あいつの仲間とも戦うこともあるだろうからな。今よりももっともっと強くならなければならない。
「いつまでもピンチの時にナインたちに頼るわけにはいかない。自分の身は自分で守れるようにならないとな。」
パンと頬を両手でたたき気合を入れなおすと、俺も城の中へと戻るのだった。
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