第138話 目覚めると


 意識が暗闇の中へと沈んでいた俺は、不意に口の中に何かにゅるりと生暖かいものが入ってくる感触で意識が強制的に覚醒へと導かれた。


「んむっ!?!?」


「はむっ、れぇ~……。起こしてしまいましたか。」


 目を覚ますと、俺の目の前にスリーの顔があった。


「な、何して……むぐっ!?」


「んっ、ただいまあなたのDNAから情報を読み取っている最中です。少し大人しくしていてください。」


 確かナインを仲間にした時もこんなことをされたような気がする。


 にゅるにゅるとまるで別の生き物のように動き回るスリーの舌に口内を蹂躙されている俺はついに息が苦しくなり藻掻こうとすると、誰かに顔をがっちりと抑えられてしまう。


「んむぐっ!?」


「マスター、動いてはいけません。スリーはナインがマスターの情報を読み取った時と同じことをしているだけです。」


 そんなこと言ったって息がもうっ!!


 いよいよもって呼吸が苦しくなってきたところで、スリーは一瞬口を離して呼吸をさせてくれた。


「ぷはっ!!んむぐぅっ!?!?」


 しかし一回呼吸をさせてくれたと思ったら、すぐにまた口がスリーによって塞がれる。


「マスター、おめでとうございます。スリーもマスターのことをコード9999に値する人間だと認めてくれましたよ。」


 スリーに口内を蹂躙されている俺にナインはそう説明を始めた。


「つまり、スリーもマスターとして認識してくれたというわけです。」


「ん、ぷぁっ……。確かにマスターとして登録しました。ですが、ナイン……マスターへの戦闘教育が足りていないと推測します。今のままでは終末に対応することはおろか、私たち人造人間アンドロイドにすら歯が立ちません。……はむっ。」


「むぐっ!?」


「マスターと共に過ごした経験からですが、マスターは命の危険に晒されれば晒されるほど能力が開花し強くなります。それはスリー、あなたも感じたはずです。」


「…………ぷはっ、確かにそうかもしれませんね。」


 そしてようやく俺はスリーのDNA情報読み取りという名の口付けから解放された。


「はぁはぁ……。」


「お疲れさまでしたマスター。」


 俺を膝枕してくれていたナインは俺の頭を撫でながらそう言ってくれた。


 ゆっくりと俺は体を起こすと、スリーがこちらを向いてぺこりと一礼した。


「改めまして、自己紹介をさせていただきますミズノカオル様。私はミラ博士によって作られた三番目の人造人間アンドロイド識別番号シリアルナンバー003スリー指令ミッションコード9999に則ってこれよりあなた様の所有物としてお仕えいたします。」


「あ、あぁ……よろしくな。」


「えぇ、よろしくお願いいたします。」


「と、とりあえずって呼んでいいのかな?」


「はい、マスターが呼びやすい名前でお呼びください。」


「じゃあスリーで……。」


「かしこまりました。個体名を識別番号シリアルナンバー003スリーからへと変更します。」


 この会話もナインと初めて出会ったときにしたような……。デジャヴを感じる。


「ナインはマスターにあまり戦闘教育を施していなかったようですが、スリーはマスターに更に強くなって頂くため、定期的に戦闘教育を施させていただきます。」


「せ、戦闘教育?」


「はい。確かにマスターの潜在能力、そしてスキルは終末への対策になりえます。しかし先ほどの戦闘データを分析した限り、強力なスキルにマスター自身の実力が伴っていないと判断しました。」


「は、ハッキリ言うなぁ。」


 まぁそれも薄々感じてたけども……。


「スリーにはナインに搭載されていない戦闘用強化プログラムが搭載されています。」


「戦闘用強化プログラム?」


「マスターになった者の根本的な戦闘技術を引き上げるためのプログラムです。良いスキルを持っていてもそれを扱う実力が伴っていなければ、宝の持ち腐れになってしまいますから。」


「それを俺に施すってこと?」


「はい、そういうことになります。」


 あ、ありがたいことなのか?少なくともナインとレベリングをしたときはマジで地獄のような時間だったけれど……まぁあれほどじゃないよな。


「一応聞いておくけど、その戦闘用強化プログラムってのは結構キツイやつなのか?」


「以前マスターはナインとレベリングをしましたね?」


「あぁ。」


「あれを基準として言わせていただくのなら、あれの約3倍と思っていただければ。」


「さ、3倍!?」


 あの時でも何回も何回も死にかけたんだぞ!?その3倍!?


「ご安心ください。マスターが命を落とすようなことまでは致しません。死ぬ直前まで追い詰めることはしますが……。」


「いや全然安心できないが!?!?むしろ不安になったんだが!?!?」


「これもマスターのためです。受け入れてください。」


 無慈悲に放たれたその言葉に俺はがっくりと肩を落とすのだった。


 こうしてスリーが新たに仲間に加わったのだが、これからの俺の日常が不安で仕方がない。


 

 

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