第135話 溶岩のゲートガーディアン


 いざゲートガーディアンの目の前に立つと、溶岩が煮えたぎる体から発せられる焼けつくようなヒリヒリとする熱を感じる。


 流石にあの溶岩の体相手に打撃技は無謀すぎるな。それに接近戦もよくない。となればこいつの出番だ。


 俺は収納袋からアーティファクトを取り出した。


「マスター、先ほどの戦闘データを分析した結果。あのゲートガーディアンは攻撃を受ける場所を一時的に硬質化し、攻撃を防いでいるようです。」


「なるほど。」


 ならどこを攻撃されるのか悟られないように攻撃しないとな。


「まぁ、まずは様子見だ。」


 俺はおもむろにアーティファクトを横薙ぎに一閃する。すると、ゲートガーディアンの溶岩の体を抉りとるように傷が入った。


「ん?」


 攻撃が当たったのは良いものの、まるでダメージが入っているような感じはしない。

 疑問に思っていると、あっという間に傷口が溶岩で塞がり元に戻ってしまう。


「マスター、コアを狙ってください。」


「コア?」


「あのゲートガーディアンは形を保つために魔力を凝縮させたコアがあるようです。」


「なるほど、あの時のやつと同じタイプか。」


 初めてダンジョンに潜ったときに遭遇したゲートガーディアンもコアらしきものがあって、それを破壊したら倒せた。


「さて、そのコアは……どこにある?」


 体のなかに埋め込まれているタイプだから表面上からは探しようがないな。


「手数で押してみるか。」


 数撃ちゃ当たる。そう思った俺はアーティファクトを二度三度と振るった。


。」


 ポツリとそう呟くと同時に、ゲートガーディアンの体が細かく切り刻まれる。そしてボトボトと地面に崩れ落ちていく。


「……やったか?」


「いえ、まだですマスター。」


 ナインの言葉通りに、再び地面に落ちていた岩の破片や溶岩などが集まり始め、体を作り始める。


「オッケー、もうわかった。」


 俺は再生途中のゲートガーディアンの体を再びアーティファクトを振るって微塵切りに微塵切りにする。

 すると、小石程の小さな大きさの丸い塊がポトリと地面に落ちた。再びそれを中心に体が構築されていこうとする寸前で、俺はその塊を手中に収める。


「おっと!!そうはさせないぞ?」


 その塊を手にとってピョンと後ろに飛び退くと、先ほどまでゲートガーディアンの体を構築していた溶岩や岩などがゆっくりと此方へと近づいてくるのが見てとれた。


「やっぱりこいつがコアだったんだな。」


「お見事ですマスター。参考までにお聞きしたいのですが、どうやってその小さなコアを見つけ出したのですか?」


「体が再生する場所の中心にこいつがあるって思っただけさ。ま、山勘ってやつだ。」


「なるほど。」


 俺は手に納めていたゲートガーディアンのコアを握りしめると粉々に砕いた。

 すると、此方へとゆっくり向かってきていたゲートガーディアンの体の破片がピタリと動きを止めた。そして青い粒子となって俺の体に吸収されていく。


「ん、討伐完了っと。さて……後は。」


 俺はチラリと調査隊らしき人達に目を向ける。すると、ビクリと体を震わせた。


「あぁ、安心してくれ。あんた達に危害を加えるつもりはない。」


「な、何者なんだあんたらは……調査隊の応援じゃない……よな。」


 意識があるやつがこちらに問いかけてくる。


「俺達の素性を語るつもりはない。俺達の要求は一つ、すぐにここから立ち去れ。」


「そ、それはできない!!じ、自分達にはこのダンジョンを調査する任務がある!!」


「そのボロボロの体で……か?」


「うっ……そ、それは……。」


「あんたらの事情は少しはわかる。だが、その体でこの先に進むのは自殺行為だ。それぐらいはわかるだろ?」


 そう語りかけながら俺はアーティファクトに魔力を籠めると、彼らの足元へと向かって振るった。


 すると、彼らの足元にザン!!と音をたてて大きな一本の線が引かれた。


「もし……その線を越えるつもりなら、即座に首をはねる。このダンジョンの魔物に殺されるよりも俺の経験値になってもらった方がいいからな。」


 そう脅しをかけると、意識があるやつらは何も言わなくなった。そんな彼らの背後から、先程ゲートガーディアンに殴られて吹き飛ばされた男が脇腹を押さえながら歩いてきた。


「そちらの要求はわかった。俺達はここでリタイアする。」


「た、隊長!?」


「俺達の任務は少しでもこのダンジョンの情報をに届けることだ。ここで死ぬことじゃない。」


 隊長と呼ばれた彼はそう部下を説得すると、こちらを向いた。


「改めて、助けてくれて感謝する。」


「助けたわけじゃない。俺達が先に進むのにこいつが邪魔だっただけだ。ナイン、行くぞ。」


「はい、マスター。」


 ペコリと頭を下げてきた彼に背を向けると、俺とナインは次の階層へと続く階段を下るのだった。


 階段を下る最中、切に俺は……話のわかる人がいてよかった。と思うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る