第134話 先客


 次の階層へと降りる階段を下りていくと、次に俺たちを待ち構えていたのはボコボコと真っ赤なマグマがそこらじゅうで煮えたぎっているステージだった。


「うはぁ……雪山の次は火山か。」


 しかも火山は火山でもバリバリの活火山。雪山ステージを攻略したままの装備で来たからここは暑すぎる。


 防寒着を脱いで収納袋へと仕舞うと多少涼しくはなったが、煮えたぎる溶岩の熱波はひりひりと肌が焼けるような暑さだ。


「ふぃ~、流石に寒暖差が激しすぎるな。一介の人間にはなかなか堪えるぞ。」


「マスター、確かにマスターは人間という種族ではありますが、個体性能は魔族にも引けを取っていないので……。という表現は間違っているかと。」


「ナインは俺が人間辞めてるって言いたいのか?」


「はい。」


「そうハッキリ言われえると少し傷つくぞ?」


「申し訳ありませんナインは称賛の言葉を述べているつもりでした。禁句として記憶領域データベースに保存しておきます。」


「まぁいいんだけどさ。」


 実際最近人間離れしてきているのは俺自身感じ始めていたことだし……な。


「さてと、こんな暑いところもさっさと抜けたいし……。ナイン、ゲートガーディアンの反応はあるか?」


「あります。ですが……これは……。」


「ん?どうした?」


「ゲートガーディアンの近くに魔族と思わしき反応があります。現在戦闘中のようです。」


「なんだって?」


 俺達よりも先にダンジョンに潜ってたやつらがいるのか?

 ってことはさっきのゲートガーディアンも倒して来たって事だし……結構な実力者なのかな?


 そんなことを思っていると、俺はある組織のことを思い出した。


「あ、そういえば……ダンジョンができたときにすぐに調査をする人達がいるって聞いたな。もしかしてその人達か?」


「かもしれません。センサーによると5名でゲートガーディアンと戦闘中のようです。」


「ほう。」


 鉢合ったらなかなかめんどくさそうだな。アンドロイドのことを知られるのもよろしくない。


「…………で、状況的にはどうなってる?」


「既に全員が魔力枯渇に陥っている上、何名かは負傷して動けなくなっているようです。」


「なるほど、そいつは好都合だ。」


 その人達には悪いが……ここでリタイアしてもらおう。


「少し様子を見るぞナイン。」


「かしこまりましたマスター。」


 急ぐことなく、ゲートガーディアンのいる方向へと向かう。


 すると、程なくして地響きや衝撃音が聞こえてきた。


「近いな。もう少し先か。」


「はい、もうすぐ見えるかと。」


 戦闘音のする方へ歩みを進めると、すぐにゲートガーディアンらしき真っ赤な溶岩で体を覆っている魔物と、そいつの目の前で倒れている人達の姿を見つけた。


 倒れている人数は3人、満身創痍ながらも立って戦っているのは2人……。もう少し様子を見てもよさそうだ。


「ナイン、倒れてる人達は生きてるか?」


「はい、魔力枯渇と疲労、そして負傷で動けなくなっているだけのようです。命に別状はありません。」


「あっちの2人は?」


「倒されるのも時間の問題かと。」


「わかった。それじゃああの2人が戦闘不能になったらここから出て戦おう。」


「了解しました。」


 獲物を横どりするみたいで申し訳ないが……。まぁこちらにも事情というものがある。死ぬ前に助けてもらえるだけありがたいと思ってほしい。


 命があるだけ儲けものって言葉もあるからな。


 そうして彼らの戦闘を物陰から眺めていると、さっそく溶岩の体のゲートガーディアンが動き出した。


「グォォォォォッ!!」


「来るぞっ!!」


「はいっ!!」


 大きな咆哮と共にゲートガーディアンの口から煮えたぎったマグマの弾をいくつも放出された。調査隊らしき2人は間一髪それをかわすと各々の武器で切りかかった。


 しかし……。


 ガキンッ!!


「なっ!?」


 攻撃に使った剣が運悪くゲートガーディアンの硬い部分に当たりへし折れてしまう。一人がそれに驚いている間に、もう一人がゲートガーディアンの拳をモロに食らって、近くの岩に叩きつけられしまいぐったりと力なく崩れ落ちた。


「ジンっ!?このっよくもォォォォッ…………ガ八ァッ!?」


 先ほど剣を折られた人が怒りを露にするが、そんなことお構いなしにゲートガーディアンは彼にマグマの弾を当てた。


「ぐっ……クソがっ!!」


 とっさの判断でドロドロに溶け始めている防具を即座に脱ぎ捨てた彼だったが、彼の眼前に岩で握り固められたゲートガーディアンの拳が迫る。


「し、しまっ……!!」


 巨大な拳に押しつぶされるようになってしまった彼は声を上げることもできずに、吹き飛んでいく。


「オォォォォォッ!!」


 まるで勝利の雄叫びを上げるかの如く、ゲートガーディアンは吠える。そして先に倒れていた3人に目を向けると手のひらの上からボコボコと沸騰する溶岩を流し始めた。


「ヒィッ!?」


 どろどろの溶岩を手のひらから溢れさせながら近づいてくるゲートガーディアンの姿を目にして倒れていた三人の顔が一気に真っ青になる。どうやらあの溶岩で全員を溶かし尽くすつもりらしい。


「さて、そろそろいいかな。ナイン行くぞ。」


「了解しましたマスター。」


 そこで俺とナインは物陰から飛び出すとゲートガーディアンの前に立ちふさがった。


「さ、今度は俺らが相手だ。」


 

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