第120話 訪れ
ステラを退け、魔王城へと帰還している最中ステラたちが乗っていた馬車がものすごい勢いで俺の横を通り過ぎて行った。チラリと見えた馬車の窓の向こうには焦った様子のイリアスの姿が見えた。
「……今乗ってたの、イリアスだったよな?」
あんなに馬を走らせてどこへ行くのだろうか?
「まぁいいか。」
特に気にすることもなく俺は魔王城へと向かった。
すると、城門の前にジャックが立っていた。
「おかえりなさいませカオル様。どうやらうまくいったご様子ですな。」
「えぇまぁ、ステラはなんとかしました。それで、さっきイリアスが馬車を走らせていったみたいですけど……。」
「頼みの綱であったステラ様がいなくなられたので、身の危険を感じてヒュマノへと引き返すようですよ?」
「はぁ……。」
まるで台風みたいなやつらだったな。荒らすだけ荒らしてすぐに過ぎ去っていった。まぁ長いこと滞在されるよりかは遥かにマシだけどな。
「それじゃあカナンを連れてきてもよかったですね。」
「そうかもしれませんな。ですが念のため、もう一日カーラ様に面倒を見てもらってはいかがでしょうか?」
「……そうですね。」
念には念を押しておいて損はないだろう。
「それにしても、ステラ様を退けるとはカオル様も強くなりましたなぁ。」
「まだまだですよ。これでもナインにもジャックさん、あなたにも勝てる気はまだまだしませんし。」
「ホッホッホ、ご謙遜を。四魔女の一人であるステラ様に勝ったという事実は変わりません。それだけカオル様が強くなっている証拠。私としても喜ばしい限りでございます。」
まぁ、彼の言う通り俺は強くなっている。初めてこの世界に来た時と比べれば圧倒的に……。そのおかげで守れるものも増えたし誰かの役に立つこともできている。それは紛れもない事実だ。
「さて、立ち話もこの辺にしてそろそろ中に入りましょうか。魔王様たちも待っておられますのでね。」
「そうですね。」
そうして俺は彼と共に城の中へと戻った。
イリアスたちがこの国からいなくなり、カナンの安全が確保された後日俺は改めてカーラの家を訪ね、カナンを迎えに行った。
そして再び、平穏な日常が戻る。しかし平穏な日常が戻ると同時に、
ステラたちが去ってから数日後、新たな一報がこの国全体に知れ渡ることになった。
コツコツ……コツコツ。
明朝から窓をつつく音が聞こえる。
「んん……また号外か?」
今度は何事か……と思いながら、重たい瞼を擦りつつ窓を開けると、そこにはお馴染みの号外鳥が新聞を咥えていた。
「ありがとな。確かに受け取ったよ。」
新聞を受け取ってポンポンと号外鳥の頭を撫でてやると、再び新聞を咥えてどこかへと飛び去っていった。
「さてさて、今度はなんだ?」
折り畳まれた新聞を開いてみると、そこには大きな見出しでこう書いてあった。
『スカイフォレスト最接近!!至極の野菜入手のチャンス!?』
「お、やっとヒュマノからこっちに流れてきたのか。」
この前ジャックの話ではアルマ様がサンサンフルーツを欲する時期にこちらに流れてくるって話だったけど、もうそんな時期になったのか。
スカイフォレスト……行く目的はサンサンフルーツを確保することだが、個人的興味を引くものが山ほどあるだろう。一度食せば地上の野菜が食べられなくなるほど美味しいという野菜……地上には生えていない植物……。
ジャックも言っていたが今回は本当に観光気分で楽しめそうだ。
「さて、そうと分かれば準備を始めようか。」
スカイフォレストがこっちに流れ着いたということはアルマ様の次の魔王としての覚醒が近いということ。だからサンサンフルーツをアルマ様に求められたらすぐにスカイフォレストに向かって持って帰れるようにしなければ。
まずはラピスの協力を仰ごう。彼女なしではスカイフォレストにたどり着くことはできない。
そう思った俺は部屋を出てラピスの部屋へと向かった。そして彼女の部屋をノックすると……。
「くぁぁぁ……誰だ~?」
「俺だカオルだ。」
「む~カオルか、ちと待っておれ。」
彼女に言われたとおり少しドアの前で待っていると、あくびをしながら瞼をこする彼女がドアを開けてくれた。
「ふぁぁ……朝早くからどうしたのだ?」
「さっき届いた号外見たか?」
「うむ、スカイフォレストがどうたらこうたらと書いてあったが。」
「そのスカイフォレストにアルマ様が次に欲する食材があるんだ。」
「ふむ。」
「それで折り入って頼みがある。そこに俺を連れてってくれないか?」
「う~む、どうしようかのぉ~。やはりなにか褒美がなければのぉ~?」
そう言ってチラチラとこちらを見てくるラピス。本当にがめついな。
「スカイフォレストにはとんでもなく美味しい野菜や果物がたくさんあるらしいぞ?」
「まことか!?ならば行かぬという選択肢はあるまい!!誰よりも先に行って喰らいつくしてやるのだぁ~!!」
ホント単純で助かるよ。
食い物の話で一人で盛り上がりだした彼女を見て俺は思わずクスリと笑ってしまった。
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