第115話 カナンとカーラ


 俺はアルマ様の部屋の扉をコンコンとノックした。


「は~い!!だれ~?」


「アルマ様、カオルです。」


「カオル?入って入って~。」


「失礼します。」


 ガチャリと扉を開けて中に入ると、アルマ様とカナンとメア、そして三人にもみくちゃにされているラピスの姿があった。


「ぬぐぐ、カオル良いところに来たのだ。わ、我を助けてくれ。」


「遊び相手になってるようで何よりだなラピス。そのまま一緒に遊んでくれ。」


「無慈悲かおぬしは!?」


 さてさて、今はラピスのことよりもカナンのことが優先事項だ。


「カナン、ちょっといいか?」


「はい?なんですかカオルさん。」


 一人とことことこちらに歩いてきた彼女に俺は近々ヒュマノの人間たちが来ることを伝えることにした。


「カナン、落ち着いて聞いてほしいんだが……どうやら近々ヒュマノの人たちがキミのことをこの国に探しに来ようとしてるみたいなんだ。」


「えっ……。」


 それを伝えると露骨に彼女の表情が暗くなる。不安そうな表情を浮かべる彼女の頭に俺は優しく手を置いた。


「そんなに不安そうな顔をしないでくれ、カナンのことは俺たちが絶対に守るからさ。」


「で、でもそれじゃあカオルさんたちに迷惑が……。」


「そんなのキミをここに攫ってきたときに覚悟はしていたさ。それにカナンだってヒュマノにはもう戻りたくないんだろう?」


「……はい。」


「うん、なら俺たちに任せろ。」


 俺はカナンの手を引くと、アルマ様に言った。


「アルマ様、少しカナンを借りていきます。」


「ふぇ?どうかしたの?」


「詳しい事情は後程ジャックさんが説明してくれます。今は一刻を争いますので、それではっ!!」


「ふわぁっ!?か、カオルさん!?」


 俺はカナンを抱きかかえるとアルマ様に一礼して部屋を後にした。


「わ~、カナン良いなぁお姫様抱っこ……後でアルマもやってもらお!!」


「私もパパにやってもらいたい。」


「お、おぬしら……いつになったら我を解放してくれるのだ?」


 カオルがいなくなった部屋ではそんなやり取りが行われていた。


 そしてカオルと入れ違いでジャックが部屋の扉をノックしたのだった。










 カナンのことを抱きかかえて城を飛び出した俺は人目につかない裏路地を走り抜けてカーラの家へと向かった。

 その途中、カナンが顔を真っ赤にしながら言った。


「あ、あの……カオルさん。この格好はちょっと……。」


「もうちょっとの辛抱だ、我慢してくれ。」


「はぅぅぅ……。」


 赤面した顔を両手で覆い隠しながらも、カナンは頷いた。


 そして誰にも見られることなく、カーラの家へとたどり着いた俺は敷地の中に設置されているボタンを押す。

 すると、少し間を置いてからカーラが家のなかから姿を現した。


「昨日の今日ですみませんカーラさん。」


「いいんだよ、その子を連れてきたってことはヒュマノから連絡があったんだろ?」


「はい。」


「……にしても、随分ロマンチックな抱えかたしてるねぇ。」


「え……あっ!!」


 あの時咄嗟にカナンのことを抱き抱えたから対して意識してなかったけど、よくよく見たら彼女のことをお姫様抱っこしていた。


 だからカナンはあんなに恥ずかしがってたのか。ようやく合点がいった。


「す、すまないカナン。今降ろすからな。」


「は、はい……。」


 ゆっくりと俺はカナンのことを降ろすと、彼女はホッと一つ息を吐いた。


「リルからヒュマノの連中について新しい情報も入ってる。まぁ、中で聞いてきな。」


「ありがとうございます。」


 そしてカナンと二人でカーラの家のなかへと入ると、早速カーラはリルが仕入れたという情報を教えてくれた。


「リルが仕入れた情報だと、今回のヒュマノの調査隊の連中のなかにはの姿もあったらしいんだ。」


 俺はその名前に聞き覚えがあった。


「ステラって……カナンに封印をかけた南の魔女ですよね?」


「あぁ、その通りさ。恐らくは……勇者を見つけた時に捕縛するために同行してる。まだ成長途中の勇者じゃ、ステラの封印魔法に抵抗レジストなんてできやしないしねぇ。」


 カーラの言葉を聞いてカナンの表情が青くなる。それを見たカーラは優しくカナンに語りかけた。


「安心しな、アタシの家にいる限りステラなんかに見つかりゃしないよ。」


「ほ、本当……ですか?」


「アタシは嘘はつかないさ。それに、アタシ以外にもカオルやリル、他にもあんたのことを守ってくれるヤツがいる。大船に乗ったつもりでいなよ。」


「あ、ありがとうございます。」


 少し表情に明るさが戻ったカナンをみて満足した様子のカーラは一つ頷いた。


「それでいいのさ。ほら、甘いクッキーでも食べな。」


 そう言ってカーラは皿に山盛りに盛り付けられたクッキーを食べるようにカナンに促した。おずおずとしながらも、それを食べ始めたカナンは少し落ち着いたようだった。


 それを見て一安心した俺はカーラに頭を下げて言った。


「それじゃあカナンのことをよろしくお願いします。」


「あぁ、任せなよ。」


「あ、カオルさん……。」


 立ち上がった俺に、まだ居てほしいと言わんばかりに視線を向けてきたカナン。俺は彼女の頭に手を置いて言った。


「大丈夫、全部終わったらすぐに迎えに来る。」


 そう告げて、俺はカーラの家を後にした。カナンをヒュマノの連中に渡すわけにはいかない。そのためにもやることが山ほどある。

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