第116話 南の魔女来訪
カナンをカーラに預けて城へと戻ると、なにやら見覚えのある馬車が城門の前に止まっていた。
「この馬車は……確か前にイリアスが乗ってきた馬車だよな。」
馬車のなかには人の気配はない。ということはもう既に城の中へと入っているということだ。
「はぁ、まったく……手紙が届いたその日に来るとは。」
まぁ非常識な奴等だからこのぐらい予想はしていた。だから俺はいち早くカナンのことをカーラに預けに行ったのだ。
「さてさて……見たくもないヤツの顔を拝みに行くのは憂鬱だが、行くしかないか。」
そして城の中へと入り、応接室の近くを通りかかると、中から聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。
「王を暗殺した者はきっとこの国のヤツに決まってるんだ!!」
そう憤慨し、大声をあげているのは間違いなくイリアスだ。
「イリアス様、先程から口からでる言葉はその一点張りですが……我々魔族があなた方の国王を殺したという確たる証拠はおありで?」
「証拠だと?そんなもの必要ない!!全国民に慕われていたあの王を、殺せるのは貴様ら魔の者しかいないだろう!!」
あちゃ~……こりゃあ何を言っても聞かないやつだ。
「それに少し前にこちらの勇者をも姿を忽然と消した!!こんな短期間に二度も国を揺るがす出来事が起きるはずがないっ!!貴様らが仕組んだんだろうっ!!」
そう怒声をあげるイリアスだったが、そんな彼を止めるべく声をあげた人物がいた。
「イリアス、落ち着け。」
「ぐっ……ステラさん。」
「ジャック殿、我々はそちらの言う確たる証拠を求めてこの国に足を運んだ。こちらの調査で証拠を掴み、そちらがその証拠で納得すれば……犯人の身柄は我々に預けてくれるな?」
「もちろんです。」
「うむ、ではもうここに用はない。行くぞイリアス。」
「はっ……。」
すると、応接室の扉が開き一人の女性とイリアスが出てきた。鉢合わせてしまった俺に、彼女の視線を向けて問いかけてくる。
「お前は……この城の使用人か?」
「はい、ここで魔王様に料理を作らせて頂いてます。」
「そうか、では失礼する。」
興味なさそうに顔を背けると、彼女はイリアスを連れて城を出ていった。
呆然とそれを眺めていると、背後にジャックが立っていた。
「いやはや、話の通じる方がいて助かりましたな。」
「あの人は?」
「あの方は南の魔女……ステラ様です。」
あの人が……南の魔女。カナンに封印魔法をかけた張本人か。
確かカーラの話では学校の校長をしているんだったな。服装はまるで軍服をアレンジしたようなワンピースだったし……魔女というイメージとはかけ離れていた。
「今回ヒュマノからはステラ様と、あのイリアスという男の二人が派遣されて来たようです。」
「えっ!?この広い国を調査するのに二人だけ!?」
「はい。ますますきな臭いですな。国王が殺されたにも関わらず、調査隊はあの二人のみ……。ここまで来ると、何か他の目的があると思うのが必然でしょう。」
「なら、最初からこの国に来た目的はもしかして……。」
「恐らくはカナン様を探しに来たのでしょうな。勇者という強大な存在をこの広い国のなかから見つけ出すならば、魔法に長けているステラ様が適任ですから。」
本当の目的はそっちか……。リルとカーラが昨晩言っていた事がいよいよ現実味を帯びてきたぞ。
「カナン様はカーラ様のもとに預けたのでしたな?」
「はい。」
「それならば大丈夫でしょう。恐らくステラ様の探知魔法にもカーラ様の家は引っ掛かりませんからな。」
心配する俺の肩にジャックは手を置くと、にこりと笑った。
「彼らもなにも見つからないとなれば、時間の無駄だと気がついて早々に立ち去るでしょう。今暫しの辛抱です。」
「そう……ですね。」
その日の夜……メアを寝かしつけて、俺が寝付こうとすると、不意に部屋の扉がノックされた。
「はい?」
「あ、か、カオル?アルマだけどさ……入ってもいい?」
「アルマ様?どうぞ、入ってください。」
「う、うんじゃあ入るね。」
パジャマ姿で入ってきたアルマ様はこちらに歩み寄ってくると、言った。
「や、やっぱりカナンがいないとちょっと寂しいね。ラピスもメアも一緒に遊んでくれるけど、一人いないだけですごく寂しいんだ。」
少ししゅんとしながらアルマ様は言った。
「カオル、カナン……連れてかれないよね?」
「きっと大丈夫ですよアルマ様。」
「うん、ちょっと安心した。」
口ではそう言ってはいるが、表情の曇りは晴れていない。心の底ではまだ不安でしかたがないのだろう。
すると、何を思ったのかアルマ様は俺のベッドに潜り込んできて俺の体にぎゅっと抱きついてきた。
「あ、アルマ様?」
「カオル……ちょっと寂しいから、今日は一緒に寝てもいい?」
少し潤んだ瞳で見つめてくるアルマ様。そんな表情で見つめられては断ることはできなかった。
「わかりました。少し窮屈かもしれませんが……お休みになってください。」
「うん、ありがと。あ、あと……一つお願いがあるんだけど……。」
「はい、なんでしょう。」
「アルマが寝るまで頭撫で撫でしてくれない……かな。」
「わかりました。」
そうして暫くアルマ様の頭を撫でていると、すやすやと寝息をたて始めた。
「……大丈夫ですアルマ様。もしもの時は俺が必ずカナンを取り戻しますから。」
安らかに眠るアルマ様に俺はそう誓いをたてるのだった。
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