第114話 フェイク?
カーラがテーブルの上に置いたのは、今朝方配られた号外だった。リルはそれを見ると大きなため息を吐いた。
「はぁ~、でたでた。ヒュマノの王様が誰かにやられたってやつね。これホントなのかなぁ……いまいち信じられないんだよね。」
「まぁ……ねぇ。正直なところ、アタシも少し疑ってるよ。」
「それはまたどうしてです?」
この号外に書かれていることが真実であることを疑う二人にそう聞くと。
「まず第一の要因は、ヒュマノの城を守る結界だよね~。」
「あぁ、南と東の魔女が作ったあの大結界は易々と突破できるもんじゃないよ。アタシ自身あれを突破できるようなヤツは知らな…………あっ。」
カーラが話していた最中、彼女はふとあることに気がついて俺の方に視線を向けてきた。
「いや、アタシの知り合いに一人……あれを突破して勇者を拐ったヤツがいたねぇ?」
「あ……。」
カーラの言葉で、リルも勘づいたようで二人の視線が俺に注がれた。
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。流石に人殺しなんて俺はやりませんよ。」
「あはは、冗談だよ。私達だってキミがそんな事するような人間じゃないってのはわかってる。ねぇ~カーラ?」
「あぁ、もちろんだよ。」
焦った様子の俺を見てクスクスと笑う二人に、ホッと安堵のため息を漏らしてしまう。
「はぁ~……あんまりからかわないでくださいよ。」
「ごめんって、まぁまぁさっきの話を続けようか。今言った結界ってのが一つなんだけど。まだもう一つあるんだよ。」
「そのもう一つってのは?」
「ヒュマノの国王の護衛さ。ヒュマノでも選りすぐりの猛者が付きっきりで護衛してるのに、それすらもすり抜けて国王を暗殺できるとは思えないんだよ。」
「まぁ、それを聞くと確かに……。」
「だから、アタシらが可能性として考えてるのは……この事件は、カオル……あんたが拐ってきた勇者を探すための口実作りなんじゃないかってこと。」
「口実作り……ですか?」
「そっ、多分ヒュマノの人間たちはあのこの子とを血眼になって国内全域を探したと思うんだよね。でも、見付からなかった……そうなると必然的に次に探す場所はこの国になるって訳。」
二人の話を聞けば聞くほど、その考察が当たっているような風に思えてくる。
というのも、ヒュマノの国王が死んだという特大のニュースを流し、こちら側が潔白を証明するために彼らを受け入れざるを得ない状況になっている今……そう考えるとすべての辻褄が合うのだ。
「勇者はヒュマノからしたら魔王様に対抗できる唯一と言っていい手段の一つだからねぇ。あっちからしたら、なんとしてでも取り戻したいんじゃないのかい?」
「確かに……そうですね。」
もし、仮にこの考察が全部的を射ていたとしたら……ヒュマノの連中が来る前にカナンにはどこかに身を隠してもらわないといけないな。
「カーラさん、お願いがあるんですけど……。」
「ん?どうしたんだい?」
「もしヒュマノの連中がこの国に来たら……カナンのことを預かってもらえませんか?」
「別に構わないよ。」
そうお願いすると、意外にも彼女はすんなりと首をたてに振ってくれた。
「い、いいんですか?」
「アタシもあの子の封印を解いた時点で共犯者だからねぇ。今更さ。それに……。」
チラリとカーラはリルに視線を向けると、彼女の肩に手を回してぐいっと引き寄せた。
「わっ!?な、なにするのさカーラ。」
「リル、あんたにももちろん協力してもらうからね?」
「え、えぇ~!?」
「勇者がこっちにいるってことを知ってる時点で共犯さ。それに、情報操作はあんたの得意分野だろ?」
「う~……もぉ~仕方ないなぁ。わかったよ、できることはやるよ。」
「ありがとうございますリルさん。」
「いいよいいよ、まぁ私的にもヒュマノの連中がこの国に長いことのさばられるのは勘弁してほしいからね。」
諦めた表情でそう言ったリルは注がれていた酒を一気に呷った。
「ぷはっ……その代わり、後でいいお酒一杯奢ってもらうからね。」
「何杯でも奢りますよ。」
「言ったなぁ~?その言葉忘れたなんて言わせないからね!!」
すると、なにか吹っ切れたようにリルはどんどん酒を飲み干していく。
今度の依頼のお陰でお金は大分余裕ができたし……ちょっとお酒を奢るぐらいならなにも問題ないはず…………うん、はず。
まぁとにもかくにも、心強い見方が二人もできたことを今は素直に喜ぼう。
この翌日……ジャックのもとにヒュマノから事件調査のため国へと立ち入る。という旨が書かれた手紙が送られてきた。
その事を告げられた俺は、カナンにカーラの家に隠れているように伝えるためアルマ様と遊んでいる彼女のもとへと向かうのだった。
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