第113話 厄介事の匂い
少し時が流れ、メアがすっかりこの魔王城での暮らしにも慣れて、周りのみんなも彼女がいることにすっかり慣れた頃だった。
「ん、ふぁ……朝か。」
窓から射し込んでいる陽の光で目を覚ますと、ふと窓を何かがコツコツとつついているのに気が付いた。
「また号外か?」
こんな風に窓をコツコツとつつくのは号外鳥位なものだ。隣で寝ているカナンとメアの二人を起こさないようにゆっくりと体を起こすと、窓を開けた。
するとそこにはやはり一枚の新聞を咥えた号外鳥が待機していた。
「いつもご苦労様。」
そう告げて新聞を受けとると、号外鳥はまたどこかへと羽ばたいていった。
「さてさて、今度は何が起きたのやら……。」
新聞を開いてみると、そこにはとんでもないことが大きな見出しで書かれていた。
「……ヒュマノの国王暗殺?」
俺は新聞の見出しを見て一瞬我が目を疑う。
半信半疑のまま、記事を見てみると……。
どうやら昨日、ヒュマノの国王が暗殺されたと、ヒュマノが公表したらしい。
その情報が今日……こちらに号外となって入ってきたようだ。
「ヒュマノの側が公表してるってことなら間違いない……のか?」
ヒュマノの国王と言えば、あの傲慢な態度の老人のことだろう。国王となればもちろん警備も厳重なはずだし……そう易々と暗殺できるような人物ではないはずだ。
で、一番の問題はそれを誰がやったかってことだが……。
記事を読み進めていくと、思わずため息を吐き出しそうになるような文章が書かれていた。
『現在ヒュマノは犯人は強大な力を持った魔族ではないかと疑い捜査中。また勇者を拐った犯人との関連性も調べている。近々この国を調査のため訪れるのではないだろうか。』
「……はぁ、なんでまたすぐにこっちを疑うかな~。」
この文章を読んでため息を吐きたくなるのは俺だけではないはずだ。
おそらくジャックも今ごろは……。
と、思っているとちょうど部屋のドアがコンコンとノックされた。
「カオル様、起きておいでですかな?」
「あ、はい起きてます。」
「少々お話したいことがございますので、私の部屋まで来ていただけないでしょうか?」
「わかりました。すぐ行きます。」
「ありがとうございます。…………はぁ。」
ジャックの去り際にドア越しに大きなため息が聞こえた。まぁ、おそらく彼もこの記事に目を通したんだと思う。
話ってのもこれについてだろう。
俺は号外をテーブルの上において、軽く着替えをしてからジャックの部屋へと向かった。
「ジャックさん?」
「おぉ、来てくださいましたか。どうぞお入りください。」
扉を開けて中にはいると、彼は既に温かい紅茶を淹れて出迎えてくれていた。
「あの……話ってもしかして今日の号外のこと……ですよね?」
「はい。」
呆れながらジャックは頷く。
「ヒュマノの国王暗殺に我々魔族が関与している……とあちら側は思っているようで。」
「少しは自分達の身内を疑うとかしないんですかね?」
「恐らくそれは面子の問題でしょう。仮に自国の何者かに暗殺されたとなれば、国の顔が立ちませんからな。」
「あくまでも国の面子を潰すぐらいなら因縁を吹っ掛けてでも、自分達の面子を保ちたいってことですか。」
呆れてため息しか出てこないなこりゃあ。
「それで、ヒュマノからなにか連絡は?」
「まだありません。」
まだ……か。いずれは何かしら連絡が来るだろうとジャックも読んでいるのだろうな。
「そうですか。はぁ、またまた面倒事の匂いがしますね。」
「まったくですな。」
朝からお互いにため息が尽きない俺とジャックだった。
その日の夜、前に討伐したレッドスキンとブラックスネークの報酬を貰うためにギルドへと赴くと、そこには案の定と言うかなんと言うか、リルとカーラの姿があった。
「あ、やっときたね~。」
「こんばんはリルさん、カーラさん。」
「元気そうで何よりだよカオル。」
俺が席につくと、酒とともにリルは大きな皮袋を三つ取り出した。
「いよいしょ!!」
「うはぁ~、随分たんまり稼いだみたいだねぇ~。」
「あはは、ちょっと頑張りましたから。」
「一応何回も数えたから間違いない……とは思うけど、こっちの袋二つに白金貨が5枚ずつ。と、この袋にはおまけの金貨が80枚。金貨の方は数えるの面倒だと思うからとりあえず白金貨だけでも自分で確認してくれるかな?」
「わかりました。」
ひとまず袋を開けて白金貨の枚数を数えると、ぴったり10枚だった。
「大丈夫そうですね。」
「うんうん、ならよかったよ。」
「金貨の方は後でゆっくり数えときます。」
「そうしてくれると助かるよ。足りなかったら気軽に言ってね。」
「ありがとうございます。」
そして報酬の受け取りを終えると、カーラがあるものを取り出した。
「ま、そろそろ本題に入った方がいいんじゃないかい?こいつのさ。」
そう言ってカーラが取り出したのは今朝配られた号外を取り出した。
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