第107話 養うために


 ユニコーンのメアをこの城に迎え入れたその日の夜、俺が魔物ハンターとして依頼を受けに行こうとすると、ベッドで横になっていたはずのメアがゆっくりと体を起こした。


「パパ?どこ行くの?」


「ちょっとお仕事に行ってくる。メアは先に寝てていいぞ?」


「一人はイヤ。私のことも連れてって?」


 そう言って着いてこようとするメアに俺は優しく言った。


「いいかメア、今から俺が行くお仕事はとっても危ないんだ。だからメアのことを連れていくことはできない。」


「でも、一緒に行きたい。」


 不安げに俺にすり寄ってきたメアの頭を撫でながら彼女のことを諭す。


「メア、もし着いてきてキミが怪我をしたら悲しむのは誰だと思う?」


「う~ん?パ……パ?」


「そう、メアは俺が悲しんでる姿を見たいかい?」


「うぅん。」


 俺の問いかけにメアは首を横に振った。


「ならここで待っていられるね?」


「うん……わかった。」


「いい子だ。」


 納得してくれたメアの頭をやさしく撫でると、彼女はすっと俺から離れてくれた。


「じゃあパパが帰ってくるまでここで待ってる。」


「眠くなったら先に寝ててもいいからな?」


「頑張って起きてるもん。」


「とにかく無理はしないようにな?それじゃあ行ってくるから。」


「うん、行ってらっしゃいパパ。」


 メアに見送られて、部屋を出るとちょうどアルマ様と遊んで戻ってきたカナンとばったり会った。


「あ、カオルさんお出掛けですか?」


「あぁ、ちょっと魔物の討伐依頼こなしてくる。」


「気を付けてくださいね?」


「わかってる、あ……そうだ。今部屋の中にメアがいるから、あの子とも一緒に遊んでやってくれ。俺が帰ってくるまで起きてるって言い張ってるからな。」


「あはは、カオルさん帰ってくるのいっつも朝方ですもんね。」


「そういうこと、疲れてるかもしれないけど頼む。」


「任せてください!!」


 快く請け負ってくれたカナンに一言お礼を告げて、俺はギルドへと向かうのだった。










 いざギルドに着いた俺は、いつものように酒場にいたリルに軽い挨拶をすると何か依頼がないか聞くことにした。


「なんかこの辺で魔物の討伐依頼とか出てないですか?」


「この辺かぁ~、最近めっきり行商人とかも襲われる事例もないし、魔物が増えすぎてるって報告もないんだよね~。ホント平和って感じ。」


「あちゃ~……。」


 思わず頭を抱えた俺に、彼女は首をかしげた。


「何か魔物を倒さないといけない事情でもあるの?」


「いや~、ちょっと最近養わないといけない人が増えて……。」


「あー、あのカナンって子とか?」


「そうです、そうです。」


「確かキミって相方のあの子の家賃もジャックに払ってるって言ってたよね?ってことはキミも含めて家賃の出費は三人……まぁちょっとキツいね。」


 そして注がれていた酒を一気にぐいっと呷ると彼女は席を立った。


「ちょっと待っててね~。」


 そう待つように言って彼女は受付の奥にある依頼書がまとめられたファイルをいくつか物色し始めた。

 そしていくつかそれを手にして戻ってくると俺の前で早速開いてみせてくれた。


「ん~、そうだねぇ~。今確認してみたけどこの周辺で討伐依頼が来てるのは、黒い森にいる残党レッドキャップの討伐依頼。」


「残党レッドキャップ?」


「キミ、覚えてないのかい?自分でレッドキャップの集落を壊滅させたじゃん?あの時の残党だよ。」


「あー……あの時の。」


 今思い返してみれば懐かしいな。あの時はレベル20になるために必死だった。


「まぁ前と違って残党だから統率力もないしブロンズのハンターでもこなせる依頼だから、報酬はかなり少ないよ。」


「ですよね……。」


「あとは~まぁスケイルフィッシュの依頼とかもあるけど、これも最近報酬額が落ちてきてるね。ってのも、あの湖に住んでるスケイルフィッシュの数がここ最近一気に減り始めたからね~。」


「あちゃ~……。」


 まぁこのギルドの人気メニューとしてあのフィッシュアンドチップスが出てからは、スケイルフィッシュの依頼を受けるハンターが多かったからな。毎日のように乱獲されたら……そりゃあ減るよな。


「まぁ、そんな感じで今ここいらだと美味しい報酬の依頼はないんだよ。でも……。」


 リルはこの城下町周辺の依頼がまとめられた赤いファイルをパタンと閉じると、今度は青いファイルを開いてみせてくれた。


「そっちは?」


「こっちのファイルはね、他の魔物ハンターギルドで処理しきれなかった依頼のファイル。」


「処理しきれなかった……というと?」


「まぁ、簡単な話。依頼として入ってきた魔物が強すぎて誰も倒せない依頼とか。魔物が大繁殖しすぎて手が足りない依頼とかさ。要はかな~り面倒な依頼ってわけ。」


「なるほど。」


「ま、困難な依頼の分……報酬の方も豪華なんだけどね~。」


 彼女は手でお金のマークを作ると、ニヤリと笑った。


 まぁ、報酬が豪華なら……やる価値はある。それに近くで良い依頼がないのなら、こういうのに頼るしかないからな。

 多少遠くでも、ナインに頼めば移動のことはなんとかなるだろうし。


 今の俺に迷う選択肢などなかった。

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