第106話 ユニコーンのメア


 なんとかジャックの説明のおかげでアルマ様たちは状況を理解すると、安心したようにほっと胸をなでおろした。


「そっか~、そういうことだったんだね~。アルマびっくりしたよ、知らない子がカオルにくっついててって呼んでるだもん。」


 そうアルマ様が口にすると、俺にぴっとりとくっついて離れない幻獣の卵から生まれた少女が少しムッとしたように言った。


「パパはパパだもん。私のこと育ててくれたんだもん。」


「ま、まぁそれは変わらない事実だと思うけどさ。キミって幻獣?なんだよね?なんでそんなに人に近い姿をしてるの?」


「この姿はパパと一緒に暮らすのに一番適した姿。わざわざパパの迷惑になる姿で生まれてきたりしない。」


「ふぅ~ん?そういうことね。なんか納得。」


 この子の言うことは確かに納得できる。下手に人じゃない姿で生まれてこられても俺が住んでるこの環境にはおそらく合わない。人間に近い姿だからこそ、一緒に生活できるというのは間違いない。


 しかし、俺には一つ疑問が残っていた。


「な、なぁ?」


「……??どうしたのパパ?」


「確か幻獣って警戒心が強くて、人間の前には姿を現さないんだよな?」


「パパは別。魔力も美味しいし、他の人間みたいに魂が汚れてない。」


「魂が……汚れてない?」


「私はユニコーンだから、魂の色が見える。パパの魂は汚れてないし、そこの二人の魂も汚れてない。でも……。」


「ん?」


 彼女はジャックに目を向けると言った。


「あの人は汚れてる。」


「むぅっ!?」


 ユニコーンの少女の言葉にジャックの顔色が一気に青くなる。


「多分、いろんな人と。」


「やってる……?」


「これ。」


 意味がわからずに首をかしげていると、彼女は片手で輪っかを作り、そこに何度も人指し指を入れたり出したりする動作をやって見せた。


「ぶふっ!!わ、わかったからそれやめてくれ。」


 彼女がやっている動作の意味がわかってしまった俺は、思わず吹き出しながら彼女のことを止める。


「ん~?どういうこと?」


「ボクもわからないかなぁ……。」


「あ、ふ、二人はわからなくて大丈夫です。はい。あぁっ!?ま、真似しないで下さい!!」


 意味もわからずに真似をし始めてしまった二人のことを制止する。


 流石にこれは覚えられたら困る!!


「と、兎に角……あの~、人前でそれはやらないで下さい。」


「ダメなの?」


「ダメです。兎に角ダメです。」


「う~ん、わかった。」


 なんとか納得してもらえたか。これを真似して人前でやられては恥をかいてしまうからな。

 かといって今ここで二人に意味を伝えるわけにもいかないし……。


 チラリとジャックの方を見てみると、彼はユニコーンの少女に胸の内を見抜かれ、俯いていた。


 確か日本にも伝わってる伝説の一つで、ユニコーンは純潔か否かを見抜く生物だと聞いたことがある。

 この世界でもそれは変わらないのかな?


 そんなことを思っていると、ユニコーンの少女が俺の服をくいっと引っ張って、あることをお願いしてきた。


「パパ、私……名前欲しい。」


「え?名前?」


「うん。」


 な、名前かぁ……。今思えば俺、日本にいたときもペットとか飼ってなかったし、弟とか妹もいなかったから名付けをする機会なんてなかった。

 だから正直な話……ネーミングセンスに自信はない。


 だが、これから共に暮らすとなればコミュニケーション的に名前は必須だ。


 ユニコーンの少女にキラキラとした視線を向けられながらも、悩んでいるとアルマ様が手を挙げた。


「はいはい!!は~い!!それならアルマ達も一緒に考えるよ!!」


「別にいいけど……変な名前はイヤだから。」


「わかってる、わかってる~♪ん~、何がいいかな~。カナンも一緒に考えよ?」


「あ、う、うん。」


 二人も一緒に考えてくれるなら心強いな。単純に発想が三倍になるわけだし、いい名前も思い付きやすいだろう。


 かといって、二人に頼りすぎるのも……この子の意思に反してる気がするし。一つでも多く名前を考えないと。


 そうして俺が必死に名前を思い浮かべている間にも、アルマ様とカナンはすぐに案を思い付いては口にした。


「真っ白な髪の毛だし、とかは~?」


「犬の名前みたい。却下。」


「うーん……じゃあユニコーンって白いお馬さんのイメージあるし、ちゃんとか?」


 おいおい、カナン……。何でキミはその名前を知ってるんだ?いや、知ってても不思議じゃないか。俺が日本にいた頃、多くの人たちの間で競走馬を擬人化させた女の子が登場するゲームが流行ってたし。

 カナンも恐らくその口だろう。って名前が却下されても、いろいろな有名な競走馬の名前を提案している。


 アルマ様とカナンの二人がいくつも名前を考えては提案するが、ユニコーンの少女は一度も首を縦に振ることはなかった。


「パパ、何かない?」


「う、うーん……。そうだな――――。」


 やべぇ……自分のネーミングセンスの無さに絶望しかけてる。色々とユニコーンとか幻獣とかってワードを頭のなかで関連付けて考えてるけどまったく良いのが思い浮かばない。


 幻獣はまぼろし……まぼろしってことは夢?安直すぎか?

 夢……英語だとドリーム?なんか違う。他に夢と関連付けられるのは……。


「…………あっ。」


「パパ、良いの思い付いた?」


「あ、あぁ……。」


 ようやくたどり着いた一つの名前。


……ってのはどうだ?」


 ナイトメアだと悪夢になるから……ナイトをとって


 ど、どうだろうか……。


 センスの欠片もないネーミングセンスを発揮してしまったか否かと不安になっていると、ユニコーンの少女は途端に目を輝かせ始めた。


「メア……メア、良いっ!!」


「お、ほ、ホントか?」


「うん!!私は今日からメア……ユニコーンのメアっ!!」


 納得してくれたなら何よりだ。


 そんなこんなあって、幻獣の卵から生まれたユニコーンのが新たに一緒に暮らすことになった。


 …………本格的にちょっと魔物ハンターの仕事頑張らないといけないな。

 新しい家族が増えたことで、さらに出費も増えるという現実に直面した俺は、魔物ハンターとしての仕事を頑張ることを誓うのだった。


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