第108話 変異した魔物


「それじゃあ早速……見てみようか。」


 そう言って彼女は青いファイルを開いた。その1ページ目から、早速厄介そうな依頼が顔を覗かせていた。


「まずはこれ、変異サイクロプスの討伐依頼。報酬は白金貨3枚。」


「変異サイクロプス?」


 サイクロプスといえば、俺の知っている知識だと一つ目の巨人だが……それの変異種とはいったい。


「サイクロプスは一つ目の巨人の魔物。普通のサイクロプスは青肌なんだけど、こいつは赤い肌。……魔物ハンター達からはなんて異名で呼ばれてる。」


「そいつは強いんですか?」


「ここ見なよ。」


 そう言ってリルが指差した依頼書の項目には、推奨ランクと書かれていた。


「レッドスキンは普通のサイクロプスよりも遥かに身体能力が高いんだ。前に現れたときはゴールドハンター四人がかりで倒したんだよ?」


「そうなんですね、ただ……報酬もそれなりですね。」


「そっ、まぁ普通はパーティーを組んで倒すような魔物だからね~。山分けしてもある程度自分のところに残るように報酬も多めなんだ。」


「一人でそれを倒したとしたら……全部一人占めできるって訳ですか。」


 レッドスキンってのがどれぐらい強い魔物なのかはわからない。でも報酬のことを考えると……一人で討伐するべきだな。


 と、考えていると


「まぁまぁ、他にも依頼はあるからそれを見てからでも良いんじゃないの?」


「そうですね。」


 そして俺はその青いファイルに挟まれていた色んな依頼に目を通したが……多くのものは増えすぎて手に負えない魔物の討伐依頼だった。

 正直言って、数多く倒さないといけない魔物の討伐依頼は面倒くさい。時間もかかるし……。それだったらさっきのレッドスキンみたいに、一体でも驚異的な魔物を倒す依頼を複数受けた方がいい。


 それを顧みて、俺は2つの依頼を受けることにした。


「それじゃあリルさん、俺……レッドスキンとブラックスネークの依頼受けます。」


 ブラックスネークってのはその名の通り黒い蛇の魔物らしい。こいつも変異種らしく、レッドスキンと同等位の難易度らしい。


「えぇ?キミ……正気かい?確かにこの二つは報酬もかなり良いけど、一人じゃかなり危ないと思うよ?キミの実力はよく分かってるけどさ……。」


「大丈夫です。」


「うぅ~……まぁキミがそういうなら良いけど。絶対無理しちゃダメだからね?これギルドマスター命令だから。」


「あはは、わかりました。それじゃ時間もないんで行ってきます。」


「えっ?行くって……今からかい!?…………って、もう居ないし。」


 リルが驚いてカオルのことを二度見したときには既に彼は目の前から姿を消していた。


「も~……せっかちだなぁ。」


 大きなため息を吐きながら、リルはカオルが受けた依頼書に再び目を通した。


「レッドスキンとブラックスネーク。どっちもの魔物かぁ。……って、んん?」


 二つの依頼書を見ていて、一つ気がかりな項目があったようで、彼女はおもむろにブラックスネークの依頼書を手に取るとその項目を読み始めた。


「えっと……?尚、目標の住み処の森では変異した魔物が多数目撃されているため注意されたし……。はぁっ!?」


 小さい文字で書いてあったそれをリルはカオルに伝えていなかった。


「この依頼書送ってきたのどこのギルドだっけ?後でクレームいれとかないと。こういう大事なことはおっきな文字で書いといてよ。」


 伝達ミスにガックリと項垂れるリルはテーブルに顔をつけながらポツリと呟いた。


「お願いだから無事で帰ってきてよね……。」










 一方その頃……カオルはというと。


「ナイン。」


「はいマスター。」


 俺はギルドの裏でナインのことを呼び出した。今回の依頼、彼女の力がなければ今日中にこなすのは難しいからだ。


「早速だが、俺をファフニール火山に連れてってくれ。」


「承知しました。」


 そしてナインは機械仕掛けの剣を取り出すと空間を切り裂いた。


 いつものようにそこをくぐった次の瞬間時間の流れが突然遅くなった。


「っ!!」


 上を見上げれば、巨大な棍棒が俺がくぐっていた場所に向かって振り下ろされていたのだ。


「ちっ……。」


 流石にこれは避けられない。避ければ後続のナインが危ない。


(頼むから発動してくれよっ!!)


 そう願いながら腕をクロスさせ、振り下ろされている棍棒を受け止める準備をすると、時間の流れがもとに戻っていく。

 そして次の瞬間、俺の体にとんでもない負荷がかかった。


「~~~~~っぐ!!」


「っ!!マスター!!」


「大丈夫……だっ。早くそこから……。」


 空間の裂け目から姿を現したナインは俺を心配して声を上げたが、すぐに俺の意図を察してそこから離れてくれた。


 それを確認して、俺は棍棒を振り下ろしていた張本人に目を向ける。


「ずいぶんな歓迎だなぁ……レッドスキン!!」


「グゴゴゴ……。」


 俺に向かって棍棒を振り下ろしていたのは赤い肌をした一つ目の魔物……レッドスキンだった。

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