第092話 バルンフィッシュを釣り上げろ
いざ海へと足を運んでみると、そこにはたくさんの人が詰めかけていた。
「お~、流石に賑わってるな。」
見る限り所狭しと人が海岸線に並んでいて、今から場所をとるのはここでは難しそうだ。だが、少し様子を見るべく、辺りを歩いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「キタキタキタ~っ!!どんどんかかってこ~い!!」
「あそこにいるのはリルさんか。」
釣竿を巧みに操り、彼女は次から次へと魚を釣り上げていた。その数は周りに集まっている人たちの中でも群を抜いて多い。さすがは二年連続の王者だな。いや、真に褒めるべきはカーラの作ったあの釣り竿だろうか。
それにしても、先ほどからみんなが釣り上げているあの魚……市場で見かけたことがないな。
俺もこの世界の市場にも何度も足を運び、いろいろなものを目にしてきたが……あんな魚は見たことがない。果たして食べられるのだろうか?
まぁ、それも自分で釣ってみればわかることだな。楽しみは最後まで取っておいたほうが面白い。
「アルマ様たちは……おっ?あそこか。」
俺よりも早くに到着していたアルマ様たちは場所を確保できたようで、もうすでに釣りを楽しみ始めていた。見た感じ結構釣れてるみたいだ。
楽しそうにしているみんなの姿をジャックが後ろから微笑ましそうに眺めている。
「楽しそうで何よりだな。さて、俺も釣れそうな場所を探そうか。」
「マスター、それでしたら良い場所が。」
「お?ほんとか?」
「はい、少々険しい道を登りますが……そこでしたら人もいないかと。」
「よし、それじゃあそこに案内してくれ。」
良い場所があると提案してきたナインの後に続いていくと、彼女の言っていた通りかなり険しい道を歩く羽目になった。道というよりかは、もはや崖をロッククライミングしているような感じだ。幸いあまり風化が進んでいないようだから崩れはしないが……落ちれば怪我をすることに変わりはない。
「ナイン、あとどれぐらいだ?」
「もう少しですマスター。」
彼女お言葉を信じて先へ先へと進んでいると、急に目の前に真っ白な砂浜が現れた。
「ここですマスター。」
「ほぉ~……こんな場所もあったんだな。ってかナインよくこんなわかりにくい場所見つけてたな?」
「ナインの
「なるほどな。」
さて、ここにはあの魚は来てるかな?
そう思って砂浜をサクサク歩きながら海に近づくと、突然海面から水しぶきを上げてなにかが俺の胸に飛び込んできた。
「おぉっ!?これは……みんなが釣ってた魚じゃないか。」
俺の手の上で口をパクパクとさせているその魚は、全身が真っ白で、胴体部分が風船のようにぷっくりと膨らんでいる。まるでフグみたいでかわいいな。
「ナイン、この魚なんて言う魚かわかるか?」
「バルンフィッシュというそうです。」
「バルンフィッシュね。」
確かに風船みたいな見た目だもんな。それで一番の問題は……だ。
「こいつって食べられるのか?」
「はい、とても美味だと記録があります。」
「ほぉ~、そいつはますます楽しみになってきた。」
そして俺が手の上でぴちぴちと動き回るバルンフィッシュに目を向けると、危険を感じ取ったのか必死に逃げようとし始めた。
「おっと!!逃がさないぞ?」
俺は収納袋からアーティファクトのナイフを取り出すと、バルンフィッシュのエラを断ち切った。これで締まったはずだ。
あとは海水につけて血抜きをしておこう。こういう細かい作業が魚を美味しくするんだ。
「さてさて、それじゃあナインにもらったこれをさっそく使ってみるとしようか。」
ナインが作ったというこの機械仕掛けの釣り竿を軽く振ると、一気に収納されていた部分が伸びた。さらに魔力を込めると、魔力で糸と針が形成される。
「ナイン?これって餌とかは……。」
「必要ありません。そのまま海に向かって放り投げてください。」
「オーケー。」
俺は釣竿を振りかぶると、海に向かって思い切り振りぬいた。すると、魔力の糸がどんどん伸びていき、遠くの海面にぽちゃんと落下する。
その瞬間だった────。
「おぉぉぉぉっ!?な、なんだ!?急に重くなったぞ!?」
「マスターが手にしているそれは水の中に入ると糸と針が何本にも枝分かれして、獲物を自動で捕まえます。おそらく今頃この糸の先には大量の魚がいるかと思います。」
「なるほど……なっ!!」
ナインの説明に納得しながら釣竿を思いきり引っ張ると、大量のバルンフィッシュを釣り上げることができた。
「おぉ!!めちゃめちゃ釣れたぞ!!」
釣り上げれたバルンフィッシュはおおよそ20匹ぐらいだろうか。かなりの数だ。これを何回も繰り返したら……もしかするかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます