第091話 祭りの始まり
そしていよいよ話題になっていた祭り当日。この城の中からでも町の人々の喧騒が聞こえてくる。相当な盛り上がりのようだ。
「よし、これでひとまずみんな分のお弁当はできたな。」
テーブルの上には食べる人によって中身を変えたお弁当が並べられていた。アルマ様は大好物をふんだんに詰め込んだお弁当。カナンのは日本で有名だったキャラクターをいろんな具で再現したキャラ弁。ラピスのは……。
アルマ様とカナンのお弁当の横には何段にも積み重なった重箱がそびえたっている。ちなみにこれがラピスの弁当だ。あいつは大喰らいだからな。このぐらい用意してやらないと満足しない。
みんな分の弁当を作り終えてほっと一息ついていると、わいわいと騒ぎながらアルマ様たちが姿を現した。
「あっ!!もうお弁当できてる~!!」
「これがアルマ様の分のお弁当です。」
「カオルありがと~!!」
「それでこれがカナンの分。」
『カオルさんありがとうございます。』
「ということはこれが我の分だな!!」
ラピスは軽々と大量の料理が詰められた重箱を担いで収納袋に入れる。
「うわ~ラピスのお弁当すっごいおっきいね。」
『ボクじゃ絶対食べきれないです。』
「むふふふふ、あの箱一つ一つに飯が詰まってると考えると今にもよだれが垂れてきそうだ。」
「頼むからお昼時まで手は付けないでくれよ?弁当がなくなった~って言われても作り直せないからな。」
「わかっておる。」
そして各々自分の弁当を仕舞ったことを確認した俺は、続けてあるものを渡す。
「多分釣りは釣れたり釣れなかったりって波があると思うので、もし小腹がすいたらこれを食べてください。」
「わっ!!これもしかしてクッキー?」
『ありがとうございます。』
「さすが気が利くではないかカオル。」
「それじゃあみんな頑張ってください。」
「うん!!絶対一位になってくる!!」
『ボクも頑張ります!』
「むっふっふ、悪いが優勝は我がいただくぞっ!!そして賞品は我のものだ!!」
弁当とお菓子をもって三人はいよいよ祭りへと出かけて行った。ワイワイと楽しそうな話し声が遠く離れていくと、厨房にジャックが訪ねてきた。
「ご苦労様でございますカオル様。」
「いえいえ、このぐらいどうってことないですよ。ジャックさんはこれからどうするんです?」
「私めは魔王様の警護をいたします。そのついでにカナン様の監視も。」
やはりジャックはアルマ様のことが心配らしい。まぁ彼の気持ちもわかる。安全が確立されているこの城と違って、外はいくら城下町といえど危険がそこかしこに潜んでいる。アルマ様を一人で歩かせるのは危険だろう。
「カオル様もお祭りに参加するのでしょう?」
「まぁ、ちょっとだけ。」
「ホッホッホ、できるだけ楽しむとよいでしょう。」
「ありがとうございます。……あ、そういえば、ここを無人にしちゃっても大丈夫なんです?」
「問題ございません。私がここを離れると、魔王様の配下と認められた者以外を拒絶する結界が生成されますからな。」
どうやら、まだまだこの世界に関してもそうだが、魔王城に関しても知らないことが多く残っているようだ。
ジャックの今の話も初耳だった。
「なら安心ですね。」
「はい。……おっと、それではそろそろ私めは参ります。」
「二人のこと、お願いします。」
「おまかせ下さい。それでは……。」
そしてジャックはアルマ様達のことを見守るべく行ってしまう。
「今頃リルさんはたくさん釣ってるのかな?俺としてはアルマ様に優勝してもらいたいが……。」
そんなことを呟きながら洗い物を済ませていると、突然耳元で囁かれる。
「マスター。」
「おわっ!?な、ナインか?」
驚く俺のとなりに気配もなく立っていたのはナインだった。
「ナイン、今までどこに行ってたんだ?」
「申し訳ありませんマスター。あるものを作るために少々留守にしておりました。」
「あるもの?」
「マスターが今しがた行われている祭りに参加すると聞きましたので、こちらを。」
そう言ってナインが差し出してきたのは鉛筆程の長さしかない一本の棒だった。良く目を凝らしてみると、ナインの使っている機械仕掛けの剣のような造形に似ている。
「これは?」
「ミラ博士の設計図を基に作った釣竿です。」
「あの博士……釣竿まで作ってたのか?」
「ミラ博士曰く、現在あるものと……未来に作られる予定のもの。すべてを作り上げた……と。」
「うぇぇ……やっぱとんでもない人だな。」
改めてミラ博士という人物がとんでもない人だということをわからせられた。
「ほんで?これはどうやって使うんだ?」
「軽く振ってみてください。」
「こうか?」
言われた通りに軽く振ってみると、シャコンッ!!という音と共にそれが一気に伸びた。
「おぉ~……伸縮式か。」
「その状態で魔力を流せば糸と針が形成されます。」
「ほぉ~。」
魔力を流すと確かに糸と針が形成された。
「今説明したのはこれの性能のほんの一部です。後は、実際にやってみた方が体感できるかと。」
「なるほどな。わかった、ありがとなナイン。」
「マスターのお役に立てて何よりです。」
さて、それじゃあ俺も祭りに参加してくるか。
ナインを連れて城を出た俺は、城下町から程近い場所にある海へと向かうのだった。
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