第089話 意外な覇者


 アルマ様が祭りのことを話していたその日から、城下町にはある変化が現れ始めていた。


 俺はその日の夕食の食材を調達に市場へと足運んでいたのだが、どうにも様子が慌ただしく見える。その様子がふと気になったので、行きつけの八百屋に声をかけてみた。


「こんにちは。」


「おっ?カオルさんいらっしゃい、今日は魔王様は一緒じゃないないのかい?」


「今日は一人です。それよりもなんかみんな慌ただしそうに見えるんですけど、何かあるんですか?」


「あぁ、近々大きな祭りがあるもんでね。みんなそれの準備でてんてこ舞いなのさ。とくに魚屋の奴らなんか年に一度のかき入れ時だからって張り切ってる。」


「へぇ。」


 やっぱり年に一度の大きな祭りってだけあってみんな張り切ってるんだな。それで魚を釣る祭りだから魚屋も張り切ってるってわけか。


「カオルさんも出るんだろ?」


「まぁ一応……。」


「一番の人にはとんでもない景品が用意されてるみたいだから、頑張る価値はあると思う。」


 今年の優勝景品はなんだろうな。ものすごいいい包丁とかだったらうれしいんだけどな。まさかそんな料理人だけが喜ぶような景品なわけないし。望むだけ無駄かな。


 それはそうと一つ気になったことがある。


「そういえば去年の優勝者って誰なんですか?」


「去年もおととしも、優勝者は同じなんだ。カオルさんも知ってる人だよ。」


「俺も知ってる人?だれですか?」


 この街で俺の知ってる人なんて数人なんだけどな。誰なんだろうか?八百屋の店主はニヤリと笑うと、俺のよく知っている人の名前を口にした。


「ハンターズギルドのマスター、リルさんだよ。」


「えぇっ!?」


「二年連続、最多記録を更新したのがリルさんだ。」


 まさかあの人が、二年連続の優勝者だったとは思いもしなかった。ってことは、魔の果実も、オリハルコンの原石もあの人が持ってったってことか。今まで一言もそんなこと言ってくれなかったけどな。でもそのことを聞いてなかったし、聞いたら教えてくれんのかな?今夜ギルドを訪ねたら聞いてみよう。


「多分今年もリルさんが最有力候補じゃないかなぁ~。」


「なるほど。」


 そしてそんな立ち話をしながらも、今日使う食材を購入し俺は城へと戻った。










 その日の夜、俺がギルドに足を運ぶとカーラとリルがいたのだが、今日は酒盛りはまだ始まっていないようだ。


「やぁやぁキミ~、いらっしゃい。」


「こんばんはリルさんカーラさん。今日はまだ飲み始めてないんですね。」


「うん、今日はちょっとね~カーラに頼んでたを確かめてる最中なんだよ。」


 そういってリルは一本の良く撓る一本の棒をこちらに見せてきた。


「それは?」


「こいつはアタシ特製の釣り竿さ。」


「釣り竿ってことはもしかしてお祭りに使うやつですか?」


「そのと~り!!私愛用の専用の釣り竿っ。」


「そいつを使ってリルは二年連続優勝を成し遂げたんだ。」


「普通の釣り竿じゃやっぱり優勝なんて素人の私には無理だからね。カーラに作ってもらったってわけ。これがまたよく釣れるんだよ~。」


 なるほど、リルが優勝できたのはカーラが作った釣り竿があったからなのか。おそらくは何かしらの魔法の力が込められているのだろう。


「カオルも今年のは出るのかい?」


「一応やれるだけやってみるつもりです。アルマ様たちも出るみたいなので……。」


「まぁまぁ頑張ってね?優勝は私のものだけどさっ。」


 カーラの作った釣り竿に絶大な信頼があるのだろう。負けるつもりは毛頭ないらしい。


「今年の景品はなんだろな~。何年か前にすんごい高いお酒あったはずなんだけど今年もそれがいいなぁ~。」


「リルは相変わらずだねぇ。」


 リルの横で苦笑いを浮かべるカーラ。そんな彼女に俺はあることを問いかけた。


「カーラさんは出ないんですか?」


「アタシは出ないよ。あいにくちょっと魚は触れなくてねぇ。」


「そうなんですね。」


 カーラが魚を触れないのは意外だったな。やはり内心は純粋な乙女らしい。


「まぁみんなが頑張ってるのを横で応援してるよ。」


 そしてリルは一通りその釣竿を確認し終えると、大事そうにそれを仕舞った。


「さ~てと、確認も終わったし今日も飲むぞ~!!」


 リルのその声を合図に次々とお酒やおつまみなどが運ばれてきた。


 すっかり上機嫌なリルはぐいぐいと酒をあおり、気が付けばすっかり彼女は酔っぱらって眠ってしまっていた。

 酔いつぶれたリルをカーラはギルドの仮眠室へと運ぶと、言った。


「リルもつぶれちゃったし、今日はこの辺でお開きだねぇ。」


「そうですね、時間もいい時間ですしこの辺にしましょう。」


「まぁ、カオルも頑張んなよ?応援してるからさ。」


「ありがとうございます。」


「それじゃあね、おやすみ。」


 そしてカーラと別れると俺は一日を終えて城へと戻った。


 祭りまで三日、みんながどんな秘策を持って臨むのか楽しみだな。それにしても、今朝からナインの姿を見かけないが、どこに行ったのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る