第082話 魔王と勇者のサンドイッチ
いろいろあってカナンが魔王城で生活することになったのだが……。
どうして俺が今こんなことになっているのかわからない。
というのも、カナンは俺かジャックの目の届くところで生活するという条件の元ここで生活することになった。そのため彼女は俺の部屋で一緒に過ごすことになった……。
のだが、ここで予想外の問題が発生する。
「ねぇ、カオル。アルマも一緒にその子の面倒見るよ。」
「え……?」
「だから今日からアルマもカオルの部屋に住むからね。」
「えぇっ!?」
とんでもないことを言い出したアルマ様に動揺しながらも、俺は確認をとるためにジャックに視線を向けた。すると、彼はにこりと笑いながら一つ頷いた。
そんなやり取りがあって今に至る。
眠ろうと思ってベッドに横になった俺の左右にはアルマ様と勇者であるカナンの姿が……。
両手に華とはこの事を言うのだろうか。
「あ、あの……アルマ様、やっぱり俺は下で寝ますよ。」
「ダメだよカオル、それじゃカオルが寒い思いしちゃう。」
そう言ってアルマ様は俺の左腕を抱き締めてくる。
「で、ですが……流石にこれは少し恥ずかしいと言いますか……。」
自分では確認できないが、恐らく顔が赤くなっていると思う。正直ここまで恥ずかしく思うのも久しぶりだ。
そして俺が恥ずかしいと思っていることを告げると、アルマ様は瞳をうるうるとさせながら問いかけてきた。
「か、カオルはアルマと一緒に寝るのイヤ?」
「~~~ッ!?」
ヤバい……一番最悪な捉えられかたをされてしまった。
瞳を潤ませているアルマ様に、俺は必死に言い訳する。
「ち、違うんです!!そういうことではなくて……その、お、男として女性二人に挟まれて寝るというのは些か恥ずかしいものがあると言いますか……。」
「恥ずかしいだけでイヤじゃない……ってこと?」
「は、はい。」
「じゃあ何も問題ないね♪」
にっこりとアルマ様は笑うと、再び強く俺の腕を抱き締めた。そしていつの間にか、すやすやと寝息を立て始めていた。
アルマ様が眠りについてしまったことで完全に逃げ場がなくなった。下手に動けば起こしてしまいかねないしなぁ……。
と、ほとほと困り果てていると空いていたはずの右腕もきゅぅっとしがみつかれるような感覚が襲う。
まさかと思いそっちの方に目を向けてみると……。
「Zzz・・・・。」
俺の右側でもカナンが眠りについてしまっていた。先程まで仰向けで横になっていただけだったはずだが……これは無意識なのだろうか?
なんにせよ、俺の逃げ場は完全に失われた。
結局その日の夜は緊張と恥ずかしさで寝ることは叶わなかった。
自分が追い込まれているときほど、体感する時間の流れというのは極端に遅くなるものだ。
永遠とも思えるような長い……長い夜がようやく明け、窓から少し陽の光が射し込み始めた。
「やっと……朝か。」
なぜだろう……徹夜することには慣れているはずなのに、普段徹夜するときの倍以上の疲れが体にのし掛かってきている。
重っ怠い体を横で寝ている二人が起きないようにゆっくりと起こしながら、抱き締められていた両手を抜いた。
幸い、二人とも熟睡しているお陰で起きる気配はまだない。
「こ、これを毎日か……。」
今日は緊張して眠れなかったが、いずれ体が限界を迎え、意思や感情など関係なく睡魔に負けるときが来るはずだ。
その時が来るのを待つしかない。
「ひとまずこの場はナインに任せて……目が覚めるものでも飲もう。」
そして俺はポツリとナインの名を呼んだ。
「ナイン……。」
俺が名前を呼んだ瞬間、何もない場所に亀裂ができて、そこからナインが姿を現した。
「マスター、お呼びですか?」
「あぁ、俺の代わりにカナンの行動を見張っていてくれ。」
「かしこまりました。マスターはどちらへ?」
「ちょっと厨房で目が覚めるもん作ってくる。もし二人が起きたら朝ごはんだって言って厨房に連れてきてくれ。」
「かしこまりました。」
この場をナインに任せ、俺は厨房へと向かう。そして焙煎したコーヒー豆をミルでゴリゴリと粉にして、そこに熱湯を注ぎコーヒーを作る。
この世界にはココアはあるものの、コーヒーという飲み物は存在しない。だが、コーヒー豆はある。
ではなぜ、この世界でコーヒーという飲み物が普及しなかったのか……それは恐らく豆を粉にして飲み物にするという概念がなかったからだろう。それか、単純に苦くて美味しくないと思われたから。詳しい理由はわからないが、恐らくはそんな感じの理由だろう。
ま、俺はコーヒーが好きだからこうやって飲むけどな。
お湯を注いで抽出されたコーヒーを口に含むと、豊かな香りと深い味わい……程よい苦味が口の中に広がった。そしてコーヒーに含まれるカフェインが脳に作用してゆっくりとだが、意識がはっきりと覚醒していく。
「はぁ……朝の一杯はこれに限るな。」
ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、早起きなラピスが厨房に駆け込んできた。
「カオル、おはようなのだ。」
「あぁ、おはようラピス。」
「む?それはなんだ?ココアか?我にも飲ませろ。」
「あ、それは……。」
おもむろにラピスは残ったコーヒーを自分のコップに注ぐと、ココアと勘違いしてグイッと一気に飲んでしまったのだ。
すると、予想通り彼女の顔が一気に青くなる。
「に……苦いぞ!?なんだこれはっ!?」
「それはココアじゃなくてコーヒーだ。こっちがココアだよ。」
顔をしかめるラピスにココアを差し出すと、彼女は勢い良くココアを飲み始めた。
「ぷはっ……これぞココアだ。それよりおぬし、こんな苦いものを平然と飲んでおるのか!?」
「ま、俺にとっては慣れ親しんだ味だからな。」
「む、むぅ……。我にはそれの美味しさがいまいちわからんぞ。」
「
「なっ……お、おぉぉ、おぬしっ我を子供扱いするのかっ!?」
「はははっ、冗談だ。」
さて、コーヒーも飲んで、ラピスのことも弄ってだいぶ目は覚めた。
今日も一日頑張るとするか。
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