第083話 ヒュマノの闇
カナンを魔王城に連れてきて、迎えた初めての朝食時。
彼女は目の前に並べられた朝食を見つめて呆然としていた。
もしかして、あっちの城の方が良い料理を出していたのか?と少し心配になったのだが……。
「あれ?カナンどうしたの?」
呆然とするカナンにアルマ様が声をかけると、彼女はサラサラとノートに文字を書き始める。
『アルマちゃん、朝からこんな良い料理食べてるの?』
「うん、そうだけど……あっちのお城もそうじゃなかったの?」
『王様とか、そういう人達は豪華な料理を食べてたけど、ボクのご飯はいつも硬いパンとコップ一杯の水だけだったよ。』
「えっ!?なんで!?カナンは勇者なんでしょ?」
『あの人達にとって、ボクはただの
「ほぇ~……。大変だったんだね。」
なるほど、また一つヒュマノの闇が垣間見えたな。
アルマ様とカナンの会話を眺めていると、ラピスが俺に近寄ってきた。
「お、おいカオルよ。」
「ん?」
「アルマがあの小娘のことを勇者と言っておったが、本当なのか?」
「あぁ、間違いない。」
「なぜ今代の魔王と勇者が隣におるのだ!?平和条約があるとはいえ、お互いに
「あ~……まぁその認識は間違いないんだが、こっちのことを邪険にしてるのは勇者本人じゃなく、ヒュマノの偉い人達なんだ。つまり、勇者自身に俺達へ敵意はないってこと。」
「ふむぅ……。」
「ま、これから一緒にこの城で過ごすことになるんだ。自己紹介ぐらいしておいた方が良いんじゃないか?」
「……そうだの。」
そして事情を少し理解したラピスは、カナンのもとへと歩み寄る。
「おぬし、勇者らしいな?」
『はい。』
「我の名はルナ――――――。」
「あ、カナン。この子はラピスって言うんだ。アルマの友達だよ。」
ラピスが誇らしそうに名を名乗ろうとするが、アルマ様が先に可能性も紹介をさらりと終えてしまった。
「我に真名すら名乗らせてくれんのか!?」
『よろしくお願いしますラピスさん。ボクはカナンって言います。』
「む、むぅ……まぁ良い。よろしく頼むぞ……っておぬし、龍語がわかるのか?」
カナンが自己紹介のために書いたノートには見たことのない言語が書いてあった。ラピスの言動からして、どうやら龍語……つまりドラゴン達の言葉らしい。
『少しだけなら。』
「ほぅ、なかなか見所があるではないか。」
そんなやり取りを見ていて、俺はある疑問が頭に浮かぶ。
(なんでカナンはラピスがドラゴンだってわかったんだ?俺のことも日本人だって見抜いてたし、そういうスキルがあるのか?)
俺自身、この世界にどんなスキルがあるのかを知り尽くしているわけではない。なんなら自分が持っているスキルしか知らない。
まぁ、スキルのことについては後々カナンに直接聞いてみれば良いか。これから一緒に過ごすんだしな。
それよりも今は、朝食が冷める前に食べてもらおう。
「アルマ様、そろそら朝食が冷めてしまいますので……。」
「あっ!?は、はやく食べなきゃ、話に夢中になっちゃってた。カナンも食べよ?」
『うん。』
そしてカナンはまたサラサラとノートに文字を書くと、今度は日本語を書いて俺に見せてきた。
『
ラピスとカナンと食事を食べ始めたアルマ様はとても楽しそうだった。話し相手が増えればやはり食事も楽しいものになるんだな。
カナンは表情に感情こそ現れないものの、二人に負けない位たくさん食べてくれた。どうやら美味しく食べてくれたらしい。
まぁ、話に聞いてた硬いパンとコップ一杯の水よりかは何十倍も美味しい筈だ。
そして、俺が三人が目の前で食べる姿を眺めていると、厨房にジャックがにこにこと笑みを浮かべながら入ってきた。
「ホッホッホ、魔王様も楽しそうですな。」
「はい、やっぱり話し相手が一人増えるだけで違うみたいです。」
「そういえば、カオル様は今日の号外鳥が運んできた新聞は見ましたかな?」
「え?号外鳥来てたんですか?」
「はい、面白い記事が書かれておりますよ?」
ニヤリと笑ってジャックは俺に今日の新聞を差し出してきた。内容を覗いてみると、そこには大きな見出しで『ヒュマノ勇者失踪!?!?』と書かれていた。
「ヒュマノでは今とても大変なことになっているようですな。」
「ははは……まぁ大事になるのは予想してましたよ。」
「その新聞によると、後々ヒュマノ国内にて大規模な捜索活動が行われるようですぞ?」
「まさか魔王城にいるなんて夢にも思ってないでしょうね。」
「ホッホッホ間違いございませんな。あぁ、それと彼女がかけられている封印のことですが……カーラ様に相談してはいかがでしょう?」
「そうですね、カーラさんなら封印の解除方法を知ってるかもしれないですし、この後にでも行ってみます。」
それでカナンの封印を解く手がかりが見つかれば良いんだが……。
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