第073話 ヒュマノの陰謀
魔の果実を手に入れ、また何か所か可能性の高い場所を巡ったがまだ他のステータスの果実は見つからない。
「ナイン、候補地はあと何か所だ?」
「あと12か所です。」
「仮にもし、その12か所に無かったら……その場合はどうなる?」
あまり考えたくはないが、最悪のケースも想定しておいたほうが良い。そう思った俺はナインに問いかけた。
「もし候補地の中になかった場合、これまで記録に無い場所に生えたということになりますので、かなり膨大な場所を探しに歩くことになります。それこそ、この世界の隅から隅まで網羅しないといけないかもしれません。」
「マジか。」
そうなったらヤバいな。いよいよ残り三日で見つけられるとは思えない。楽観的になるが、残りの12か所に生えているように願うしかないな。
ふと空を見上げれば、少し明るくなってきている。ここで立ち止まってる時間はなさそうだ。
「ナイン、次頼む。」
「わかりました。」
次の候補地へと降り立つと、俺の目の前に望んでいた景色が広がっていた。
「よし……よしッ!!力の果実ゲットだ。」
目の前に飛び込んできたのは、見覚えのある真っ赤な果実……。見間違うはずのない力の果実だった。
心躍りながら、収穫を終え次の場所へと案内を頼もうとしたとき、ナインが告げた。
「マスター、ここから100m程先にもう一つ反応が。」
「本当か!?」
「はい、間違いありません。」
「運が味方したな。よし案内頼む。」
ナインの後に着いていくと、今度は黄色い果実を実らせる木が生えていた。
「これは?」
「命の果実ですマスター。」
「なら、後は守の果実だけだな。希望が見えてきたぞ。」
黄色く輝く果実を収穫し、収納袋へと放り込むと俺はナインと共に次の場所へと向かう。
その後空振りを続け、ナインが候補地として絞りこんだ最後の地点に足を運ぶと、そこは今まで訪れた場所とは雰囲気が違っていた。
「ん?ここは…………。」
俺達が最後に訪れたのは、火山でも砂漠でも遺跡でもない……。
巨大な城の庭園だった。
綺麗に整備されていることを見るに明らかに人の手が加わっている。それに嫌な予感しかしなかった。
「ナイン、ここは?」
「ヒュマノ国、王都ヴィルシアの王城敷地内です。」
「……マジで言ってる?」
サラリと告げたナインだが、言っていることはとんでもない。俺達は今……ヒュマノの国王の城に不法侵入しているのだ。
「まさか、こんなとこにあるわけない……よな?」
「マスター、反応があります。こちらで間違いないようです。」
「はぁぁぁぁ…………マジか。」
よりにもよってこんなとこにあるなんて……。もし誰かに見つかったら面倒事は避けられないぞ。
今からやることは盗人同然の行為になるかもしれないが、やるしかない。
「ナイン、場所は?」
「この庭園の中心にあるようです。」
「わかった。」
覚悟を決めて庭園の中を歩き、綺麗な緑色の果実が実っている木が見えたその時……突然ナインに手を引かれ、近くの草影に連れ込まれた。
「マスター、こちらに近づいてくる生体反応を感知しました。一度身を隠した方が良いかと。」
「あぁ、わかった。」
草影でナインと共に身を隠していると、庭園の中に二人の人影が入ってきた。二人は庭園の中心にある緑色の果実が実っている木のそばに立つと会話を始めた。
「まさか守の果実がこの庭園の中に生えてくるとはな。これも魔を滅せよという天の導きか。」
「イリアス様、もう要求の手紙はお送りに?」
「もちろん。」
「キキキ、今頃奴等は血眼でステータスの果実を探してることでしょう。」
「恐らくはな。」
二人はくつくつと愉快そうに笑う。
会話の流れを聞いている限り、どうやらあの長身の男が手紙に名を宛てたイリアスという人物らしい。
となりにいる小柄な男は彼の配下だろうか?
「コレがこちらの手中にある限り、奴等はステータスの果実を全て揃えることは不可能。そしてこちらの要求に答えられなかった場合……。」
最後まで言葉を言い終える前にイリアスと呼ばれた男の口角が歪に吊り上がる。
「平和条約は破棄ッ!!破棄ィィィィッ!!フハハハハハハッ!!」
「キキキ、そしてまた正しい歴史が始まる。正義を振りかざす我らが魔族を支配する正しい歴史が……。」
イリアスは高らかに、さぞかし愉快そうに笑うとクルリと踵を返した。
「フフフ、3日後……カナンが幼い魔王を打ち倒し、魔の者が淘汰される時代の幕開けになる。」
そしてイリアスと配下の男は庭園を後にして行った。
静まり返った庭園で、俺はナインに問いかける。
「ナイン、今の会話……。」
「一言一句逃さず録音しております。」
「十分だ。」
ここに来て、守の果実だけでなく思わぬ収穫も得た。それはイリアスという男が、平和条約の破棄を狙っているということ。そして3日後……条約破棄と同時にアルマ様の命を狙っているということ。
今までは憶測でしかなかったものが先ほどの会話で裏付けされ、確信へと変わった。
「ナイン、帰るぞ。」
「マスター、ステータスの果実はよろしいのですか?」
「
「かしこまりました。」
そして俺はナインと共に城へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます