第074話 天が望むのは


 城へと戻ってきた俺は、アルマ様の朝食が終わった後ジャックにヒュマノの王都にて見てきたことを伝えることにした。


「ジャックさん、少しお時間良いですか?」


「む?カオル様、もちろん構いませんよ。ここからですと私の部屋が近いのでそちらでお話を聞きましょう。」


 そして彼の部屋に通された俺は、早速収納袋の中から力と命、魔の果実を取り出して彼に見せた。


「おぉっ!?こ、これは……間違いなくステータスの果実。ど、どうやってこんな短時間で集めたのですか?」


「ナインに手伝ってもらったんです。過去にステータスの果実がとれたっていう記録の残ってる場所をいくつも巡ってかき集めてきました。」


「簡単に言っていますがとても大変だったのでは?」


「それでもナインが可能性の高い場所をどんどん絞り込んでくれたので、全部は回らずに済みました。」


「ご協力心から感謝します。これで残すは、守の果実の実のみですな。可能性が見えて参りました。」


 ほっと安堵するような表情を浮かべるジャックだが、そんな彼に俺はあのことを告げなければならない。

 少し躊躇いながらも、俺はヒュマノで見て、聞いたことをそのまま彼に告げることにした。


「その肝心の守の果実なんですけど、実はもう見つけてるんです。」


「なんですと!?それは今どこに!?」


「ヒュマノの王都シルヴィアの王城にある庭園の中です。」


「…………っ!!そんなことが────。」


「実際に行って確かめてきたので間違いないです。あっち側は守の果実が自分たちの手にあるから……こっちがどう頑張ってもそれを手に入れられないことを分かった上であの要求をしてきたんです。」


「ということは、ヒュマノ側は平和条約の破棄を狙っている。そういうことですか。」


 頭の回転が速いジャックは、俺の話を聞いてすぐにヒュマノが企んでいることを察したようだ。そして察したと同時に表情が一気に険しくなる。


「となればいよいよ、二日後の面会は危ない。その面会の場で平和条約を破棄することを告げられれば、魔王様の命を狙う絶好のチャンスになる。」


「このままこちらが守の果実を手に入れられなければ……そうなってしまいますね。でも、そうはさせません。。」


「何か名案がおありなのですか?」


「はい。」


 俺はジャックの問いかけに力強く頷いた。


 すると、少し表情を和らげて彼は言う。


「わかりました。では、この件はカオル様にお任せいたします。」


「ありがとうございます。」


 彼は俺のことを信じて、首を縦に振ってくれた。この信頼を裏切るようなことはできないし、するつもりもない。


「最悪の場合に備えて、私もできる限り準備はしておきます。もし何か、お手伝いできることがあれば何なりと申し付けください。」


「大丈夫です。ジャックさんは当日……平和条約の破棄を企んでやってきたヒュマノの人達を心の中で嘲笑っていてください。」


「ホッホッホ、余程自信がおありのご様子ですな。」


「もちろん、アルマ様の命がかかってるときに自信のない案なんて出しませんよ。」


 今からでも、悔しそうな表情を浮かべるあの男……イリアスの表情が頭に思い浮かぶ。


 絶対にやつらの思い通りにはさせない。











 運命の日まで残すところ二日となった今日この日の夜……俺は再びナインにあることをお願いすることにした。


「ナイン、また昨日の場所に飛ばしてくれ。」


「かしこまりました。」


 そして、昨日と同じように庭園にやってきた俺は中央に守の果実があることを確認すると、庭園の中にある背の高い木に登り、パッシブスキルの夜目をフル活用して城の様子を観察し始めた。


 すると、城の中からイリアスが何人かの従者を連れて出てきた。彼らの先には豪勢な馬車が用意してある。


「今から魔王城に向かって出発するってわけか。おおかた予想通りだな。」


 観察していると、従者を連れていたイリアスが馬車の近くで従者を待機させ庭園へとやってくるのが見えた。すぐに俺は身を隠し聞き耳を立てる。

 案の定というかなんというか、イリアスは守の果実の木の前に立つと笑い始めた。


「もうすぐ誤った歴史が元に戻る。正しい歴史が幕を開けるのだ。これがここに生えてきたのも運命……天も望んだ運命。天も正しい歴史を望んでいるッ!!」


 くつくつと笑うと彼はマントを翻して庭園を後にしていった。ここで俺が話を聞いているとも知らずに。


「正しい歴史ね。互いに争うのが正しい歴史なわけがない。間違ってるのはアイツらの認識だ。」


 ガラガラと音を立てて、馬車が出発していくのを見た後俺は再び守の果実の木の前に立った。


「天が望んだ運命ね。本当に天が望んでるのはどんな運命だろうな。」


 それはぜひとも自分たちの目で確かめてもらおうか。今まで味方だと思っていた天が突然裏切った時、どんな表情を浮かべるのか楽しみだ。


 俺は静まり返った庭園の中心で思わず笑みがこぼれてしまうのだった。


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