第062話 リオーネス
魔物を全て倒し終えると、再び馬車は進み始めた。
馬車の中でラピスと他愛のない会話を弾ませていると、外の景色が少しずつ変わり始めた。
「ん?雪がちらつき始めたな。」
外を覗いてみると、チラチラと雪が降り始めていた。
「どうやら北の大地に近付きつつあるようだな。」
「ラピスは寒いのとか大丈夫なのか?」
「まぁ、もともと我は空の高い所を飛んでおったからな。高く飛べば飛ぶほど気温は低くなる故、寒さに対する耐性はある。」
「なら安心だな。」
生憎俺は寒さに対する耐性はほぼ皆無だ。東北生まれでもなかったからな。雪も指で数えられる位しか見たことがない。
だから俺はそろそろ上に服を着込もうか。
収納袋から、俺は予め買っておいた防寒着を羽織った。モコモコの裏地が暖かい。
そうやって一人でぬくぬくとしていると……。
「カオルよ、ずいぶん暖かそうなものを着ているではないか。」
「生憎俺は寒さに強くないからな。こんな風に上に重ねて着て少しでも暖かくするってわけさ。」
「もちろんそれは我の分もあるのだろう?」
「あるぞ?着るか?」
「うむ。」
そして俺はラピス用に買っていた
「おい、カオルよ?」
「ん?」
「もう少しマシなのは無かったのか!?これはいかにも人間の子供が着るものだろう?」
子供用もいうこともあって、可愛らしくデザインされたそれにラピスは顔を真っ赤にして言った。
「仕方ないだろ?ラピスの体に合いそうなのがそれしかなかったんだから。まぁデザインは少し……子供っぽいが。防寒性は抜群だぞ?……多分。」
「うぐぐぐぐ……ま、まさか我がこんなところでこのような辱しめを受けることになるとは。」
可愛いデザインの防寒着とにらめっこするラピス。しかし、数分後には諦めがついたのかそれを羽織っていた。
「お、ちゃんと似合ってるじゃないか。」
「お世辞を言うでないわ。こんな子供の着るものが我に似合うわけが…………。」
「まぁ、確かにドラゴンの姿のラピスには似合わないだろうな。でも、今の姿には似合ってるように見えるぞ?」
「む、むぅ……そうか。なら……悪くないやもしれん。」
素直に感想を告げると、彼女は少し顔を赤くしてそう言った。
「そういえば、ラピスは人間の姿の時っていっつもその姿だけど……体型を変えたりとかできないのか?」
ふと疑問に思ったことを彼女に問いかけてみた。すると……。
「我は変化の魔法が苦手なのだ。故にこの姿にしか化けることができぬ。」
「変化の魔法……ねぇ。」
「まぁ、この姿が最も魔力効率の良い姿であることも事実。下手に体を大きくしたりすると長い間姿を維持できぬのだ。」
「その姿ならずっと維持できるのか?」
「そうだ。魔力の消費よりも回復の方が早いからな。」
自分以外の別な何かに変身できるってなかなかロマン溢れる魔法だな。俺は魔力の扱いがまだ下手だから長時間の維持はできないだろうが……。
「面白い魔法だな。それ、後で教えてくれよ。」
「むっふっふ、我に魔法の師になれと?カオルよ、おぬしはやはりなかなか良い目を持っておるではないか。師匠と呼んでも良いのだぞ?」
「考えとくよ。」
もし変化の魔法を使えるようになったらいったい何に姿を変えてみようか。それを考えるのもまた楽しいな。
そんな会話を弾ませながら、馬車は
そして気がつけば、すっかり日が沈み、辺りには暗闇が降りていた。
それに伴って寒さも一段と増してくる。
「う~寒っ!!防寒着着ててもこれか。」
たまに馬車のなかに入ってくる風が凍えるように冷たい。防寒着から出ている顔に当たると尚更だ。
寒さに慣れていない俺が体を震わせていると、正面に座っているラピスが口を開いた。
「カオル、大丈夫か?」
「あ、あぁ……ちょっと予想してたより寒かっただけだ。」
「……仕方ない。我が暖めてやるのだ。」
すると、ラピスは俺の膝の上にピョンと飛び乗った。
「ラピス?」
「こうしておれば幾分か暖かいだろう。我はドラゴン故体温も高いのだ。」
確かに、膝にのせている感じ……まるで湯タンポを抱き抱えているような暖かさがある。
「ありがとな。」
「おぬしに風邪を引かれては困るからな。こんな場所でおぬし以外に我が満足できるものを作れる者はおるまい。」
そうして、ラピスに暖めてもらいながら、また馬車に揺られていたのだが……ふと突然馬車がまた止まった。
そして運転席の方から運転手がひょっこりと顔を出した。
「お客さん、リオーネスに到着しましたよ。」
「お、やっと着いたか。」
「これで馬車に揺られるのも終わりだの。」
ラピスとともに馬車から降りると、真上にはキラキラと輝く満天の星空が広がっていた。
幻想的な景色に目を奪われていると、運転手の男性がこちらに歩いてきた。
「お客さん、道中はありがとうございました。」
「あ、大丈夫ですよ。」
「あれだけ魔物を倒してもらったんで、運賃は要りません。」
そう彼は言ったが、俺は彼の手に運賃に少し色をつけてお金を手渡した。
「あなたはちゃんと自分の仕事をこなした。それに対する対価ってのは必要ですよ。それじゃあありがとうございました。」
「え!?あ、お客さん!?」
そして彼に背を向けて俺とラピスは灯りの灯るリオーネスへと入っていった。
「カオルよ、今から山に登るのか?」
「まさか、こんな真っ暗な道を進むわけないだろ。今日はひとまず宿を探して……明日の朝出発だ。」
俺にはスキルの夜目があるから暗い道でも見えるが……それでも全てがはっきりと見えるわけではない。安全を考慮するならば明朝の出発が最善策だろう。
「さ、凍える前に宿を探すぞ。」
「うむ!!」
降り積もった雪の中を歩きながらリオーネスの中を探し回っていると、ようやく宿屋と書かれた建物を見つけることができた。
「ここだ。」
扉を開けると、中から暖かい空気が漏れて通りすぎていった。
そして俺たちに気がついた宿屋の従業員の女性が声をかけてくる。
「こんばんは~、宿屋
「はい、二部屋空いてますか?」
「空いてますよ~。ではではこちらにお名前をお願いします。」
差し出された紙にサラサラと名前を記入すると、部屋の鍵を二つ手渡された。
「今からでしたらご夕食もご用意できますけど、どうしますか?」
「お願いします。あと、明日の朝食も。」
「かしこまりました~。ではお部屋は二階に上がってすぐにありますので、ご夕食ができるまで少しお待ち下さ~い。出来次第こちらから声をかけますので~。」
「ありがとうございます。」
そしてラピスと二階に上がり、各々自分の部屋を確認した後に、明日の予定を話し合うために俺の部屋に集まった。
「カオルよ、意外としっかりとした宿屋だの?」
「あぁ、ベッドも柔らかいし……これなら馬車で揺られて疲れた体も休められる。それで、明日の予定だが……朝食を食べた後に登頂開始だ。んで、ノーザンイーグルを倒して……行きか帰り道でギルドの依頼をこなす。」
「ふむ、目的は二つか。」
「できれば一日で登って帰ってくるのが望ましいが……天候に左右されるだろうから、最悪一泊位野宿することは考えておいてくれ。」
「寒い中で野宿か……。」
「大丈夫、しっかり準備は整えてきた。そこは安心していい。」
「そうか。では心配は要らなさそうだな。」
「あぁ、大船に乗ったつもりでいてくれて構わない。」
そしてラピスと明日の予定を煮詰めていると、部屋の扉がコンコンとノックされ声が聞こえてきた。
「お客様~ご夕食の準備が出来ましたので一階にお越し下さ~い。」
「ん、もう出来たのか。」
「カオル以外のものが作る飯で我が満足できるとは思えんが、まぁ試しに食ってやろうではないか。」
一階に向かうと、香ってきたのはチーズの香り。そして席に用意されていたのは、たっぷりのとろけたチーズと、蒸し野菜やパン等々。
これは間違いなくチーズフォンデュだ。
もちろん美味しくないわけがなく、俺とラピスは北の大地の味覚を存分に味わったのだった。
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