第053話 ステータス


『レベルが1上昇しました。』


 何度目かもわからないその声が響いたその瞬間、ナインは攻撃の手を止めた。


「マスターお疲れさまでした。目標値の50に到達したようなので、これにてトレーニングは終了します。」


「お、終わったのか?」


 脳内に響くレベルアップの声を数える暇もなく、ナインと戦闘を続けていたためどのぐらいレベルが上がったのか実感がなかったが……今やっと実感が湧いた。


「レベル50まで上がった……のか。」


 そう実感すると体中から力が抜けて床にへたり込んでしまった。


 実際はそんなに時間は経っていないのだろうが、こんなに濃密な時間を過ごしたのは初めてだ。もう戦ってる時の時間の流れが遅くて遅くて仕方がなかった。


「でも、本当にこんな短時間で14もレベルが上がったのか?」


 いくら命の危険にさらされながらトレーニングに励んだとはいえ、にわかには信じがたい。


「間違いありません。信じがたいようでしたらご自分でご確認してみては?」


「確認って言ったって、どうやってそんなの確認するんだ?」


「確認の方法をご存じないのですか?」


「知らないな。」


 ってか、そんな方法があったこと自体初耳なんだが……。


「やり方を教えてくれないか?」


「胸に手を当ててと唱えてみてください。」


「……?こうか?。」


 胸に手を当ててそう唱えると、目の前にヴン……と音が鳴り、目の前に不思議な画面が現れた。

 そこには以下のようなことが書いてある。


名前 瑞野 カオル

年齢 22

種族 人間

性別 男


称号 魔王のご機嫌とり


level 50


HP   120/4000

MP    0/1000

ATK    1800

DEF    2000

MDEF  1500

AGI     800 

INT    1000 


スキル


・危険予知(パッシブ)

・魔力操作(パッシブ)

・受け身(パッシブ)

・夜目(パッシブ)

・魔装



「ほぉ~……これは知らなかった。レベルからスキルまで全部見れるのか。」


 レベルの項目を見ると、確かにレベルは50

と表示されている。


「確かにレベル50になってるな。」


「ナインの計算に狂いはありませんので。」


 無表情ながらも、少し自分の性能を誇るように言ったナイン。


「っはぁ~……キツかったけど、これでいつアルマ様に獄鳥をねだられても大丈夫だな。」


 目標のレベルに到達したことだし、お願いがあるまでは余裕をもっていられる。


「レベルアップに付き合ってくれてありがとな、ナイン。」


「マスターのためならば、ナインは何でも致します。」


 感謝の言葉を述べると、まるで当然……と言わんばかりにそう告げて、彼女はペコリとお辞儀する。


 息を整えてトレーニングルームに掛けてある時計に目を向けると、まだアルマ様の昼食までは時間がある。


「少し休む時間はありそうだな。」


 疲れをとるためにその場で横になるべく体を倒すと、床に着く前に頭に柔らかい感触が触れた。


「ん?ナイン?何してる?」


「人間という種族はこうして膝枕というものをされると癒されると記憶領域データベースに記録されておりましたので、試行してみました。如何でしょうかマスター。」


「いったい誰がそんな情報を……。まぁ癒されることに間違いはないけどさ。」


 意外にもナインの膝枕は柔らかく、本当に他人の太ももに頭を乗せているような感覚だ。

 それに人肌の温もりも感じる。


 膝枕なんて、子供の時にされて以来だが……感覚は覚えているものだな。


 柔らかい膝枕の感触と、人肌の温もりのおかげでどんどん睡魔が俺にすり寄ってくる。


「悪いナイン……ちょっと寝るかも。」


「構いません。では睡眠をサポートさせていただきます。」


 彼女はそう口にすると、俺の耳に何かをゆっくりと挿し入れてきた。


「ナイン?」


「マスター、動いてはいけません。ただの耳かきです。」


 すると、耳のなかをマッサージするようにカリカリ……ゾリゾリとナインは耳かきを動かし始めた。

 決して痛くはない。それどころか、とても心地よい。


 そんな心地よさからか、彼女が耳かきを動かす度に急激に目蓋が重くなっていく。


「マスター、加減は如何でしょうか?」


「あ……ぁ、すごい……良い。」


「では続けますね。」


 どんどん薄れていく意識のなか、俺は最後にナインにあることをお願いした。


「ナイン……。」


「はい?」


「あの時計の長い針が一周したら起こしてくれ。」


「かしこまりました。それまではごゆっくり……お休みくださいマスター。」


 伝えるべきことを伝えたことで、僅かに残っていた意識が睡魔に一気に刈り取られ、微睡みへと深く沈んでいった。

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