第052話 ハードレベリング
ナインにレベルアップの手伝いをしてもらうためにトレーニングルームに足を運んだ。すると彼女は早速ミラ博士から与えられたという、機械仕掛けの剣を取り出した。
「では、マスターのレベルアップをお手伝いさせていただきます。」
初めてダンジョンで出会った時と同じように明らかな殺気を放っているナイン。そんな彼女に俺は恐る恐る問いかけた。
「い、一応聞いておくけど……俺死なないよな?」
「もちろんです。仮に致命傷を負ったとしてもすぐに治しますのでご安心ください。」
「えぇ……致命傷を負うぐらい激しくやるのか?」
さらりと恐ろしいことを言ったナイン。さすがにこの言葉には顔を青ざめた。
そんな俺をよそにナインはレベルアップについて説明を始める。
「レベルアップの原理は経験値がある一定の値に達した際に起こるものです。それはマスターもご存知かと思います。」
「あぁ、それはわかってる。」
「では、レベルアップに必要な経験値を一時的ですが、
「経験値を増やす方法?」
それは聞いたことがないな。
「ご存知ないようなので簡単に説明させて頂きますと、経験値というのは自分自身が危機に陥った際にのみ一時的に増えます。今回はそれを利用しようかと思っていました。」
「……つまり、俺が命を危険を感じればもらえる経験値が多くなるってことか。」
「そういうことです。」
経験値の仕組みを理解したと同時に、これから命を危惧するほど壮絶なトレーニングが始まることを理解する。
「では、マスター。恐縮ですが……
「は、ははは……お、お手柔らかに。」
言い出しっぺは自分とはいえ、脳裏に
「ゼェ……ゼェ……も、もう無理だナイン。」
「マスター、まだ目標ラインに到達していません。立ってください。」
息を切らしながら床に膝をつく俺に無慈悲にナインはそう告げる。そして目の前を彼女の機械仕掛けの剣が一瞬通りすぎると、不思議と体力が回復する。
しかし体力は全回復することはなく、立ち上がれる位までしか回復しない。それも彼女の塩梅で調整しているのだろう。
先程からこれの繰り返しだ。俺の体力が底をつくと、ナインがほんの少し回復させて戦闘を継続する。
俺からすればマジで生き地獄を味わっているような気分だが、それの対価として先程からレベルアップの声が何度か頭に響いていた。
「はぁ、はぁ…………ナイン、お前マジで鬼畜だぞ。」
姿を追えないほど速いナインの攻撃を危険予知でかわしながら、俺は彼女にそう言った。
しかし、返ってきたのは鋭い剣戟と感情の籠っていない冷たい一言だった。
「これもマスターの為です。」
「――――――っ、わかってるよ!!魔装ッ!!」
両手に魔力の剣を作り出した俺は、ナインの攻撃をかわし、切り込んだ。
しかし、アッサリと彼女の機械仕掛けの剣に受け止められてしまう。
「マスター、攻撃の軌道が単純です。それと、遅すぎます。」
そして更にダメ押しを食らう始末だ。
「先程から攻撃をかわしている動きのように、速く攻撃してください。今の動きではナインが損傷を受ける可能性は0%です。」
「はぁ……はぁ……無理言ってくれるな!!」
こっちは体力がもう底をつきそうになってるってのに……。
ナインの攻撃の手を止めるべく、こちらから攻撃を仕掛けている最中……俺の頭にある考えが浮かぶ。
(……体が動かないなら、魔力を動かしたらどうなんだ?)
そうふと思い浮かんだ瞬間だった。
「マスター、戦闘中の考え事は死を招きます。」
「うぉっ!?」
そう注意すると同時に、俺はナインの剣に大きく弾き飛ばされてしまう。
「くっ、考えてる暇があったら動けってか……。なら試してやる。
ゲートガーディアンの時に使った、魔力を伸ばす技を使う。
そして魔力の剣は真っ直ぐにナインへと伸びていくが……。
「…………マスター。発想は良いですが、先程も言ったように軌道が単純です。」
またしてもアッサリと弾かれてしまう。
だが、俺はそれを待っていた。
「
「っ!!」
弾かれた魔力の剣は直角に軌道を曲げると、再びナインに襲いかかる。
流石にこれはナインも予想外だったようで、初めて彼女は後ろに下がった。
そして安全圏まで下がった彼女は、今日初めて俺のことを褒めてくれた。
「今の攻撃は良い攻撃でした。」
「はは、そりゃどうも。」
「
「へ?」
「もう先程の技は食らいません。」
そう告げると彼女は再び剣を構えた。まるでもう一度やってこいと言わんばかりに……。
「じゃあ、こんなのはどうだ!!」
両手の魔力の剣を縦横無尽に軌道を曲げながら、ナインへと襲いかからせる。
しかし、彼女は動揺一つ見せずポツリと一言囁くと、剣を振るった。
「演算処理……
「なっ!?」
ある一定の軌道を描くようにナインが剣を振るうと、まるで動きを先読みされていたように攻撃が弾かれた。
それと同時に俺の魔力が底をつき、魔装が解除されてしまう。
「魔力限界のようですね。生憎ナインの剣は体を癒すことはできても魔力を回復させることはできませんので……。」
そして攻撃的な構えをナインがとると、彼女は言った。
「ではまたこちらから……参ります。」
「あ、あはは…………。」
もう渇いた笑いしか出てこない。
ここから先はもうずっと彼女の攻撃ターンだ。
彼女のターンが終わるのは……俺のレベルが目標値に達したときだろう。
そう諦めていたとき、そんな俺を哀れんだのか、声が響く。
『レベルが1上昇しました。』
もういっそのこと、一気にレベルアップしてくれ……。そう切に願うのだった。
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