第049話 アーティファクトの能力


 ダンジョンから帰ってきて、まるで嵐のように1日は過ぎ去っていきあっという間に夜になってしまった。アルマ様への料理も作り終えた俺は、部屋で一人あのアーティファクトを眺めていた。


 というのもどうにもこれが気になって仕方がないのだ。


「生きているアーティファクトか、いったい何に使えるんだろうか。」


 普通に何かを切るものとして使えるのなら、包丁のように使えないかな。今使ってる包丁も年季が入って細くなってきてしまったし、そろそろ新しいのを新調しようかと思っていたんだ。


「でも扱い方には気を付けろって言われたよな。」


 どんな力を持っているかもわからないそんなものを扱っても本当に大丈夫なのだろうか。そんな不安はぬぐえないが、逆に使わないと使い方を理解できるはずもない。


「試しに使ってみるか。」


 そう思った時だった。


 コンコン……。


 不意に部屋の扉がノックされた。こんな時間に誰かと思っていると……。


「マスター、ナインです。入ってもよろしいでしょうか?」


「ナインか、入っていいぞ。」


「失礼しますマスター。」


 許可を得て部屋の中にナインが入ってくる。確か彼女も自分の部屋を貸し出されていたはずだが……いったいどうしたのだろうか。


「どうしたんだ?」


「ナインはマスターの守護をしなければなりません。故にマスターが一番無防備になる就寝の間はナインがマスターを守ります。」


「別に命を誰かに狙われているわけじゃないから、そんなことしなくて大丈夫だぞ?」


「いけません、ナインのデータによると暗殺の成功の確率が最も高いのは目標ターゲットの就寝中だと記録が残っています。」


 ま、まぁナインの言っていることはわかるけど……あくまでもそれは命を誰かに狙われている人に限っての話だ。それに俺にはあのスキルがある。


「大丈夫だ、俺には危険予知のスキルがある。命の危険がせまったら自分で回避できるさ。」


「ですが、それでも……。」


 なかなか納得しようとしないナインに俺は頼み方を変えることにした。


「それじゃあこれはだ。」


「命令……ですか。」


 ナインの今のマスターは俺だ、彼女は俺のには逆らえない……はず。


「─────承知しました。ですが非常事態の際には指令ミッションコード0119に則り、マスターの生命を最優先に行動します。」


「あぁ、それでいい。」


「ではナインは戻って待機します。」


 そしてくるりと踵を返そうとした彼女を俺は呼び止めた。ちょうど彼女に聞きたいことがあったのだ。


「あ、ナインちょっと待ってくれ。」


「はい、マスター。」


 歩みを止めると、ナインはこちらを振り向いた。


「ナインを作ったミラ博士ってのは、アーティファクトみたいなのも作ってたんだよな?」


「肯定します。」


「そのミラ博士が作ったアーティファクトのリストみたいなのって記録されてたりしないか?」


 仮にもし……こいつがミラ博士の作ったものだとしたら、どんな力を持っているのかわかるはずだ。と、そう思ったのだ。


「ミラ博士の作ったアーティファクトリストは登録されています。」


「なら、これがその中にあるかどうか確かめてみてくれないか?」


「承知しました。」


 ナインに俺は小刀のアーティファクトを渡すと、彼女は瞳に緑色の光を宿らせて自身の中に登録されているアーティファクトのリストと照合し始めた。


「登録されているアーティファクトリストと照合開始────検索に時間がかかります。形状で絞り込んで検索────形状が一致するものが見つかりません。」


 少しの間アーティファクトを眺めていたナイン。そして彼女の瞳から緑色の光が消えると、ナインはこちらを向いて言った。


「マスター、照合の結果ミラ博士の作ったアーティファクトと一致するものはありませんでした。」


「そうか。ありがとな。」


 頼みの綱だったナインでもわからずじまいか。いよいよもってこいつが何なのか、いったいどんな力を持ってるのか気になって来たな。


「マスター他にご用件はございませんか?」


「あぁ、呼び止めて悪かった。もう大丈夫だ。」


「では失礼します。」


 そしてナインは部屋を後にした。


「ミラ博士の作ったものじゃないってことはこれは……いったい誰に作られたものなんだ?」


 考えられる可能性としては、ミラ博士の他にもアーティファクトを作れる人物がいて、これを作ったか。それともあのダンジョン自体が生み出したものなのか。おそらくはこの二択だろう。


「これについて考えれば考えるほど謎が深まっていくな。」


 だが、今確かめられることは一つある。それは、これで物を切った時どうなるかだ。


 その謎を解決するために俺は収納袋の中から林檎を一つ取り出した。


「試し切りにはちょうどいいだろ。本当は後で自分で食べるつもりで買ったんだが……。」


 そして包丁を近づけて皮を剥こうとしたその時だった。


「ん!?」


 アーティファクトを林檎に近づけたその瞬間……刃を当ててすらいないのにリンゴの皮がスルスルと独りでに剥け落ちたのだ。


「これは……いったいどういう原理なんだ?」


 刃を当ててすらいないのに独りでにリンゴの皮が剥けている。しかも俺が向こうと思ったその瞬間にだ。


 いろいろな仮説を立て、その中で最も有力なものを確かめるために、俺は林檎を遠く離れた場所に置いた。

 そしてその林檎に向かってアーティファクトを振り下ろした。すると、離れていた場所にあった林檎が真っ二つに割れたのだ。それを見て俺は確信する。


「なるほどな。おおかた理解できたぞ。後は詳細を煮詰めていくだけだ。」


 それから何回かこのアーティファクトを使ってみて、いくつか分かったことがある。


 一つは、視界内にある物しか切れないこと。

 二つ、どんなに乱雑に振るったとしても頭の中で思い描いた通りにものが切れること。


 そして最後、これが一番重要だ。このアーティファクトはカーラの話では自分で空気中の魔素を取り込んでいるらしいのだが、切れば切るほど溜まっていた魔力が減っていく。そして最終的には俺自身の中にある魔力を使うことになるようだ。


 正直かなり使い勝手の良いもののようだ。今のところ大したデメリットもないし、何よりこれは立派な遠距離武器になる。実践で使えるかはわからないが、それもあとで試してみよう。


「これがどんなものなのか、ある程度はわかったからあとはいろんな場面で使ってみよう。」


 そうと決まれば明日は軽い魔物討伐の依頼でも受けに行こうかな。


 好奇心に胸を躍らせながら、俺はベッドに横になるのだった。

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