第050話 必殺技?


 次の日、俺はギルドで魔物の討伐依頼を受けてスケイルフィッシュが繁殖している湖へとやってきていた。少し前に俺とラピスでほとんどのスケイルフィッシュを駆除したが、どうやらあれでも氷山の一角らしくまだまだこの湖には潜んでいるらしい。


 早速俺はギルドから借りた大きな釣り竿の糸の先に餌をつけて湖の中に放り込んだ。後は待つのみだ。


 釣り竿の近くに折り畳み式の椅子を組み立てると俺はそこに腰掛けた。この前はこういう準備を整えてきてなかったからな。今回はこうやって腰かけて休みながら釣りに勤しめる。


 夜空に煌めく星を眺めながらアタリが来るのを待っていると……。


「おっ?今引いたな。」


 仕掛けていた竿がぐいっと引っ張られる。アタリが来たのを確信し、竿に手を添えると、思いっきり引っ張った。


「よしっ来たっ!!」


 ピーンと張りつめた糸の先で魚がもがいているのが伝わってくる。すごい力で逃げようとするが、前とは違い更にレベルアップを遂げた俺の筋力も上がっているため、どんどん岸へと引き寄せることができた。


「そーーーれっ!!」


 岸に寄せたそれを一気に釣り上げると、スケイルフィッシュが餌に食いついていた。

 俺のことを敵と認識したスケイルフィッシュは針がついているにも関わらず、飛びかかってくる。


「さて……。」


 収納袋に手を入れると、俺は小刀のアーティファクトを取り出した。

 そしてスケイルフィッシュを目に捉えてそれを振るった。


 すると、空中でスケイルフィッシュが三枚に下ろされてしまった。


 身の部分が地面に落下しないように受け止め、飛びかかってきていた頭と骨だけになったスケイルフィッシュをひらりとかわすと、ヤツは地面に落下する。

 絶命したかと思いきや、自分が死んだことに気がついていないようで、スケイルフィッシュはまだピチピチと動いていた。


「名付けて…………なんてな。」


 必殺技っぽく言った後、スケイルフィッシュは絶命した。


 そして改めてこのアーティファクトに目を移した。


「にしてもスケイルフィッシュの硬い鱗でも関係なく切れてしまうのか。とんでもない切れ味だな。」


 こうなると、いったいどんな硬さのものまで切れるのだろうという興味が湧いてくる。


「ひとまずあと二匹スケイルフィッシュを釣って依頼だけ終わらせよう。」


 今回受けた依頼のスケイルフィッシュの最低討伐数は3匹だ。ギルドの酒場で料理として使うらしい。考案したメニューが人気になっているというのは気分がいい。


 そんなこんなで三匹スケイルフィッシュを釣り上げると、その場で三枚に下し収納袋にしまうと湖を後にした。










 夜でも煌々と明かりが灯っているギルドに足を踏み入れると、いつものように酒場で酒盛りしているリルの姿と、もう一人……見慣れた人物の姿があった。


「んぁ?あ、キミお帰り~。今日は早かったね。」


「か、カオル!?」


「あれ、今日はカーラさんも一緒なんですね。」


 そう、リルとともに酒盛りをしていたのはカーラだったのだ。


「今日は独り身同士で悲しくお酒飲んでたところなんだよ~。」


「り、リル!!独り身とか大きい声で言うんじゃないよ!!」


「あはは~カーラの方が声がおっきかったけどね~。」


「~~~っ。」


 そう指摘されてしまって、ぐぅの根も出なくなり顔を真っ赤にしたカーラは辺りをきょろきょろと見渡し始めた。幸い夜が更けていたこともあり、俺と彼女たち以外に人はいなかったので誰かにさっきの話を聞かれていたということはなさそうだ。


「あ、それよりもカオルくん、スケイルフィッシュの依頼の報告をお願いしようかな。」


「ひとまず今日は三匹だけ駆除してきましたよ。釣り上げてすぐに血抜きもして三枚に下してるので、切り身にすればすぐに食べられます。」


「お~気が利くね~。それなら少し報酬に色付けとくよ。」


 下ろされたスケイルフィッシュをリルは酒場のマスターに渡しに行くと、ジョッキになみなみとお酒を注いで戻ってきた。しかも


 彼女が両手にジョッキを抱えてきたことにいやな予感を感じざるを得なかったが、そのいやな予感は現実のものになる。


「いや~、ちょうどキミが考案してくれたメニューが品切れになっちゃっててね。つまみに困ってたんだよ~。」


 そう上機嫌で戻ってきた彼女は、俺になみなみとお酒が注がれたジョッキを差し出してきた。


「はいっ☆」


「え、えっと……これは?」


「まさかさ~、こんなさみしい想いをしてる乙女二人を置いてさっさと帰ったりはしないよね?」


「うっ……。」


 誘ってくるリルの目がマジの目をしている。こんなマジな視線を送られて断れるはずがないし、それに加えて期待のこもった純粋な視線をちらちらと送ってくるカーラの仕草が余計に断りづらくさせてくる。

 結局断れずに俺はリルからそのお酒を受け取ってしまった。


「そう来なくっちゃ!!さっ、座って座って~まだまだ夜は長いよ~?」


 二人に挟まれる形でテーブルを囲むと、酒場のマスターが山盛りのフィッシュアンドチップスを運んできた。


「きたきた~っ♪やっぱこれがないとお酒も進まないよね~。」


 料理が運ばれてくるなり、リルはお酒とともにそれにがっついた。


 相変わらずだな……と思いながら手にしていたお酒を口に含むと、カーラが話しかけてきた。


「そういえば、あのアーティファクトは使ってみたのかい?」


「使ってみましたよ。まだ大まかにしかわかってないですけど、視界にあるものを遠くからでも切れる……みたいな感じでした。」


「ほぉ~……だとしたら使い勝手の良いアーティファクトだねぇ。」


「でも、一回切るごとに魔力を使うみたいで、この刀身に溜まってる魔力が無くなったら、使ってる本人の魔力を使うみたいです。」


「なるほどね。まぁ大して危険なもんじゃなくてよかったじゃないか。」


 アーティファクトの性能をある程度聞いた彼女は、ぐいっと豪快にジョッキに入っていた酒を飲み干した。


「ぷはっ……相変わらずここの酒は美味いねぇ。」


「そんなの当たり前、なんたって私が厳選してるんだから。」


 少し顔を紅潮させたリルが胸を張ってそう言った。


「まったく、リル……あんたの酒好きも昔から変わんないねぇ。」


「あははは♪お酒は私の唯一のパートナーだからね~ん♪」


 二人の会話に耳を傾けながらも、ジョッキに入っていた酒を飲み干し、ホッと一息ついていたのだが……。


「あ、キミィ~……無くなったら無くなったって言ってよ~。」


「あ、俺はもう――――――。」


「はい、じゃんじゃん♪」


「あ゛……。」


 すっかり酔いの回ったリルは容赦なく空になったジョッキに新しく酒を注ぐ。


 どうやら今日も朝まで帰れそうにない。


 そして俺の予想通り、独り身である三人の酒宴は朝まで続いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る