第047話 ミラ博士


「終末に関しては私からこれ以上話せる情報はありません。なのでミラ博士についての情報を開示します。ミラ博士という人物は、先述の通り私達人造人間アンドロイドを作り出した人間の女性です。ミラ博士は高度な魔法技術と未来予測のスキルによって文明を超えたものを作り出すことを得意としていました。」


 自分を作り出したミラ博士という人物についてそう語るナイン。サラリと、とんでもないことを口にしているがどうやらミラ博士というのは相当な科学者……いや、違うな。魔法使い?って表現したほうが良いのかな?まぁそうだったらしい。


「文明を超えたもの……つまりはアーティファクトのようなもののことですかな?」


「現代の呼び方で言うのであればそれに該当します。事実、ミラ博士は発明した数多くの品々をこれから先に発生するであろうダンジョンのある場所に隠していました。」


「ふむ。」


 今のナインの話を聞いていた限り、アーティファクトはそのミラ博士という人物が作ったように聞こえる。


「ミラ博士という人物が類い稀な才能を持った人物であることはよくわかりました。それを踏まえた上で一つ質問なのですが、ナイン様あなたは9番目に作られたと言っていましたな?ということは他にもあなたと同じ人造人間アンドロイドがいる……という認識でよろしいですかな?」


「その認識で間違いありません。私を含めて10体の人造人間アンドロイドがミラ博士によって作られました。」


「ナイン様はダンジョンの最下層でカオル様と出会ったようですが、他の方々もダンジョンの中に?」


「肯定します。後々現れるダンジョンの最下層で終末を退ける可能性のある存在を待っています。」


「ホッホッホ、なるほど……。これは忙しくなりそうですなカオル様。」


 ナインからある程度の情報を引き出して、何かを理解したジャックは愉快そうに笑う。


 そしてとあることを問いかけてきた。


「それで、カオル様はナイン様をこれからどうされるおつもりで?」


「それなんですけど……できればラピスと同じようにここで働かせてやって欲しいんです。多分掃除とかならできると思いますし。」


「では、メイドとして雇う……という条件ではどうでしょうか?」


 ジャックに提示された条件をナインに確認する。


「ナインはそれでいいか?」


「マスターのご命令とあれば。」


「じゃあその方向でお願いします。」


「ホッホッホ、かしこまりました。それではナイン様、私に着いてきてもらってもよろしいですかな?」


 ジャックがそう問いかけると、ナインはこちらを見つめてくる。どうやら許可を待っているらしい。


 そんな彼女に俺は一つコクリと頷いた。


「マスターの了承を確認。後に続きます。」


「では参りましょう。」


 そしてジャックはナインのことを連れて、部屋を出ていってしまう。


「それじゃあ俺はギルドに行こうかな。」


 ダンジョンについてリルに報告しないといけないからな。


 流石に真っ昼間だからリルが酒に溺れてることはないと思いたい。そう願いながら俺はギルドへと向かって足を進めた。










 いざ、ギルドの扉を開けてみると、やはり少し酒臭い。酒場にはリルの姿はないが、何人かの男達が酒盛りをしている。

 そんな男達を無視して受け付けに向かうと、せっせと働いているいつもの受付嬢に声をかけた。


「すみません。」


「あ、は~い……ってぇっ!?あ、あなたはカオルさんですよね!?ダンジョンに行ったんじゃ……。」


「攻略を終えたので帰ってきました。」


 あっさりとそう答えると、彼女は一瞬ポカンとした表情を浮かべる。そして我に返ると……。


「い、今リルさんのこと呼んできます!!」


 我に返った彼女はパタパタと2階へと駆け上がっていく。すると、すぐにリルと一緒に戻ってきた。


「わぉ……ホントに帰ってきてるじゃん?もっと時間かかるかと思ってたんだけどね。」


「こっちもその予定で準備を整えて挑んだんですけど、ダンジョンの中で事情が変わって……急遽早く攻略してきました。」


「事情が変わった?……まぁその辺の話はあっちで詳しく聞こっかな。ロベルタは隣でメモとってくれる?」


「え、リルさんがメモとるんじゃ?」


「その辺はロベルタの方が得意だしね~。私は酔えば何書いてるかわかんなくなるし。」


「お酒飲む前提なんですね!?もぅ、分かりました。」


 そして酒場で一つの席を囲むと、リルは早速酒を注文し始める。


「キミはいいのかい?」


「アルマ様の食事の準備に支障が出てはいけないので今回は……。」


「わかったよ。それじゃあ今回は私一人で飲もっかな~。」


 意気揚々と言った彼女に、ロベルタと呼ばれていた受付嬢はジト目でポツリと口を開く。


「別に飲まなくてもいいんですよリルさん?」


「生憎そういうわけにはいかないんだよね~。」


 そして運ばれてきたジョッキいっぱいに注がれた発泡酒をぐいっと流し込むと、幸せそうな表情を彼女は浮かべた。


「ぷはーっ!!さいこ~!!」


 ゴクゴクと勢いよくあっという間にそれを飲み干した彼女は、次を頼んでいる間にようやく本題に入った。


「えっと、それじゃあ早速ダンジョンについて教えてくれるかな?」


「ダンジョンはセーフエリアとボス階層を含めると全部で五階層のダンジョンでした。」


「全五階層のダンジョンと……。」


 リルの横でロベルタはカリカリとメモを取る。


「一階層は平原のような広い場所で、二階層は海。三階層がセーフエリアで、四階層が迷路。で、五階層がボス階層です。」


「なるほどね~。それだけなら普通のダンジョンみたいだけど、中で事情が変わったって言ってたよね?それは?」


「ダンジョンの中と外では時間の流れが違いました。ダンジョンの中の1日が、外では約2日ほど時間が経ってました。」


「あ~……そういうことね。」


 納得したようにリルは頷く。


「あと、ゲートガーディアンはいなかった?」


「一階層と四階層にいましたよ。」


「やっぱりいたか~……難しいダンジョンみたいだからもしかしてとは思ってたけど。」


 追加で運ばれてきた酒を飲みながらリルは言った。


「2体もゲートガーディアンがいるなら、攻略難度はAクラスで確定だね。」


 どうやらゲートガーディアンの数も攻略難度の基準になるらしい。


「あと、最後に……ボスはどんな感じだった?強かった?」


「ボスはとんでもなく強かったですよ。名前はわかりませんでしたけど……見た目は人間に近かったですね。」


「人型かぁ……。ダンジョンに出てくる人型の魔物って強いヤツが多いんだよね。知能も高いし……。」


 まさかそのダンジョンのボスが今、城でメイドとして育てられているとは口が裂けても言えない。そして人造人間アンドロイドであるということも……。


 しかし、そんなに深く追求されることはなく意外とあっさり聴取は終わった。


「それじゃロベルタ、それあいつらに売り付けといてくれる?」


「いくらで売りますか?」


「う~ん、そうだなぁ……。攻略難度Aだし、白金貨2枚位で。もし値切ってきたら売らなくていいよ。」


「了解しました。」


「あ、あとコピーも忘れずにね。」


「は~い。」


 するとロベルタはパタパタと受付の奥へ行ってしまった。


「あの情報が売れるんですか?」


「うん、その収益の一部がキミへの報酬になるよ。だから報酬はもう少し待っててね。」


「わかりました。」


 にしても結構な値段で売り付けるんだな。白金貨2枚か……約二百万。とんでもない金額だ。それを値切ったら売らなくていいという、リルのドケチな一面にも俺は驚きを隠せなかった。

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