第046話 ダンジョンからの帰還


 ナインが切り裂いた空間を通って見るとそこはダンジョンの入り口があった場所だった。


「おぉ……本当に戻って来れた。その機械の剣すごいな。」


「これは私……ナインにミラ博士が与えてくれた専用武器です。この世に存在する、ありとあらゆるものを切り裂くことが可能です。時間も、空間も、生物も、元素もすべてが切れます。」


「なんとまぁ物騒な武器だの。間違っても我のことを切るでないぞ。」


 ナインが自分の剣について説明すると、ラピスは少し物騒な目で彼女のことを見ている。まぁ説明が説明なだけにそういう風な印象になるのも無理はないか。


「この剣はマスターのためだけに振るいます。マスターのご命令がない限り、マスターののあなたには振るいません。」


 機械式の剣をどこかにしまい、そう語ったナインのある言葉にラピスは首を傾げた。


「むむ?おい、ナインとやら今、我のことを何と言った?」


「……?あなたはマスターのではないのですか?DNA情報では確かにそう記録されていましたが。」


「我は威厳あるスカイブルードラゴンのルナ・ラピスラズリだっ!!」


 そう大声を上げるラピスにナインは首をかしげて言った。


「はい、それはマスターのDNA情報でわかっています。」


「ならばなぜなどという認識になるのだ!?おかしいではないかっ!?」


「ですが、マスターはそう解釈しているようですよ?」


「なんとなっ!?」


 ラピスはナインに詰め寄っていたが標的を変えて突然こちらに詰め寄ってきた。


「お、おいカオル!!おぬしのなかでは我はペットという解釈なのか!?」


「い、いや……そんなことは思ってないぞ?」


 多分……。


 いやでも前にそんな風に思ったことあったかな……。もしかすると、それをさっきので読み取られてしまったのかもしてない。

 後々面倒なことになる前にナインに違うと説明しておいた方が良いかもしれないな。


「あ~、ナイン?ラピスはペットじゃなくて……俺の仲間だから認識を改めてくれ。」


「承知しました。それでは情報を更新します。」


 そっとナインは目をつぶると、ぽつぽつと呟き始めた。


「情報を更新。種族名スカイブルードラゴン、名ルナ・ラピスラズリをマスターのペットから仲間に変更。」


 そしてナインが再びを開けると、ラピスが問いかけた。


「それで我がペットなどという不名誉な認識は改められたのか?」


「はい、問題なく作業は完了しました。」


「そうか、ならばよい。」


 ほっとラピスは胸をなでおろす。


 と、ダンジョンから出て来て早々そんなやり取りをしていたのだが、そこで俺は重要なことを思い出した。


「おっと、こんなところで道草を食ってる場合じゃないぞラピス。」


「む?」


「早く近くの街に行って今の時間を調べないと……。」


 ダンジョンの中の時間と、ここで流れていた時間の速さが違うらしいから早く時間を確認しないといけない。そして歩みを進めようとしたその時ナインがポツリと言った。


「現在時刻は、刻歴1420年5月7日14時23分です。」


「5月7日?ってことはダンジョンの中にいた時間よりちょっと進んでるのか。」


 ダンジョンの中にいたのは約1日。出発したのが5日だから、時間にして2日程度経ってるな。早めに攻略できてよかったと心から思う。あと1日ダンジョンの中にいたらアルマ様の食料が尽きてしまうところだった。


「よし、それなら早いとこ帰ろう。」


「飯は食わんのか?」


「帰ったら美味いのをたらふく作ってやるよ。」


「おぉ!!それは楽しみだの!!」


 帰れば美味しいごはんが待っているということにラピスは目を輝かせた。


「そうと決まれば早く帰るのだ!!行くぞ!!」


 そして一人ずんずんと歩きだしてしまったラピス。彼女の後ろに着いて行こうとすると……。


「マスター。」


「ん?」


 ふと、後ろからナインに呼び止められた。


「提案があります。最短距離で目的地にたどり着くのなら空間を切って場所をつないだ方が効率的かと。」


「でも行ったことのない場所に行けるのか?」


「問題ありません。マスターのDNA情報から位置は割り出してありますので、ご命令とあればいつでも……。」


 それなら歩いて帰るよりもはるかに楽だな。それに早いし。


 俺はラピスを呼び止めるとさっそくナインにそれをお願いすることにした。


武装展開マーシャル・オン。」


 ナインが右手を横に伸ばすと、再び機械仕掛けの剣が彼女の手に握られた。

 そして横に一閃すると空間に大きな切れ目が入る。


「マスター、完了しました。」


「ありがとう。これでショートカットできる。」


 ナインが切り開いた空間に足を踏み入れると、次の瞬間には魔王城の目の前に着いていた。後に続いてラピスとナインの二人もこちらに渡ってきた。


「着いたのだ~!!カオル、飯だ!!我は腹が減ったぞ~!!」


「あっ、おいラピス!!」


 待ちきれないようにラピスは城の中へと走っていってしまった。

 

 そして彼女とすれ違うようにジャックが城の中からこちらにゆっくりと歩いてくる。


「おかえりなさいませカオル様。」


「ただいま戻りました。」


「ホッホッホ、ご無事で何よりでした。それと、見知らぬ御方を連れられているようですが……そちらは?」


「あ、えっと……。」


 ナインについて説明しようとすると、ナインはスッと前に出て自己紹介を始めた。


「お初お目にかかります。今の私の名前はナイン。ミラ博士に作られた9番目の人造人間アンドロイドです。訳あって今はマスターの護衛にあたっています。」


「おやおや、これは丁寧にありがとうございます。私はジャックと申します。このお城で執事を務めております。」


 互いに軽く自己紹介を終えると、ジャックはにこりと笑ってこちらを向いた。


「どうやらダンジョンの中で色々あったようですな。」


「えぇ……まぁ、それについては話すと長くなるので、詳細は中で話します。」


「ホッホッホ、面白い土産話を期待しております。」


 彼とともに城へと入った俺は、アルマ様とラピスにご飯を作り、その後彼にナインがどうして着いてくることになってしまったのか詳しく話すことになった。


 そして状況を理解したジャックは一つ大きく頷いた。


「なるほど、つまりはカオル様はそちらのナイン様の保護対象になってしまったということですな。」


「まぁそういうことなんです……。」


「それにしても、そのミラという女性の言っていたという言葉、どうも気にかかりますなぁ。ナイン様は何かご存知ではないのですか?」


「終末とはミラ博士の未来予測により発覚した、大災害のことです。」


 ジャックの問いかけに物騒なことを言い始めるナイン。


「大災害?」


 俺が思わずそう聞き返すと、更に彼女は続けた。


「詳細な内容は不明ですが、ミラ博士によれば、何年か後…………とある魔物が復活するとか。その魔物は魔王や勇者の力を遥かに凌駕し、世界に終焉をもたらす魔物だとミラ博士が遺した記録に残っています。」


「魔王様や勇者の力を凌駕する魔物……ですか。」


 彼女の言葉にジャックは顎に手を添えて俯いた。


「にわかには信じがたい話ですが、無下にもできない話ですな。もう少し詳しく聞かせて頂いても?それとあなたを作ったミラ博士という人物についても……。」


 そして俺とジャックはナインから終末のことと、ナイン達を作ったミラ博士という人物について聞くことになった。

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