第045話 ナイン
ラピスを突き飛ばした瞬間、俺の目に映ったのは腹に深々と機械仕掛けの剣が突き刺さっている光景だった。
「う…………ん?」
しかし、激痛が襲い来るかと思いきや、腹部に妙な圧迫感はあるもののなぜか体の調子がどんどん良くなっていく。
不思議に思って目の前に立つヤツに視線を向けると……。
「
「は……え?」
ヤツは突然そう言うと、俺の腹から剣を抜いた。すると不思議なことに剣が刺さっていたような跡はなかった。それに先ほどまで揺れていた視界も元に戻っているし、体調がすこぶる良い……。いったい何をされたんだ?
自分の身に何が起こったのかわからずに呆然としていると、ラピスが鬼の形相でこちらに走ってくる。
「貴様ーーーッ!!カオルに何をするかッ!!」
「ラピス!!俺は大丈夫だ。」
「む、むっ!?カオルおぬし……刃で貫かれていたはずだが?なぜそんなにケロッとしている?」
「それはわからない。でもこいつが何か教えてくれそうだぞ。」
傍らで立ち尽くしていたヤツは、何やら黒い球体のようなものを取り出すとこちらに差し出してきた。
「もう私に敵対の意志はありません。こちらをお聞きください。」
少し疑いながらも、それを受け取るとブオン……という起動音とともにディスプレイが現れ映像が流れ始めた。
映像に映っていたのは一人の女性。彼女は画角を調節するとこちらを向いて話し始めた。
「あ~、あ~、テステス……聞こえてるね?私の名前はミラ。おそらくこれを見ているキミは、私の作り出した
「コード9999?」
そういえばさっき何かそんなことをポツポツ言っていたような。
「コード9999というのは保護すべき特別なスキルや技量を持った何者かに彼女たちが遭遇した時に適応される特別なコードさ。まぁいわゆるキミみたいな存在のことだよ。」
ディスプレイの奥に映る女性はコード9999について語る。
「そんな貴重な存在はこの世の中に必要だ。後に来るであろう
「終末?いったい何のことなんだ?」
いまいちこのディスプレイの奥にいるミラという女性の言っていることがわからない。
「まぁ、私の言っていることの大半が理解できないだろうけど。今キミに理解してほしいのは、その
その映像を共に見ていたラピスが首をかしげながら口を開く。
「……つまりこやつはカオルの僕になったということか?」
「よくわからないがそういうことらしい。」
ラピスとミラという女性の言っていることをまとめていると、ミラという女性は最後に……と口にする。
「最後に……私が作り出した
一方的に彼女がそう告げるとディスプレイは消えてしまった。彼女の話を聞いた後、ラピスとともに
「全てはご覧いただいた映像の通りです。これより
「シリアルナンバーナインってのがキミの名前なのか?」
「肯定します。ミラ博士からは簡略に
「それじゃあ俺もそう呼ばせてもらおうかな。」
「承知しました。個体名を
な、なんか呼び方を変えただけですごい処理が行われているような……。
「次にマスターの基本情報を登録します。」
「基本情報?」
「マスターのDNA情報から記憶をたどりその情報を記録します。」
「DNAっていったいどうや…………んむっ!?」
「な、なななっ────ひ、人前で何をしておるのだッ!?」
いったいどうやってDNAなんて採取するのだろうと疑問に思い、口に出していたその時突然ナインが俺の口の中ににゅるりと舌をねじ込んできたのだ。
「んむっ、れぇ~……。突然失礼いたします。DNAの解析器官は……んちゅっ、舌に内蔵されていますので。」
どんなところに内蔵してんだッ!!
そんなことを思っている間にもナインの舌は口内を隅々まで這いまわり、俺の舌に絡みついてくる。
「んむぐ……。」
「はわわわわわわわ……見ちゃおれん!!」
見ちゃおれんと言ってラピスはこの光景を見ないように両手で顔を覆い隠すが、やはり興味があるのか指の隙間から覗いていた。
そして幾分か時間が経った後長い……長い接吻からようやく解放された。
「ぷはっ!!はぁっ……はぁ……。」
「ご苦労様でした。DNAの解析は完了いたしました。DNA情報によりミズノ カオル様をマスターとして登録しました。」
「こ、これで終わりなのか?」
「はい。」
はぁ……まったくまさかファーストキスがこんな形で奪われてしまうなんて。想像もしてなかったぞ。まぁ固執するものでもないんだが……ってか
そんなことを思っていると、ふと先ほどの映像のミラの言葉が脳内にフラシュバックする。
「私が作り出した
……まさか一人一人仲間にする度にこれをやらされるわけじゃあないよな?
その疑問をナインにぶつけてみたかったが、答えが怖くて質問できなかった。
「お、終わったか?」
「あ、ラピス……。もう大丈夫、終わったみたいだ。」
「そ、そうか。それにしてもナインとやら、おぬし人前で接吻するとは何事だ!?恥ずかしさはないのか!?」
「そのような感情は持ち合わせておりません。」
「む、むぅ……。」
きっぱりとそう返されたラピスは、言葉に詰まってしまう。
「も、もうよい。それよりも早くこのダンジョンを出る方法を探すぞ。外でいったいどれほど時間が経っておるのかわからんからな。」
「それでしたら私にお任せください。」
ナインはそう言うと、機械仕掛けの剣をおもむろに横に薙ぐ。すると何もなかった空間にパックリと大きな切れ目ができた。
「これを通れば外に出られます。」
「ほぉ……その剣いろいろな能力が備わっておるのだな。先ほどカオルの体を癒したのもそれの力か。」
「はい。その通りです。」
「それでも剣を刺されたときは生きた心地がしなかったけどな。」
「それは大変申し訳ありませんでした。何分急を要するものでしたので。」
ナインにはいろいろ聞きたいことがあるが一先ずこのダンジョンを出るのが先だ。そう判断すると、彼女が開いた空間の切れ目へと俺は足を踏み入れた。
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