第044話 ダンジョンボス。
押し寄せてくる魔物から逃げるように次の階段を下っていると、今度は大広間のような開けた場所にたどり着いた。そこで最も異色を放っていたのはとんでもなく大きな金属製の扉。俺の背丈の何倍もあるような大きな扉だ。
ラピスはそれを見ると、コクリと一つ頷いてこちらに視線を送ってきた。
「カオル、どうやらここが最終層らしい。」
「やっとか。」
ここに来るまでにかかった時間はこのダンジョンの中ではおそらく一日かかっているかいないかだ。ラピスの腹時計は当てにならない。ここは自分の時間感覚で予想するしかないのだ。
「それで?ずいぶん大きな扉があるが……この先には何が待ってるんだ?」
「おそらくはこのダンジョンのボスが鎮座しているに違いない。」
「今までのゲートガーディアンよりも強いのか?」
「あやつらとは比べ物にならんだろう。心してかからねばならん。」
さっきのオートマタよりも強いのか……いよいよ一人で戦うなんて言ってられないな。
「カオル、さっき魔力を使っていたようだが回復せんでもよいか?」
「問題ない。それよりも早くここを攻略するのが先だ。」
「わかった。では行こう。」
ラピスは先頭に立つと、大きな扉に手を添えた。すると、まるで来たものを誘うように自然と扉が開き始めたのだ。
しかし、扉の手前から覗く部屋の中は暗い。スキルの夜目を持っていたとしても先が見えない。
そんな空間にラピスは物怖じせずにずんずんと入っていく。それに続いて中に入ると背後の扉がゆっくりと閉まり、部屋の中に光が灯った。
「ラピス!!扉が閉まったぞ!?」
「慌てるでない。ここにいるボスを倒せばまた開く。一度ボスの部屋にはいれば最後、ボスを倒すまでは扉は開かんのだ。」
「そういうことは先に言ってくれよ。」
そう言ってくれたのなら入るかどうか考えたのに……。
だが、入ってしまったからにはもう何を言っても遅い。後悔先に立たずとはこの事だな。
諦めて目先のことに専念するべく前を向くと、部屋の中心に巨大な魔法陣が現れた。
「カオル、来るぞ。」
「あぁ。」
そしてバチバチと魔法陣から電気が走り、そこから人のような何かが姿を現した。
それはゆっくりと紫色の瞳を開くと、こちらを見つめてくる。
「人……なのか?」
「カオル、見た目に騙されるな。あれは……
そう口にしたラピスの表情は険しく、一つ冷や汗が流れていた。
すると、現れた人らしき者が口を開く。
「
ポツポツとそう口にすると、それは右手を横に伸ばした。
「
するとどこからともなく、伸ばした右手の先にスラリと緩やかな曲線を描く機械仕掛けの剣が現れた。
その剣をこちらに突きつけると、それは言った。
「2体の生命反応を感知。
そう口にした次の瞬間だった。目の前からそれの姿が掻き消える。それと同時に時間がピタリと動きを止めた。
「ッ!!」
時間が止まった瞬間には、ヤツが手にしていた機械仕掛けの剣がラピスの首もとに迫っていた。
急いで彼女のことを引っ張ると、時間がまた動き始める。
「むぉっ!?」
「……………?」
時間が動き出すと、ラピスの目の前を剣先が通り過ぎていく。
「た、助かったぞカオル。」
「それよりラピス、あれ見えたか?」
「いや、動きの挙動も何も見えんかった。気がつけばおぬしに引っ張られ、ヤツの剣が目の前を通りすぎていたのだ。」
ラピスですら反応できない速度。どんだけ速いんだ……もし危険予知がなかったら、首が体を離れていたかもしれない。
一方、ヤツは攻撃を外したことに首をかしげていた。
「ERROR……ERROR……。原因を解析―――――――――
またぶつぶつと何かを呟くと、今度はラピスではなく俺に視線を向けてきた。
「カオル来るぞ!!」
「わかってる!!」
今度は見逃さない……。最大限に警戒を高め、待ち構えていたのだが、どれだけ集中していて、瞬きすらしていなくてもヤツは突然目の前から姿を消した。
そしてまたピタリと時が止まる。
「うぉっ……。」
時が止まり、ようやくヤツの姿が露になる。ヤツはいつの間にか俺の背後に回り込んでいたのだ。
機械仕掛けの剣を、上段に構えているヤツの前から退くが、時が動き始める気配がない。
疑問に思い更に横に距離をとると、ようやく時が動き始めた。それと同時に、ヤツが剣を振り下ろす。その衝撃波が直線上にある全てを切り裂いた。
(なるほど、あれがあるから動かなかったのか。)
隙のない二段構えってヤツだな。
「…………?」
ヤツはまたしても攻撃を外して首をかしげている。
その隙に攻撃に移ろうとした時、俺の体に異変が起こった。
「~~~ぐッ!?」
「カオル!?」
突然激しい頭痛に襲われ、鼻血がポトポトと流れ出したのだ。
攻撃は食らっていない……なのにこの有り様ということは、考えられる可能性は危険予知の反動か?確かに連続で多様したことはなかったし……結構長い間時間が止まった中にいたからな。反動があってもおかしくない。
「だ、大丈夫だ。」
溢れ出ていた鼻血を出しきり呼吸を楽にすると、俺は立ち上がってラピスに告げた。
「次…………。」
「次?」
「次に攻撃が来たとき……俺が隙を作る。デカいの一発頼む。」
「大丈夫なのかの?」
「問題ない。それにヤツの今の標的は俺だ。俺がやらないといけないんだ。」
そしてヤツに視線を向けると、ヤツもこちらをじっと見つめてきた。
「リストにないスキル。効果は不明。新しいサンプルとして登録。」
「はっ……新しいサンプルね。そんな大層なもんじゃないけどな。」
「不明なダメージの蓄積を確認。スキルの連続使用は不可能と判断。攻撃再開。」
こちらの状況を冷静に見極めると、ヤツは再び目の前から姿を消した。そして……時間が止まる。
「お前と戦って……俺もこのスキルについて学べたよ。」
後ろを振り返ると、ヤツの刃が体に触れる寸前だった。どうやら連続使用によってスキルの発動も鈍くなってきているらしい。
「ありがとな。」
ふぅ……と一つ息を吐き出すと、俺はヤツの体に何度も何度も拳を叩き込んだ。まるで硬い金属を殴っているような手応えだったが、構わず何度も叩き込んだ。
そしてヤツから離れると時間が動き始める。
「……………!?!?」
それと同時にヤツの体が大きくのけぞった。先ほど加えた攻撃のお陰だ。
その作り出した隙に乗じてラピスが攻撃を加える。
「
ヤツに急激に近付いたラピスは両手から巨大な光線を放った。
ヤツはラピスの大技を食らい、ダンジョンの壁にめり込んだ。ピクリとも動かなくなったことを確認した彼女は、俺の方に近寄ってきた。
「カオル!!大丈夫か?」
「な、なんとかな。ちょっと視界が揺れてる位だ。」
近寄ってきたラピスの顔もハッキリとしない。目の焦点が合わない。それにひどい頭痛だ。
連続使用がこんなに負担がかかるものだったとは……。
賭場に行ったときは散々使ったのに……あのときと何が違うってんだ?
おぼろげな視界でふと疑問に思っていると、視界の端にユラリと何かが動くのが見えた。
「ッ!!ラピス!!」
「む?」
体に残った力でとっさにラピスを突き飛ばす。その次の瞬間、俺の体に剣が生えていた。
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