第043話 vsオートマタ


 腕から出た凶器で襲いかかってきたオートマタの攻撃を二手に別れて避ける。そして間髪入れず、ラピスが反撃に移った。


「ほっ!!」


 瑠璃色の鱗を纏った拳は、勢い良くオートマタの頭を捉えるが――――――。


「むっ?硬いな。」


 ラピスの拳はオートマタの硬い外骨格に阻まれ、ダメージを与えるには至らなかった。その後ラピスへとオートマタが反撃を繰り出すが、彼女は攻撃が届く前に飛び退き、俺のとなりに着地した。


「カオル、あのオートマタ硬すぎて物理攻撃が通らぬ。」


「一階層のゲートガーディアンと同じ感じか。なら今度は俺が行こう。」


 オートマタへと向かって走りだす。そして間近に迫ったとき、手に魔力を纏わせた。


「魔装っ!!」


 そう口にした瞬間、手に魔力の刀が象られる。それをオートマタへと向かって振り下ろした。


「はぁっ!!」


「魔力ニヨル攻撃ヲ感知。防壁展開。」


 しかし、攻撃がオートマタに届く前に見えない何かに攻撃が受け止められてしまう。


「な、なんだ!?」


「リフレクション。」


 驚いていたのも束の間、突然衝撃波に襲われ吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「ぐっ……。」


 背中から叩きつけられたから肺の空気が抜けて呼吸が苦しい。大きく息を吸って呼吸を整えていると、オートマタが目の前に迫っていた。


「攻撃開始。」


「させるか戯けっ!!」


 呼吸を整えていた俺に容赦なく攻撃をしてこようとしたオートマタをラピスは力任せに蹴飛ばして、大きく吹き飛ばした。


「カオル、大事ないか?」


「大丈夫、ちょっと背中を打っただけだ。」


 呼吸を整えて立ち上がると、俺はラピスに問いかけた。


「ラピス、さっき攻撃しようとしたら吹き飛ばされたんだが……あれはなんだ?」


「恐らくは反発魔法だ。魔法攻撃の威力をそのまま相手に弾き返す厄介な魔法だの。」


「物理攻撃も通らないのに、魔法攻撃も通らないのか。」


 まさに鉄壁の守りだな。


「どうする?ラピス。」


「まぁ普通なら……逃げるが吉だろうが、生憎やつは上手くダンジョンの階段を守っている。無理矢理抜けるのはリスクが高い。」


「ならやっぱり倒すしかないってことだな。」


「うむ、それも魔法攻撃は反発されるゆえ……物理攻撃でするぞ。」


「了解した。」


 答えは簡単だった。物理攻撃でゴリ押す……一番簡単だな。


「我が先頭に立って攻撃する。カオルはそれに合わせるのだ。」


「わかった。」


「では行くぞっ!!」


 タン……とラピスは地面を蹴ってオートマタへと向かっていく。


「さぁ、我と存分に死合おうではないか?」


 ラピスはオートマタの攻撃を鱗で受け止めながら、攻撃を何度も何度も叩き込んでいく。隙をみてラピスの攻撃に合わせて俺も全力の一撃を加える。


 そして絶え間なく攻撃を続けていると、オートマタに異変が起こった。


「ザザ…………装甲耐久値……ザザザ……減、少。」


 オートマタの話す声にノイズが走り始めたのだ。そして、今まで攻撃を通さなかったオートマタの装甲に、そこかしこにヒビが入り始めていた。


「カオル!!畳み掛けるぞ!!」


「おう!!」


 その言葉を合図に、さらに攻撃のペースを加速させると、最初は一部分だったヒビがオートマタの体全体に広がっていく。

 そして最後に俺が攻撃を加えたときだった……。


「機能……停止。ザザッ―――――――――。」


 ノイズの走った音声とともにオートマタは青い粒子となって俺の体に吸収された。


「ふぅ………一時はどうなることかと思ったが、なんとかなったな。」


「まぁ、大半は我の奮戦のお陰だの。」


 むはははは……とラピスは高らかに笑う。そんな彼女に俺は問いかけた。


「それよりも、だいぶオートマタの攻撃を受け止めてたみたいだけど、怪我はないか?」


「むっふっふ、我の鱗を纏わせた侮ってもらっては困るぞ?この自慢の鱗は最強の盾であり矛だ。あんなちんけな刃物で傷付くような代物ではない。」


 ニヤリと笑うと、彼女はこちらに瑠璃色に輝く鱗を自慢するようにチラチラと見せてきた。

 どうやら心配するだけ野暮だったらしい。


「なら良いんだけどさ。」


 そして、青い粒子となったオートマタが全て体に吸収されたとき、声が響く。


『レベルが1上昇しました。』


「おっ、またレベルアップだ。」


 一階層のように一気にレベルが上がることはなかったが、1上がっただけでも儲けものだ。


「またレベルアップか、このダンジョンに来てからずっとレベルアップしてないかおぬし……。」


「まぁまだラピスよりもレベルが圧倒的に低いからな。これでようやく36だぞ?」


「36?……我がもう何十年、いや何百年か前に通りすぎた場所だの。」


「逆にそこまでレベルをあげてるラピスのがおかしいんだっての。」


「まぁ我らはほぼ不老のようなものだからな。時間は限りなく無限にある故、レベルも際限なく上がっていくのだ。」


 トンでも生物だなドラゴンってヤツは……。不老なんて俺がいた地球の人達が望んでやまないものなんだがな。


 ドラゴンという種族の凄さに改めて呆れていると、先ほどオートマタのいた場所で、チャリ……と金属が床に落ちる音が聞こえた。


「ん?」


 音のしたほうに視線を向けると、そこには一本の鍵が落ちていた。


「これは……一体?」


 落ちていた鍵を拾い上げて眺めていると、ラピスが言った。


「恐らくはこのダンジョンにある、鍵のかかった何かしらに使える鍵なのだろう。ゲートガーディアンは意味のない代物をこういう風に落としたりはしない。」


「でも、ここに来るまでに鍵のかかったものなんてあったか?」


「恐らくはこの先にあるのではないか?我もここまでそのような物は目にしておらん。」


「ならもっと先に進まないとこいつの使い道はわからないってことか。」


「あくまでも憶測の話だがの。我らがどこかで見落としている可能性も無きにしもあらずだ。」


 確かに一階層とかそんなの探している暇なかったからな。次の階層へと続く階段を探すので精一杯だった。見逃していたとしてもおかしくない。


「まぁ、過ぎてしまったことを思い返すのは無駄だ。今は先にある可能性を信じた方がよい。」


「そうだな。」


 ラピスの言葉に頷くと、また彼女に手をとられた。


「本当ならば少し休んでいきたいところだが、そうもいかんようだからな。先に進むぞ。」


 チラリと後ろを振り返ると、先ほどまで通路ですし詰めになっていた魔物が押し寄せていていた。


 オートマタを倒したことで、すっかり警戒を緩めてしまっていた。ラピスには感謝しかない。


 ってか、よくよく思い返してみれば……このダンジョンにおいて、リルが言っていたことが真逆になっているような気がする。

 彼女は俺にラピスの行動を良く注意しておけと言っていたが、ここまでたどり着いた時点では立場が逆だ。


 そんなことを思いながら俺達は次の階層へと歩みを進めたのだった。

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