第042話 ダンジョン四階層


 心地よく微睡みの中をさ迷っていると……。


「カオル~っ!!起きるのだ~っ!!」


「うぐっ!?」


 ボフボフとラピスが腹の上に乗しかかり、何度も何度も腰を落としてきたのだ。たまらず目を覚ますと、こちらが起きたことに気がついた彼女は笑う。


「寝坊助め、やっと起きたか。」


「目覚ましにも、もっとマシなやり方があるんじゃないか?」


「ふん!!これも我を侮辱した罰だ。」


 ぴょんとジャンプしてラピスは俺の体の上から退いた。


「ふぅ……んで?どのぐらい寝てた?」


「我の腹時計によると4時間ほどだな。」


「う~ん、絶対にあてにならないな。」


 胸を張ってそう言った彼女に少し呆れながら、収納袋から懐中時計を取り出した。ボタンを押して蓋を開けて時間を確認してみると――――――。


「ん?」


 まるで狂ってしまったように、時計の全ての針がグルグルとひたすらに回っていたのだ。


「時計は使い物にならないってことか。」


 あきらめてそれを再びしまおうと思ったその時、ラピスに手を掴まれた。


「カオルそれを良く見せるのだ。」


「ん、あぁ。」


 言われた通りに彼女に懐中時計を見せると、彼女は訝しげな表情を浮かべて一つ頷いた。そして俺の方を向くと彼女は言った。


「カオルよ、どうやらこのダンジョン……外の世界とは時の流れが違うのかもしれん。」


「時の流れが違う?どういうことだ?」


「簡単な話、このダンジョンの中での一時間が向こうでは数倍の時間になっていたり、はたまたこのダンジョンの中の時間は外よりも早く、そんなに時間が経っていない可能性もある。」


「……ってことは、今こうしている間にも外の世界ではかなり時間が経っているかもしれないってことか。」


「あくまでも可能性の話だがの。だが、その時計の異様な動きを見る限りこのダンジョンの中の時間が狂っていることに間違いはない。」


 そうとなれば休んでいる暇は無くなった。できればその情報はもっと早くに気が付くべきだったな。


「ラピス、休んでる暇がなくなった。一刻も早くこのダンジョンをクリアしよう。」


「うむ、そうしたほうが良いな。」


 そう決心した俺の行動は速かった。せっせとテントを片付けると、寝袋などもまとめて収納袋に放り込んで出発の準備を整えた。


「よし、行こう。セーフエリアにたどり着いたってことは最終層までもう少しなんだろ?」


「そのはずだ。」


「この先からはできるだけ魔物との戦闘は避けて、次の階層を見つけることだけに専念しよう。」


 さすがにこんな予想外の事態が起きているのに悠長にレベルアップのことなんて考えてられない。今最優先すべきなのは一刻も早くこのダンジョンを攻略するのみだ。


 そして、ラピスとともに俺はセーフエリアを抜けて次の階層へと歩みを進めた。










 セーフエリアを抜けた次の階層は、まるで迷路のような空間だった。本来ならば次の階層の入り口を探すのに時間を食うような階層の作りだが……こういう迷路には必勝法があるんだよ。


「カオル、どっちに行く?」


 左右に分かれた道を前にしてラピスが問いかけてきた。


「こんなの決まってる。だ。」


 こういう複雑に入り組んだ迷路を攻略するには左手の法則が最も有効だ。左手を壁につけ、通路を進む。そうすれば同じ道を行ったり来たりすることは無い。あてずっぽうで道を進むのは運が良ければ、最短ルートで行けるかもしれないが、まずこの広さでは無理だろう。


「行くぞラピス。」


「うむ!!」


 そして左手の法則に従って俺たちは迷路を突き進み始めた。もちろんこの階層では、魔物は大量に出現してきた。だがほとんど一本道ということもあり、囲まれることは無い。故に常に前に現れる一体を相手取るだけだから、さほど問題ではない。が、攻略の足止めになってくるのには間違いない。


 迷いなく迷路を進む俺についてくるラピスだったが、不安になったのか背後から問いかけてきた。


「カオル迷いなく進んでいるようだが……本当にこっちで合ってるのか?」


「知らん!!」


「なんとな!?」


 進んでいる道が合ってるのか合ってないのかはわからない。だが、少しずつ目的の階段に近づいてきているのは間違いない。


「いいから着いてきてくれ、いずれ着く。」


「うむむむ、わかった。」


 ラピスを無理やり納得させると、俺は魔物を倒しながら前へ前へと進む。すると、進んでいた迷路の先に開けた場所が見えてきた。


「あそこは……。」


 道を阻む魔物を倒して進んでいると、遂にその開けた部屋へとたどり着いた。部屋の中心には機械人形のようなものが項垂れており、そのさらに奥には階段も見える。


「おぉ!!本当に着いたの。」


「だから言ったろ?ついて来いってさ。」


 まぁ今回は運が良かった方だ。仮に最初の分かれ道の右側にゴールがあった場合、一周してこないといけなかったわけだからな。


「それで……あの機械人形は、ゲートガーディアンなのか?」


「うむ、間違いない。おそらくは魔力を編み込んだパーツで作られた魔物だ。」


「強いのか?」


「わからん、ダンジョンのオートマタとは戦ったことがない。それに、ゲートガーディアンの称号を持っている魔物は普通よりもかなり強い。常識は通じぬ。」


「なるほど。」


 ちらりと後ろを見ると、先ほど通ってきた迷路には大量の魔物がひしめいている。この部屋には入って来ないようだが、後戻りはできない。


 そして再び視線をオートマタに戻した時だった。うつむいていたオートマタに瞳に赤い光が宿り、こちらを向いたのだ。


「カオル来るぞ。」


「わかってる。」


 オートマタの行動を警戒していると、突然オートマタの口が開く。


「警告シマス。タダチニ立チ去リナサイ。」


「しゃべるオートマタか。ずいぶん高性能だの。」


 そうラピスが軽口をたたくと、オートマタの両腕から様々な武装が現れる。


「警告無視ヲ確認。対象ヲ無力化シマス。」


 そしていまにも飛びかかってきそうなオートマタを前に俺はラピスに問いかける。


「ラピス、無力化って……殺しはしないでくれるのかな?」


「そんなわけなかろうが!!そんなことを言っている暇があったら構えるのだ。」


「冗談だよ。」


 そんな会話をしているうちにオートマタは、体の部品をを魔力で紫色に光らせこちらに向かってきた。

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